61.不愉快な王太子
ホラショヴィツェ村から首都チェスキークルムロフへの帰りは、マクスミリアン王子と侍従長とは別行動だった。それは、俺がこれから様々な事情で親を亡くした子供達が住む養護施設を訪問するからだ。
宇宙船などの不慮の事故で親を亡くした子供達に、少しでも楽しい時間と僅かばかりの希望をあげたかったからだ。しかし、そんな予定にも割り込もうとした奴らがいた。勿論、侍従長だ。
あのアホが、直ぐにクロムニェジーシュ王宮へ来いとぬかしやがったので、『養護施設の訪問が、王家の強い希望で無くなりましたと報道機関の前で発表するよ』と伝えたら、ブツブツ文句を言いながら引き下がったよ。
どうも、クベリーク首相を晩餐会へ出席させるなとの命令が届いたらしく、直ぐに俺がクロムニェジーシュ王宮へ向かえば、クベリーク首相のスケジュールを調整できないだろうと小細工をしたらしい。
これはハッタが勝手に限界突破して、クロムニェジーシュ王宮の通信傍受して掴んだ情報だ。とっても有益な情報なので、ハッタを叱れなかったよ。
と云う事で、予定通りに養護施設へ向かい、その後は一端ホテルへ戻り、そして再度クロムニェジーシュ王宮へ赴くことになった。
昨夜と同じ時間に、同じリムジンカーと警備車両がホテルへ迎えにやって来た。いや今日は、警備車両が昨日よりも多いな。
昨夜と同じように挨拶をして、3エルフと乗り込むと……、
「提督に対して大変失礼を申しますが、ホテルへお帰りの際はどうかこの車両を御使い下さい。この車両は、要人が利用する事を前提に作られていますので、安全は保障いたします。
また、カドレチェク艦長の言葉ではありませんが、シュクヴォル王国はオティーリエ王女殿下の遺志を継がれる提督を失う訳にはいきません。必ずや、全シュクヴォル王国軍人が、提督の御身をお守りいたします」
あっ、そうか。昨夜は、置いてけぼりにしちゃったものんな。待ちぼうけだったのかな。悪いことしちゃったな。それにしても、ハッタ曰くフラグの回収の効果が凄い事。誰もが、オティーリエ王女殿下の遺志を継ぐ者だと疑っていないよ。でも、オティーリエ王女殿下の遺志って自由気儘に宇宙を駆ける事なんだけど、それでも良いの?
「判りました。どうやら皆さんには、迷惑を掛けたみたいですね。申し訳ありませんでした。もし、晩餐会を途中で席を立つことが有っても、ホテルまで送って下さいね」
「はっ」
どうやら、俺の謝罪と軽いジョークは流されたようだ。
昨夜と同じ道を走り、昨夜と同じクロムニェジーシュ王宮へ到着して、昨夜と同じ衛士がドアを開け挨拶をしてくれる。
「今夜もようこそ提督。昨夜は、無粋な者が、礼を欠き申し訳ありませんでした。本日こそは、晩餐をお楽しみ下さい」
「ありがとう。昨夜は、こちらこそ失礼したね。私の護衛官に投げられた者もいると思いますが、怪我は有りませんでしたか?」
「お気遣いありがとうございます。本人は、訓練不足と反省しております。良い機会となりましたので、お気になさらずとも結構です」
昨日、宮殿の外を警備していた衛士をクリスティーナが投げ飛ばしていたから、手加減しろとは言ったんだけどね。大した怪我が無くて良かったです。
俺に対して丁寧な対応をしてくれる衛士の皆さんは白い軍服を着てるけど、昨夜のふざけた態度の衛士や呼ばれもしないのにホテルへやって来た衛士は青っぽい軍服を着ている。
カドレチェク艦長が昨夜言っていた『中には、優秀な者達も居るのですが、皆冷や飯ぐらいになっていますよ』とは目の前の彼等の事だろう。今夜は、彼等には迷惑を掛けないようにしよう。俺に出来るのは、それぐらいなのだから。
「クベリーク首相閣下は、既に到着しております」
との言葉に、昨夜と同じように白い軍服の衛士に宮殿を先導され、昨夜と同じ場所へ辿り着いた。
「案内、ありがとうございました」
「はっ」
俺の感謝の言葉に、きびきびとした敬礼で返答して白い軍服の衛士は持ち場に帰って行った。そして、俺は扉の前に立つ昨夜とは違う青っぽい軍服の衛士に向かって……、
「今夜は、入室を拒否しないのか?」
と言ってやったぜ!
