62.楽しい拷問のやり方
宮殿の中を、それぞれの護衛を引き連れ歩く俺とクベリーク首相。そして、俺は少々クベリーク首相からクレームを受けていた。
「提督。腹立たしいのは判るのですが、アスピヴァーラの護衛官を嗾けるのは少々やり過ぎですよ」
あっ、やっぱ、クリスティーナにサイン出したの見られていたよ。
「はっ、はは。本気ではありませんでしたよ。だいたい王太子殿下も決闘だと言いながら、自分で戦う気など無かったでしょうから、アスピヴァーラの機械化装甲兵を全面出せば収まると思ったのですよ」
嘘です。クベリーク首相ごめんなさい。本当は、一瞬真っ二つにしてやれと思いましたし、少なくとも泣かすぐらいする心算でした。
「ふぅー、やはり提督は、オティーリエ王女殿下の御子孫なのですね。王女殿下も、平時は色々と愉快な事をなさる方ですが、尊厳を犯す者達は誰であろうと徹底的に打ちのめしたとの逸話が多く残っております」
やっぱ、ご先祖様は、色々と愉快な逸話を残す方だったのね。あっ、って事は俺も愉快なヤローだと思われている可能性アリだ。
「しかしながら、提督に総旗艦フラデツ・クラーロヴェーの所有について煩わせる事はしないと言っておいて、王太子殿下を説得できなかったのは申し訳ないと思っています。政府としては、今回の件は有耶無耶にしませんので、提督も程々でご納得して下さい」
クベリーク首相は、『納得して下さい』と言っているが、言葉には『子供じゃあるまいし、もう止めんか』との意味が含まれている事ぐらい俺にも判る。確かに、クベリーク首相の言う通りだね。後は、クベリーク首相と政府に任せよう。などと思いながら、クベリーク首相と二人並んで正面玄関の大扉を抜けると……。
「提督…………、あれは?」
「……どうやら、ハッタは本気で戦闘態勢に入ったみたいですね」
俺達の視線の先には、夜空に防御フイールドを輝かせながら王家の丘の上空に滞空する総旗艦フラデツ・クラーロヴェーが見えた。
ハッタのヤツ、本当に首都上空で戦闘態勢に入りやがった。俺と馬鹿王太子の遣り取りを聞いていたはずだから、馬鹿王太子を揺さぶる為に大袈裟な表現をしたと思っていたのに……。
クベリーク首相は呆気にとられ総旗艦フラデツ・クラーロヴェーを見詰めていたが、俺は視線の隅で白い軍服の衛士が並んで敬礼をしているのに気が付いた。ならば、ここは……。
「残念だが、本日も早々に立ち去る事になったよ」
俺は、クベリーク首相に小言を言われる前に白い軍服の衛士に話し掛けながら、一人で……、いや3エルフと一緒に宮殿から出て行く。
「提督。またの御来訪を心待ちにしています」
「ああ、その時は、もっとゆっくり滞在するように出来たら良いね」
俺達は会釈をしながら、やや速足にてクベリーク首相から逃げるように振り返る事も無くリムジンカーに乗り込む。だって、クベリーク首相がどんな顔をしているか、怖くて確かめられないんだもの。
「提督。お早いお帰りで。王家の丘へ向かいますか? それともホテルへ向かいますか?」
「今晩もまた、晩餐会を途中退席してしまいましたよ。先ずは、ホテルへお願いします。荷物を持ってくるので、その後王家の丘へお願いします」
「了解しました。では、早速向かいます」
警備兵達は、俺の指示を何も異論も疑問も挟まずに実行してくれているが、どうやら2エルフは複雑な顔をしているよ。どったの?
「二人とも、どうかしたの?」
眉を寄せているクリスティーナとエルヴィの士官組に尋ねてみた。因みにヴィーヴィは、窓の外を眺めている。警戒しているんだよね?
