51.馬鹿と腹黒と救世主
「あ~ばばぁ~、づがれだよ~」
ホテルの部屋に戻った俺は、スーツも脱がずにベッドへ倒れ込んだ。
「おや、マスター、美人の総統と美味しいアスピヴァーラ料理を食べて、楽しそうだったじゃないですか。何故、そんなにお疲れで?」
確かに総統は、癒し系の美人エルフさんだ。アスピヴァーラ料理も、全体的に甘めだが美味しかった。何の肉か良く判らないが、真ん中にキノコの入ったミートローフのようなものや、これまた何の肉か判らないがローストが気に入った。更に、何の魚か判らないが、脂の乗った赤身の魚のスープも美味しかった。
しかし、総統閣下様と二人きりでロマンチックなディナーって訳無いじゃん。アスピヴァーラの政治家やら軍人やら財界人やらが、ウヨウヨいてゆっくり食事をするどころじゃなかったよ。
次から次に話し掛けられたり、質問されたりで、お蔭でキウイフルーツに良く似た果物で作ったワインを味わう暇も無かったよ。それでも、沢山食べて帰って来たけどね。
記者会見場で壇上に立った俺は、先ずンジェグ海賊艦隊戦て亡くなった方々を称えた。
警邏艦隊が、多大な犠牲を出しながらも持ちこたえてくれたから間に合ったこと。護衛艦隊が、絶対的に不利な条件にも関わらず総旗艦フラデツ・クラーロヴェーに従ってくれたこと。この二点が無ければ、勝利は掴めなかったと。だから、この戦いの真の英雄は、戦没者であると。
そして、最初に巡り会った中央銀河連合の国がアスピヴァーラ国で良かったと思っていること。高天原で、少々型破りな方々がいたが有効的な関係を築け、ここまで訪れることが出来たと。
軌道エレベーター地上部では、大勢の人々に驚き碌に挨拶も出来ずに済まなく思っていること。しかし、アスピヴァーラ国の人々が歓迎してくれていることをとても喜んでいること。
更には、名誉提督号を拝し、大変に名誉な事だと思っていること。そして、最後に……、
「私は、皆さんがご存じの通り辺境の地球という惑星から来ました。これから、中央銀河連合について、アスピヴァーラ国の皆さんについて、未だ学ぶことが多く、時には失敗をする事もあるでしょう。そんな時は、新米名誉提督だからも仕方ないと笑って許して下さい。私も、名誉提督の名を汚す真似はしませんから」
と言って、聴衆を程々に朗らかな気持ちにして締めくくった。そして、その後が食事会だった。食事会で唯一良かった事は、出席者の皆さんが全員美人エルフさんだったことだ。
「それは、それは、お疲れ様です。代わりに私の方は、全開バリバリに好調ですよ。どの国の王族を乗せても恥ずかしくない、貴賓室になりますよ」
「あまり無茶言ってないだろうね。迷惑かけるの止めてよね。だいたい王族を乗せる予定無いんだから」
「シュクヴォル王国のなんとか王子を乗せるかもしれないじゃないですか」
「ハッタ、お前あんなヤツ乗せたいのか?」
「くぅー、マスターが機嫌悪いからって、AIの私を虐めるー」
人聞きの悪い事を言うんじゃありません。俺の呼びかけを、何度も無視してまでのめり込んだという事は、修復関係者の皆さんに迷惑を掛けてきたということでしょ。叱るぐらいしますよ。
そんな疲れ切った俺が、ハッタの相手が面倒くさくなってきた頃、部屋のドアがノックされた。
「はい」
来客を確かめもせずにドアを開けると、そこには黒眼黒髪、ストレートロングヘアーの美人エルフさんが一人で立っていた。えっと、俺、エッチイーお店の女の子呼んでないよ。
「夜分、お疲れのところを突然申し訳ありません。私は、アスピヴァーラ国軍参謀本部のマリアンネ・ソイニンヴァーラ中佐と申します。申し訳ないのですが、提督閣下の時間を少々いただけませんか」
突然やって来たのは、身長170センチぐらい、白い肌、黒目黒髪の美人エルフさん。俺が、どうぞと言う前にとっと部屋の中に入ってくる、強引ぐ・マイウエイな女性。確か、パルヴィが腹黒って言ってた女性だよな。なんしに来たの、こんな時間に?
