63.王家の青
「悲惨だ」
「うむ、効果的なやり方だな」
「少々、やり過ぎなのではないでしょうか」
「ひでぇー」
たった今、ハッタが侵入者を甚振る映像を見せられた俺達の感想だ。一人だけ、おかしなヤツがいるが、極度の脳筋だから気にしないでくれ。
「皆さんに喜んでもらえて何よりです。頑張って、侵入者をハメた甲斐があったと云うものですよ。やはり、お笑いはリアルガチな天然者には敵いませんね」
と、大変に満足気なハッタさんだが、どうすれば俺達が喜んで見えるのだろうか。どう見ても俺達は、ドン引きしているよ。
「おお、いけませんね。大切な事を忘れるところでした。侵入者の一人に、皆さんが見覚えのある面白い人物が混ざっていましたよ」
そう言ってメインスクリーンに映し出した男性の顔は、昨夜宮殿にて3エルフの入室を拒否して、俺達を怒らせた青っぽい軍服を着ていた衛士だった。
ハッタの報告時はチンピラの仕業と思っていたのだが、侵入者が『本来の持ち主の家臣である我々』と映像の中で言っていたので、もしかしてと思っていたのだがビンゴだったよ。
コイツらは、ニワトリ並みのアホだな。いや、コイツらと一緒にするとニワトリに失礼かな。なにせ素人だけで軍艦に乗り込んで、占拠できると思った事が凄い。凄いアホだ!
失敗する事なんて、考えもしなかったんだろうな。だからプロを雇う訳でも無く、自分達だけでノコノコとやってきたんだろうな。こんなアホな連中は、絶滅危惧種である事を願うぜ。
「マスター。先程から近衛護衛艦チェスケー・ブジェヨヴィツェ、カドレチェク艦長からデーターリンク通信が入っています。『何処へ行くにも同行するので指示を願う。願わくば、僚艦たる近衛護衛艦ウースチー・ナド・ラベムを暫し待たれたし』と」
指令室を覆うドームスクリーンにて確認するとチェスケー・ブジェヨヴィツェは、左後方にて防御フイールドを展開して滞空している。そして、ウースチー・ナド・ラベムは、まだ防御フイールドを展開していないが上昇してきている。
「続けてカドレチェク艦長からデーターリンク通信あり、『軌道上に在る、宇宙軍管轄の宇宙軍港へ向かわれるべきとを具申する』だそうですよ。案外とカドレチェク艦長は、良い提案をしますね。流石は、当艦をリスペクトしてやまない近衛護衛艦艦長ですね。私の指示にも、狂いなく従いますしね」
そうか、ハッタがカドレチェク艦長を気に入っているのは、王家の丘へ降下時にチェスケー・ブジェヨヴィツェがデルタ陣形を崩さなかったからか。となると、ウースチー・ナド・ラベムのドルホシュ艦長は……。
「ウースチー・ナド・ラベムのドルホシュ艦長とは、連絡がついているの?」
「さぁ、あのような暑苦しいだけで、私の指示を守れぬ者の事など知りません。しかし、近衛護衛艦ウースチー・ナド・ラベムの反応が遅いので、恐らくは当直の者達だけで操船して、艦長本人は乗艦していないのではないでしょうか。
それよりも、近衛護衛艦ウースチー・ナド・ラベムも防御フイールドの展開が終わりましたよ。ドルホシュなどと云う役立たずは放って於いて、さっさと軌道上へ上がりましょう。
そして、当艦の上部甲板に傷を付けて於いて、唯で済むと思っている愚か者達を主砲斉射出来る場所を占有しましょう」
はぁ、ドルホシュ艦長に対する評価と態度が酷過ぎるよ。ちょっとミスっただけなのにね。それに……、
「上部甲板を傷付けろと命令した愚か者は、クロムニェジーシュ王宮に住んでいるよ。嘗てオティーリエ王女も暮らしていたクロムニェジーシュ王宮を、ハッタは消し去るのかい?」
「ぬぐぐくぐ。では、あの馬鹿王太子がクロムニェジーシュ王宮を出たところを、レールガンにてピンポイント狙撃しましょう。そうしましょう。そうすれば、クロムニェジーシュ王宮も傷付かずに問題無しです」
「問題あり捲りです。馬鹿王太子の事はクベリーク首相と政府に任せて、俺達は宇宙軍港へ向かおう。そこで、軍に侵入者達を渡す。ドルホシュ艦長は後で合流してもらおう。
はい! ハッタ! 両近衛護衛艦にデーターリンク通信をして、その後上昇、大気圏離脱!」
俺の指示で、総旗艦フラデツ・クラーロヴェーは二隻の近衛護衛艦を引き連れて、夜の首都上空で防御フイールドを輝かせながら大気圏外へ上昇して行った。そして、その姿は多くのシュクヴォル王国国民の目撃する事となる。
「これは東郷提督、ドヴール・クラーロヴェーを離れるには、少々早くないですかな。もっともクロムニェジーシュ王宮が、あれだけの騒ぎを起こせば嫌気が差すのも致し方ないですがね」