何も言い返して来ないが、その表情が不満アリと如実に物語っているぜ。自分達は間違っていないのだから、何をやっても構わないと思っているとな! 俺は、そんな考えの女と暮らしていたんだ。上辺だけで誤魔化したって、御見通したぜ!
一言も話さずに開けられた扉を抜け部屋の中に入ると、でっかいテーブルのお誕生日席に初老の男性が座っている。これが、国王のルフレートだろう。そして俺から見て左側、ルフレート国王の右側に初老の女性。こちらは、甘やかす事しか知らないヴラスチミラ王后だな。
その右隣に座っているのが、馬鹿王太子のミコラーシュ王太子だろう。なかなかのイケメン顔なのに、ニヤついた表情が精神的な貧しさを、これでもかと表しているよ。
そして、中年女性と今日式典でご一緒したマクスミリアン王子が続いて座っている。中年女性は、マクスミリアン王子の母親のダヌシュカ王女だろうな。
王族達の反対側は、クベリーク首相がぽつんと一人で座っている。だけど流石に一国の首相、その態度は堂々たるものだ。俺には、無理だな。
「本日は、お招き頂きましてありがとうございます。
総旗艦フラデツ・クラーロヴェー艦長、東郷拓留と申します」
部屋の中に、ゆっくり堂々と3エルフを引き連れて歩いて行き、でっかいテーブルの側で頭を下げ挨拶をする。
気分的に俺は、既に戦闘モードに入っているのだが、非礼な態度では、こちらの正当性を否定される恐れがあるので礼儀正しく挨拶をする。
「よくぞ来られた東郷提督。昨夜は、何やら不幸な行き違いが有ったようだが、提督が訪れて払拭されたというものだ」
おい、ジジイ。何しっれと、無かった事にしやがる。ジジイとババアが馬鹿を甘やかすから、揉めたんじゃねェーか! 謝罪しろとは言わんが、先ずは再発防止をするぐらい言えや!
「恐れながら陛下。昨夜の事は、行き違いなどで済まされる問題ではありません。シュクヴォル王国も批准している連合法を無視する、重大な違反行為です。
アスピヴァーラ国と友好的な関係を築いているとは言え、『種の存続に関わる事項』を無視したのですから問題にならぬ訳がございません。
シュクヴォル王国の事を一に思う陛下に於かれましては、今回の事を徹底的に調査するようにクベリーク首相に命ずるが良いと愚考いたします」
「正に愚考よな」
馬鹿が、何かほざいているが無視! 未だ続きが有るんだよ!
「それに、今回の件を政府が調査することは、既に侍従長殿が認めております。その場には、マクスミリアン殿下を始め、衛士、警護兵、政府関係者などが多数おりました。
じきに国民にも知れ渡る事でしょうから、政府に先んじて陛下から発表された方が国民の信頼を得る事になると思われます」
「首相、今の提督の話は真か?」
「はい、その通りです。陛下。近々、王室庭園管理局へ調査が入ります」
「むう……」
おや、陛下様はお気に入らぬようで。でもオメェーが、馬鹿を躾けねェーからこうなったんだよ。ジシイとババアが、子供の頃から馬鹿を矯正して於けば、ここまでの大事に成らなかったんだよ!