「おや、閣下。御一人なのですね」
「ええ、AIとアンドロイドを共に連れて、やって来ましたので」
あったりめージャン。それとも、エッチィー女の子呼べるサービスがあるんですか?
「閣下、私は一介の中佐ですから、敬語は無用ですよ」
「そうですか。しかし、私は俄か提督ですから、風格が身に着くまでは目溢し下さい」
何なのよ。とっとと、要件済ませて帰ってくんないかな。俺は、日本人だから別に黒目黒髪にプレミアム感を感じないので、特別扱いしないよ。おい、なんで勝手にソファーに座ってんだよ。俺が立ったままなのに!
「ふ~ん。レフティマキ少佐の報告と印象が違うとプリユラ大佐が言ってましたけど、確かに違いますね。結構堂々とした態度とか」
「ソイニンヴァーラ中佐。このような夜更けに、女性が男性の元を不用意に訪ねるものではありませんよ。もし火急の要件でしたら、速やかに処理をお願いします」
どんな意図があるのか判らねぇーけど、面倒くさい人の相手をするには、今日は疲れ切っててもう無理。早くイッテェー。
「そうですね。用兵は、神速を尊ぶと言います。では、どうぞ」
「はぁっ?」
内面はどうであれ、うら若き女性の前で間抜けな声を出したことを責めないで欲しい。
だって、夜に突然訪ねてきて、部屋に勝手に入り込んで、ソファーに座って足を組み、挙句の果てに『では、どうぞ』って訳判らん。
「ですから、どうぞ」
「…………」
何をどう返せば、会話が成立するのだろうか。こんな時にこそ、ハッタの助けが欲しいのだが、俺が困っている時に助け舟を出すことは無い。全くの役立たずめ!
俺が返答に窮して、ただ沈黙をしている時、またドアがノックされた。誰でも良いので、この場から助けてぇーとの気持ちで、またもや来客を確かめずにドアを空けると今度は……、
「やぁ、拓留遊びに来たぞ」
クリスティーナだったよ。馬鹿と腹黒が揃っちゃった。もう嫌。もう寝かせて下さい。
クリスティーナもクリスティーナで、強引ぐ・マイウエイな女性。俺に断りもせず、勝手に部屋に入り込んで、ソファーに座るソイニンヴァーラ中佐と目を合わせることとなる。
「「…………」」
無言で見つめあう二人。
「レフティマキ少佐ではないですか、このような時間にどうされたのですか」
「貴官こそ、このような時間にいかがした」
「「…………」」
何故こんな状況になった? 何故、二人は睨み合っているの? お願いします、誰か教えて下さい。そんな俺の願いが通じたのか、救世主が現れる。
「提督、夜分に失礼します。何かが挟まって、ドアが開いてましたよ。不用心で……」
なにやら分厚いカードのような物を手にしたラウタサロ大尉が、勝手に入ってきた。どいつもこいつもと思いもするが、ラウタサロ大尉の場合はドアが開いていたので、もしもを考えての行動だろうから許す。だから助けてぇー。
「ああ、それは私の物だ」
クリスティーナがラウタサロ大尉の持つぶ厚いカードに手を伸ばすが、大尉は手を引っ込めクリスティーナの手を躱し……、
「レフティマキ少佐、何故ここに居られるのですか。少佐は、謹慎中のはずですが」
「大尉、細かい事をいうな」
いや、駄目じゃん、クリスティーナ。また降格になるぞ。そして、ラウタサロ大尉は、ソファーに悠然と座るソイニンヴァーラ中佐に視線を移す。
「参謀本部のソイニンヴァーラ中佐が、このような時間に如何されたのですか。提督に関する案件は、現在広報が担当しておりますが」
と、とっても冷たいトーンのお声。あら、お二人って仲が悪いのかしら。
「今後の参考になるように、提督に先の戦いの御話しを聞きに来てだけですわ。でも、この状況では、ゆっくりと御話しをする訳にも行きませんね。日を改めるとしましょう。では、提督御機嫌よう」
勝手に部屋に入って来たソイニンヴァーラ中佐は、俺に一言残すと勝手に部屋から出て行った。キミ、何しに来たの?