「その事に関しましては、総旗艦フラデツ・クラーロヴェーに到着してから……」
「エルヴィ、間怠っこしい言い方は止せ。拓留には、はっきり言ったほうが良い」
エルヴィは、何かを俺に話したかったんだろう。それは、このリムジンカーの中では言い辛い事だったので、総旗艦フラデツ・クラーロヴェーで話し合いを持ちたかったのだろう。が、クリスティーナには、細かい事を気にしない人。そしてヴィーヴィは……、やっぱり全く話を聞いている様子がない。我関せずだな。
「エルヴィ、言いたい事が有るのなら、君は俺の助言者なのだからハッキリ言ってくれて構わない。それに俺は、アスピヴァーラ国軍人もシュクヴォル王国軍人も信用しているから、聞かれて困る事なんて無いよ」
「そうですか……。では、今回の件は確かに王室庭園管理局側に落ち度が有りますが、少々遣り過ぎではないでしょうか。我々アスピヴァーラ国の事を思って下さるのは嬉しいのですが、その事に因って拓留のシュクヴォル王国に於ける立場が悪くなると思われます。先ずは、拓留の事を一番にお考え下さい。我々に関する事柄は、我々が対処しますから」
ああ、そうか。エルヴィ達は、アスピヴァーラを立つ時に合流したから、俺が純粋にアスピヴァーラ国との関係性を重視して、今回り行動を取ったと思ったんだな。余計な心配をさせちゃったみたいだから、ちゃんと説明しておこう。
「皆に心配させちゃったかな。まぁ、今回の事で皆が切欠の一つである事は否定しないけど、元々俺はあの馬鹿王太子の事を気に入らなかったんだよ。
総旗艦フラデツ・クラーロヴェーを俺が所有する事は、法的にも認められているのに、しつこく何度も何度も王家が正当な所有者だと言い張りやがった。
だから一度シメてやろうと思って、連合議会議長やアスピヴァーラ国総統にシュクヴォル王国首相、それにシュクヴォル王国国民と軍人を味方に付けたのさ。ああ、おまけにモルダヴィア帝国首相ものね。
あの馬鹿王太子が、詫びを入れてきたり俺の滞在中は大人しくしていれば、俺も一言二言嫌味を言って終わらせるつもりだったんだけどね。だけど、馬鹿王太子が先に仕掛けてきたんだ。俺が中途半端な反撃で止めれば、また何か碌でもない事をするだろうから、ここはキッチリと思い知らせる必要があるよね」
「だから中尉殿、俺と少佐殿が言ったでしょ。拓留は基本的に争いを好まないのに、あの馬鹿相手に一歩も引かないのは其れなりの理由が有るって。だいたいハッタ殿が付いているんですから、下手をうったりしませって。心配し過ぎなんですよ」
おや、話しに興味が無いと思っていたヴィーヴィが、ちゃんと話を聞いていたようだ。どうやら、三人の間で話し合いが有ったようだな。それで実動派の二人と、参謀派のエルヴィで意見が食い違ったのかな。
「前以て三人に説明をしなかったのは、俺が悪かった。でも、総旗艦フラデツ・クラーロヴェーの侵入者を捉えれば終わりだろう」
「ありがとうございます、拓留。侵入者の対応についてもお聞きしたいのですが、ホテルへ向かわずに総旗艦フラデツ・クラーロヴェーへ急いだほうが良いのではないですか?」
「ああ、その件もだけどね。王族には全て伝えていないんだけど、ハッタから侵入者の情報がもう少し有ってね。
侵入者は、8人でパワードスーツなどは身に着けず、全身黒い服を着て銃と爆発物らしき物を所持しているらしい。だが、非常に段取りが悪いらしく、とても軍事訓練を受けた者達とは思えないそうだ。
総旗艦フラデツ・クラーロヴェーの上部甲板に航空機で降下した時もギリギリだったらしく、もう少しで艦から落下するところだったらしい。
この事から、軍事関係者以外が侵入を図っているとハッタは判断していたよ。まぁ、だからハッタに任せておけば侵入者は捕まるさ。ただ、そんな状況なのに本気で戦闘態勢を取ると思わなかったよ……。
で、今後の事だけど、基本的にはクベリーク首相と政府に任せるけど、また馬鹿王太子が何か仕掛けてくると面倒なのでホテルを引き払って総旗艦フラデツ・クラーロヴェーへ戻ろうと思う」
そうなんだよね。俺がハッタへ『全力を尽くせ』なんて言いつつも、防御フイールドを展開した総旗艦フラデツ・クラーロヴェーに驚いたのは、侵入者が素人ぼっいから『ちょいと捻ってやんな』ぐらいにしか思っていなかったからだ。という訳で俺は、ハッタと総旗艦フラデツ・クラーロヴェーの心配をしていない。