一方馬鹿王太子は、何の事だか理解していないようだ。馬鹿王太子の手足となっている衛士達が捥がれた時に、初めて気が付いて大騒ぎするんだろうな。
「さて、提督も立ったままでは食事も出来ますまい。こちらへどうぞ」
クベリーク首相が、良い切っ掛けをくれたので首相の隣の席へ座るとしよう。そこに、フォークとナイフが用意されているからな。
「さて提督、改めて王室の方々を紹介しましょう……」
クベリーク首相が丁寧に一人づつ紹介をしてくれるので、俺も一言ではあるが挨拶をするが、バハアと馬鹿は碌に挨拶もしねぇよ。ジジイは、最初に挨拶したから許すが、お前たちホスト側だろうが最低限の礼節ぐらい守れよ。俺だって、心中は無茶苦茶文句言っているけど礼儀を弁えているぞ。クベリーク首相も苦笑しているが、これが己の国の王家の有り様かと内心は唖然としているんじゃねェーのか。
結局、誠意のある礼節で王家の名に恥じぬ挨拶をしてくれたのは、ダヌシュカ王女とマクスミリアン王子の親子だけだったよ。
「では、今宵の出会いに乾杯だ」
「「「「「「乾杯」」」」」」
英邁なるジジイ陛下の音頭で、ワインらしき酒の入ったグラスを持って乾杯をするが目出度い雰囲気など欠片も無い。
未だ料理が運ばれこないので、ダヌシュカ王女とマクスミリアン王子の親子が俺を気遣ってくれ、色々と話題を振ってくれるので徐々に和やかな雰囲気になったが、馬鹿が口を開いたので親子の気遣いが全て台無しになったよ。
「おい、貴様。いったい、いつになったら俺様に返すのか」
馬鹿の言葉にジシイとバハアは平然としているが、ダヌシュカ王女とマクスミリアン王子、それにクベリーク首相は眉を顰めさせる。皆さん、『馬鹿が、余計な事言いやがって』と云うところかな。
「おや、王太子殿下とは初対面のハズですが、何かを貸し借りした覚えはありませんね。それとも、夢の中で私が何か借受けましたか? だとしたら、ベッドの中で返済を求めて下さい」
クベリーク首相、御免なさい。俺は、この馬鹿相手に怒りが限界突破しているので、我慢する気全くないです。クベリーク首相に同席してもらったのは、巻き込む為だったりします。
しかし、馬鹿が『俺様』って言いよった。『俺様』と云う言葉が、一番日本語に近い言葉だからそう訳されたんだろうけど、この国の人ってどう思っているんだろ? 日本で、実際に『俺様』って言ってたら絶対に友人減るぜ。
「貴様、その言葉、王家に対して不敬であろう。罪に問うてくれよう。それが嫌なら、総旗艦フラデツ・クラーロヴェーを差し出すが良い」
この馬鹿、底が浅! もう馬脚を現したぜ! もっと、相手を追い込んでからでないと反撃されちゃうよ。そう、俺みたいなヤツから!
「おやおや、些細な事で他者を罪に落とすと脅しますか。その態度こそ、王家の方として如何なものでしょうか。どう思われますか首相?」
「王太子殿下は、もう少し落ち着きを持たれて下さい。孰れ王位に就かれるのですから。それにオティーリエ王女の血筋である提督には、国会決議で準王族としての待遇を約しましたので、不敬罪には問えませんよ」
そうなのである。初めてクベリーク首相と会談した時に、準王族の待遇について質問をしていたのである。その説明の中で、特別な権限は持たないが国家反逆罪と不敬罪は問われないと教えられている。もっとも、反乱なんか起こしたら罪に問われなくても、準王族扱いを取り上げられて国外追放だろうけどね。
また、王族として宮廷御用費と云う名目でお金をくれると言われたが、こちらは好感度をアゲアゲにする為に丁重にお断りした。そしたら、非常に有能な首相閣下様
は、『では、提督の名前で慈善団体へ寄付しましょう』だって。
と云う事なので、馬鹿が俺を不敬罪だと騒ごうが、俺は馬耳東風なのだ!
「くっ、成り上がり者が!」
馬鹿王太子は、苦虫を噛み潰したような顔をしているぜ。ざぁまぁ。ヨシ、これで『多分小説家だろう』の人気キーワード『ざぁまぁ』もゲットしたぜ!
「王太子殿下。いくら欲しい物でも、他者の物を横取りするのは感心できませんね。たとえ相手が、成り上がり者だとしても、王太子殿下の評判に関わりますよ。
ああ、そうでしたね。王太子殿下は、評価など気にせずに好きな事を発言される剛毅な方でしたね。私には、とても出来ませんよ。愚か者と罵られるのが怖くてね」
「俺様が、愚かだと言いたいのか!」
「今までの会話で、英邁と言えるお言葉が有りましたでしょうか? もし有ったのなら、最近交換した最新式の翻訳機が故障しているのでしょうね」
「よかろう、王族にそこまで減らず口を叩くのだ。覚悟は出来ていよう。決闘だ!」
馬鹿を煽ったら、キレちゃったよ。宜しいでは戦争だ! クリスティーナ発進だ! 真っ二つにしてやんな!