二隻の近衛護衛艦を引き連れて軌道上に上がると直ぐに、宇宙軍第一艦隊司令マトウシュ・ドビアーシュ提督から通信が入った。ドビアーシュ提督も、俺達がたった二日滞在しただけで起きた騒動をご存じのようだ。
「今晩はドビアーシュ提督。お騒がせして申し訳ありません。それにドビアーシュ提督にはお手数をお掛けして申し訳ないのですが、当艦に侵入した者達を捕えてありますので、引き取っていただけませんか。侵入者の中にクロムニェジーシュ王宮の衛士が入っておりまして、当艦では身柄の拘束に相応しくありませんから」
相応しくありませんからなんて言っているが、本心は『ここに於いておくと、ハッタが遊び半分で甚振るから、とっとと連れて行ってくれ』だったりする。その為に、初日に宮殿内で3エルフの入室を拒否した青っぽい軍服の衛士が居たことを詳しく説明して伝えた。
「はぁ、あの者共は王家の青を纏っている重さを理解しておらぬようですな。なんとも嘆かわしい事だ」
ドビアーシュ提督が捕捉で説明してくれたのだが、王家を象徴する色として『青』を使用しているらしい。
王家の中でも位が高くなる程に濃い青を使用し、両陛下、王太子又は王太女、その他の殿下達、親族などなどと徐々に薄くなっていき、王家直属の家臣達も青っぽい制服を使用するとのこと。なので青っぽい軍服の衛士達は、昨日王太子位に就いた馬鹿の直属である為に、他の衛士とは違う色を身に着けていたそうだ。
そう、だからこそ王家座乗艦である総旗艦フラデツ・クラーロヴェーは、とても深いメタリックがかった濃い青色をしている。
しかし、その話を聞いて思い起こしてみると、ジジイ陛下とババア陛下に馬鹿王太子の三人はベージュ色の衣装で、ダヌシュカ王女殿下とマクスミリアン王子殿下は青い衣装だった。
つまりジジイとババアと馬鹿は、最初から俺を歓迎するつもりなど無かったということか。やり方まで、陰湿なヤツラだな。あのまま残っていても、出てくる料理はぶぶ漬けを意味する物だったかもな。
「まぁ、小官も王族や政治に関わりたくないので、さっさと司法へ引き渡しをしましょう。総旗艦フラデツ・クラーロヴェーは、宇宙軍港にお入り頂けると連絡を受けておりますので、このまま立ち去らずに我が国の面目を守って下さる事に感謝しております。軍港なので大したもてなしは出来ませぬが、残り数日をご安心してお過ごし下さい」
「ご迷惑とお手数をお掛けするのに、温かく迎えて下さりありがとうございます。僅かですが、厄介になります」
ドビアーシュ提督もそうだが、シュクヴォル王国に来て一部の愚か者達を除いて皆が親切にしてくれ、俺達を歓迎してくれる。そんな人達に、そんな国に不義理はしたくないから、明日も明後日も予定通りの行動をするつもりだ。その結果、俺の株はストップ高まで上がり、馬鹿王太子はストップ安になるだろうぜ。グヒヒヒ。
そんなダークサイドな感情は一切日表情に出さず、ドビアーシュ提督に丁寧に感謝の言葉を伝え、二隻の近衛護衛艦と共に宇宙軍港へ入港した。
「おい、拓留。もう今日は、何も無いんだろ。夕飯を作ってくれ。何も食べてないんだ、腹が減った。私は、里芋の煮っ転がしが良い」
「ああ、里芋の煮っ転がしか良いね。あと、何か酒の肴になる物も頼むぜ」
「私は、豚汁を多めに下さい」
この3エルフ共は、これから手間の掛かる料理を作れと言いやがったよ。今何時だと思っていらしゃるのかしら?
「これから食事を作ったら、何時になるか判らないよ。今晩は、非常食です」
「「ええっええ! そ、そんな酷過ぎる」」
「非常食。私は、参謀だから食べ慣れてないんですけど……」
ブーブー文句言っているが、君達の非常食ってそんなにマズイの? 俺の言っている非常食って、カップラーメンの事だよ。色んな種類を大量に持ち込んでいるから、中には気に入る者も有ると思うよ。
結果、最初は胡散臭げに見ていたが、クリスティーナとヴィーヴィは3個、エルヴィは2個のカップラーメンを完食した。因みに俺は1個。だって、夜半にカップラーメンを何個も食べたら、次の朝は胃もたれするもの。
そんなこんなで俺は、漸く2日目を終えた。
昔から、東西を問わず身分を表すのに色を使う事は良くありますよね。
ローマ帝国は、皇帝と王家は紫。
中国も紫から黄色に成ったりしています。
日本も、冠位十二階を色によって細かく分けていたりします。
と云う訳で、総旗艦フラデツ・クラーロヴェーが、湾岸高速を300Kmで爆走する悪魔のZと同じミッドナイトブルーなのは、王家の色だったからなんですよ。
因みに、あの漫画に拓留の後輩が1コマだけ登場しているそうです。
『熊ちゃん、後ヨロシク』『はい』だったかな。
これで判る人がいたら凄い!