実際にハッタへ通信をしても『この通信は、電波の届かない場所に居るか電源を切っているので繋がりません』とふざけた案内が流れるだけだ。恐らくだが、侵入者相手に遊んでいるんだろう。それに、どうせ馬鹿王太子の手下が裏から手を回して、大方チンピラでも雇ったんだろうからな、少々痛い目に合うが良いぜ。
「そうですか、そこまで考えているのでしたら、余計な口出しでしたね」
「いいや、エルヴィには助言者の役割を期待しているから、気になる事は何でも言って欲しい。それにクリスティーナとヴィーヴィの二人を信用しているから、どのような場所でも恐れずにいられる。三人とも頼りにしているよ」
「「ああ」」
「はい」
よし、取り敢えず三人と今後の行動確認と俺の気持ちが伝わったかな。
「だが、拓留。あの王太子が決闘だとぬかした時、私にサインを出したが、あの時は真っ二つにしてやると思ったんだろ。ここで始末して於かなくて良いのか?」
うん、ちゃんとクリスティーナには、俺の気持ちと考えが伝わっていたよ。もう少しで「血まみれのクリスティーナ」を実演してもらうところだったよ。クベリーク首相、決闘を止めてくれてありがとうございました。
そんなクリスティーナとの以心伝心過ぎるハンドサインに、ややビビリながらもホテル経由で総旗艦フラデツ・クラーロヴェーに到着した。
「おや、マスターお早いお帰りですね。もっと、ゆっくりしても良かったんですよ」
「総旗艦フラデツ・クラーロヴェーが防御フイールドを展開しているから、大騒ぎになっているんだよ。だから、急いで来たんだよ」
そうクロムニェジーシュ王宮を出た直後は、馬鹿王太子に一泡吹かせ良い気分になっていてたので事態を軽く考えていたのだが、ホテルに到着して警護兵達の慌ただしい動きとホテルにぞくぞくと集まってくる民衆、そして警護隊長の大佐の『まるで革命前夜ですね』との言葉にヤバイぐらい大騒ぎになっとるやんけと愕然とした。
そして大急ぎで荷物を纏め大佐に『総旗艦フラデツ・クラーロヴェーへ居を移す』と伝えホテルを後にし、これまたぞくぞくと大集合して王家の丘まで続いている民衆を掻き分けるようにして総旗艦フラデツ・クラーロヴェーへ戻った。
「で状況の説明をしてくれ。侵入者は、どうなった?」
「ああ、あのお笑い集団ですか。あのリアクション芸人達なら、拘束して倉庫に転がしてありますよ。とっても良い芸を見せてくれました。あれなら、M1グランプリのファイナリストに残るの確実ですね」
侵入者をリアクション芸人とか呼んでるし、俺の通信に反応しない時点で遊んでいるのだろうと思ってはいたが、どうやらトコトン満足するまで甚振ったらしい。心做しか、スクリーンに映るハッタの肌がツヤツヤしている気がするよ。
「ハッタ殿。では、我々の出番は無しと云う事かな」
「いえ、少佐達には、侵入者達を警備部隊への引き渡しをお願いしたいのです」
「ああ、了解した。しかし、それだけとは、何ともつまらぬな」
「おや、そうですか。では、侵入者たちのお笑い映像でも観賞しませんか。再生、ポチッとな」
何が観賞しませんかだよ、見せる気マンマンだったくせに! そんな俺の思いとは余所に、侵入者達を捉えた映像が流れ始める。
10人ぐらいは乗れそうな中型航空機が、フラフラしながら地面スレスレに飛びながら徐々に総旗艦フラデツ・クラーロヴェーへ近づいてくる。そして、総旗艦フラデツ・クラーロヴェーの至近距離で上昇したかと思うと上部甲板に降下した。しかし、その降下は、監視に見付からぬように慌てていたのか、かなり乱暴で垂直離着陸出来る筈なのに上部甲板を何度かバウンドして上部甲板ギリギリで止まった。
当然の事であるが、王家の丘の監視達は接近してくる航空機に気付いており警告を発していた。搭乗者が無視をしたのか通信機をオフにしていたのかは判らないが、航空機からモタモタと降機してきているところを見ると、通信機をオフにしていてまだ気づかれていないと思っているのだろう。