「はぁ~、王太子殿下。ホストがゲストに決闘を申し込んでどうするのですか。先程も申しましたが、もう少し落ち着きを持ち自身の発言を良くお考えになって御話し下さい」
「黙れ、クベリーク。ここまで虚仮にされて黙っていられるか!」
「その原因を作られたのは、王太子殿下ですよ。突然、提督の所有物を王太子殿下の物の如く仰って返せだの言えば、誰でも言い返すぐらいしますよ。もう一度言いますが、自身の発言を良くお考えになって御話し下さい」
俺がクリスティーナに、親指を下に向けた合図を送ったのをクベリーク首相に見られちゃったかな? クリスティーナが動く前に、クベリーク首相が諌めちゃったよ。
「提督も、ご不快なのは判りますが、あまり王太子を煽らないで下さい」
おや、こっちにもクレームが着ちゃったよ。でも、俺は不愉快だから、もう一言だけ。
「これは、皆様にも失礼致しました。私の尊敬する提督の言葉に『人を褒めるときは大きな声で、悪口を言うときにはより大きな声で!』と云うモノが有りまして、ついつい場も弁えずに実践してしまいました。皆様お許しを」
俺のとても謝罪とは言えない謝罪で、一瞬その場に水を打ったような静けさになるが……、
「流石は、圧倒的に不利な状況でも勝利を掴んだ東郷提督ですね。尊敬されている方まで剛毅な方なのですね」
「ええ、本当にそうですね。マクスミリアンの参考にさせたいので、その提督のお名前を教え下さいませんか?」
ダヌシュカ王女とマクスミリアン王子のお二人が、殊更に俺を褒め称えて雰囲気を変えようとちしているよ。お二人が、アンドルリーク王家の良心なのですね。でも、すみません。俺の尊敬している『ビッテンフェルト提督』は、未だ生まれていませんので紹介できません。
なんと答えて、この場を躱そうかと思っていたらハッタから通信が入った。
「申し訳ありませんが、総旗艦フラデツ・クラーロヴェーのAIから緊急通信が入りましたので失礼します」
ハッタからの通信内容なんて知らないが、利用出来そうなので口から出まかせを言ってみたら……、
「ハッタ、簡易スクリーンを展開して、皆様にも聞いて頂く。済まないが、もう一度報告してくれ」
「はい、マスター。現在、当艦は正体不明者から攻撃を受けております。正体不明者は、当艦上空から航空機によって上部甲板に降下後、舷門を破壊すべく爆発物を取り付けております。当艦防衛の為、対抗措置を許可頂きたいのです」
吃驚だ、瓢箪から駒が出たよ。ハッタの報告に、この場に居る方々も驚きを隠せないようだ。ただ一人の馬鹿を除いて。
俺は、晩餐会を抜け出す口実になると思い、ハッタの報告を方々に聞かせた。そのハッタの姿を見て、馬鹿が騒ぎたすだろうとと思い注視していたら、『やっべー、見付かちまったよ』てな顔をした。
今の俺には、怒りのフイルターが掛かっているので思い違いかもしれないが、この馬鹿王太子がハッタの姿を見て無反応なのは不自然だ。だって、シジイとババアがハッタの姿に文句言っているもの。
「宜しい、防衛のために全力を尽くせ」
「了解しました。当艦は、これより戦闘態勢に入ります」
俺とハッタの会話は、更なるざわめきを起こした。まぁ、そりゃね、巨大戦艦が首都で戦闘態勢に入ったんだから驚くよね。しかも、それが総旗艦フラデツ・クラーロヴェーだものね。でも、まぁ、ハッタも俺と馬鹿王太子の会話を聞いていたから、驚かせる為に言ったんだよ。まさか、首都で戦闘態勢なんか入らないよ。
「さて王家の皆様。私の乗艦が、侵入者に攻撃を受けようとしておりますので、私はこれにて失礼いたします。二晩に渡って、一口も料理を頂かない無礼をお許し下さい」
俺は、席から立ち白々しく一礼をする。皆、無言で俺を見ている。いや、馬鹿が口を開いた。
「無礼と判っているなら、席を立つのを許さん。食事を済ませてから行け」
この部屋にいる全員の……。俺達だけでなく、3エルフから衛士に給仕の方々まで全ての視線が、驚きを持って馬鹿に集中する。『何言ってんだ、コイツ』てなカンジで。
でも、まぁ、そりゃそうだよね、馬鹿王太子くん。オメェーが侵入指示を出したのなら、艦長の俺が戻るのを邪魔するよね。しかし、考え無しにそんな事を言っちゃうと……、
「陛下、私も事態の収拾の為に失礼致します」
ほら、クベリーク首相が気が付いちゃったよ。首相に睨まれてるよ、お馬鹿王太子様。じぁね、バイバイ御馬鹿ちゃん。
そんなこんなで俺は、不愉快なヤツラに仕返しをした。
俺様系の人って、歌舞伎町のホストしか会った事無いんですが、実在している人をご存知の方いますか?
因みに、そのホストの方は、『マツケンパラパラ』のPVで松平健さんと一緒に踊ってました。