そして侵入者達は、バラバラになって侵入口を探し始めたが、夜間で視界が悪く十数分経って漸く舷門を発見した。この頃になると、監視兵から司令部経由でハッタに連絡が入っているのだが、俺の指示を受けて適宜対応すると答えたそうだ。
ワラワラと集合した侵入者が、舷門に爆薬を仕掛けようとした時点ではハッタは俺に連絡を取る事無く、勝手に舷門を開き侵入者を艦内へ入れていた。そして、嬉々として俺に、侵入者に攻撃されていると連絡してきたのだった。
突然舷門が開き驚く侵入者達が恐る恐る艦内に入ると、一切の抵抗も警備アンドロイドの姿も無いので『AIが、本来の持ち主の家臣である我々を迎え入れたのだ!』などど頭の悪い発言をしている。
艦内を歩み始めた侵入者達は、所々隔壁が閉鎖されている艦内通路を右に曲がったり左に曲がったり時にはエレベーターで上下したりと、グルグル廻される事にに文句を言いながらも排除行為が無い事に気を良くして艦内を闊歩していた。
お気楽な侵入者一行が、性悪なハッタにまんまと導かれて辿り着いたのは、内火艇の発進所から続く倉庫だった。この倉庫は、発進所から敵が侵入して来た時に迎撃するシステムを備えており、壁や床なども戦闘が有ったとしても容易に破壊できないようになっている。
倉庫に侵入者一行が警戒する事も無く入った瞬間に、全ての出入り口を封鎖したハッタは、先ず侵入者一行の持つ銃や爆発物などの装備品を迎撃レーザーガンにて狙撃。
銃や爆弾が突然に爆発して吹っ飛ばされて驚く侵入者達は、生体保護フイールドのお蔭で大した怪我は無く直ぐに立ち上がる。いや、直ぐにではないな。侵入者達の行動を言葉で表現すると、『ノロノロ』とか『モタモタ』だな。素人丸出しな姿に、3エルフが溜息をしているよ。そして、そこからハッタ曰く、侵入者達のリアクション芸が始まる。
ハッタは、失神しない程度の電磁パルス銃を侵入者達に、絶妙の間隔で撃ち続けた。電磁パルス銃に撃たれた侵入者達は、『アバババァ~』とか『ギァァァァァ~』とかの悲鳴を上げながら電気ショックで痙攣している。そして、弱ってきた者には少し間を開けて、回復してから再び電磁パルス銃を撃ちこんでいる。
昔テレビで見たお笑い芸人達が、電気ショックで床をのた打ち回る場面を侵入者達が実演してくれている。その映像を見ながらハッタは、アメコミのキャラのように腹を抱えて爆笑しているが、俺達はドン引きしていた。だって、侵入者達のありとあらゆる穴から体液が流れ出していて、とても笑いながら直視できる映像で無いのだもの。
侵入者達を十数分程も甚振ったハッタは満足したのであろうか、かなり強めの電磁パルス銃を撃ちこんで失神させてあげたようだった。総旗艦フラデツ・クラーロヴェーへ侵入した者達だが、この映像を見ると同情してしまうよ。これは、殺された方がマシと思うぐらい辛いよね。
しかし、ハッタのお仕置きは終わってはいなかった。ツィリルとボフミラの二人が、ゴム長を履いてデッキブラシと水の入ったバケツを手にして倉庫に入って来た。そして、失神して倒れている侵入者達にバケツの水をぶっ掛けて、おもむろにデッキブラシで侵入者達の身体中をゴシゴシと洗い始めたよ。
デッキブラシで擦られる痛みで目を覚ました者達は、また電磁パルス銃で撃たれエビのように仰け反って痙攣している。なんとも惨い仕打ちだ。起きてしまった惨劇の映像を見ている俺の精神が、ゴリゴリと削られていく気がするよ。
結局侵入者達は、ロボ太達がお替りで持って来た大量の水で、垂れ流した体液がすっかり無くなるまでゴシゴシと洗われ続ける拷問を受けた。そして、手足を拘束されて別の倉庫に転がされている。これは凄惨な拷問を面白おかしく実行出来る、新たな手法をハッタは開発してしまったのではないだろうか。
そんなこんなで俺は、気が付けば騒ぎを大きくしてしまっていた。
僕の中で電気ショック芸人と言えば、「電撃ネットワーク」だ! って電気ショック芸はしないんですけどね。
昔、外国人の男性から日本語で
「電撃ネットワーク、最高に面白いね。どこへ行けば、南部のライブ見れるのか?」
僕は
「誰それ?」
ネットの無かった時代、チケットピアで調べて彼とライブを見に行きました。
腹を抱えて笑う彼の横で、正直ドン引きの僕。
なんと、あの時の経験が役に立ち文章になった!