「何をしに来たんだ、あの女は」
クリスティーナ、お前もだ。謹慎中に気軽に遊びに来るなよ。ほら、ラウタサロ大尉が睨んでいるよ。
ラウタサロ大尉が何かを口にしようとしたが、それを俺が遮った。だって、このままじゃ一向に話が進まないもの。
「ラウタサロ大尉。クリスティーナの事はおいといて、ラウタサロ大尉の要件を先にお願いします。クリスティーナは、ラウタサロ大尉が帰られる時に連れて帰って下さい」
ラウタサロ大尉をソファーに座らせ、対面に座り話を促そうとする俺。そして、勝手にベッドへダイブするクリスティーナ。本当にお前って、自由だよな。
「はぁ、そうですね」
大きく溜息を吐いて語りだしたラウタサロ大尉の話は、ちょっと吃驚というか情けないというか、若干心に刺さるものがある話だった。
俺とクーストネン総統の会談の様子は、編集後に公開されたらしい。その最後で、俺が苦し紛れに放った渾身ギャグ『なにせ、私は1ディナールも持っていませんから』を聞き、俺に使って欲しいと金銭の寄付の申し出があったそうだ。
更に記者会見で俺が、『辺境の地球から来た』と発言したので、オティーリエ王女の子孫なのに一ディナール無しだと認識し国民の方々が寄付の申し出であったとの事を知り、我も我もと寄付を申し出ているらしい。
総統府は、国家から訓練艦ラハティの件とンジェグ海賊艦隊撃滅の報奨金を支払うし、俺達が総旗艦フラデツ・クラーロヴェーに積み込んで持って来たレアメタルも適価にて買い取るので、俺に金銭的な問題は無いと説明した。
が、『提督が、レアメタルを売る為に持参した! そこまで窮しているのか!』との話に何故かなってしまい、総統府も寄付を受け取らざる得ない事態になったとか。それで大尉は、夜分にも拘らず、中央銀河連合内ならどこでも使用できる口座の開設手続きにきてくれたそうだ。その口座に、直接寄付金を振り込んでもらう為に。
「これでマスターの二つ名は、貧乏提督に決定ですね」
「ふぐっ」
俺の胸に刺さった何かを、ハッタが抉りやがった。
「それにしても、ソイニンヴァーラ中佐は何をしに来たのだ?」
俺が口座開設の手続きをしていると、ベッドでタブレットを弄くって遊んでいる自由人が思い出したかのように口を開いた。
「ああ、それな。実は、サッパリ判らん。『ご用件は』と尋ねたら、『では、どうぞ』と言われたよ。訳が分からないので聞き直したら、『ですから、どうぞ』と言われて困ったよ」
「フフフ」
「ギァハハ」
俺の言葉を聞いた二人が同時に笑い出すが、こっも意味不明。何がオカシイの?
「突然笑って、失礼しました提督。その時の中佐の表情を想像すると可笑しくて、プププ」
「そうか、そうか、それでこそ拓留だ。ざあまぁだな、あの女」
二人にはウケまくっているが、俺にはサッパリ判らん。やや、憮然とした表情でいるとクリスティーナが説明をしてくれる気になったようだ。
「あの女はな、アスピヴァーラ人に珍しい黒目黒髪を常に自慢のタネにしていたのさ。周囲の者達や他国の男共も、白い肌と黒目黒髪の対比が色っぽいと褒め称えていてな。それで、口説かれ慣れているあの女は増長しているのさ」
クリスティーナ、それでは説明になっていないよ。その説明では、ソイニンヴァーラ中佐が魅力的だと思われているって事しか判らないよ。
「少佐の説明を捕捉しますと、中佐は提督に興味を持たれたのでしょうね。それで、中佐を口説いても良いですよ『では、どうぞ』と言ったのでしょうね」
「はぁ、そうですか。大尉、良く判る説明をありがとう。でも、良く判らないのは、中佐の行動と興味を持った理由だよ。態々、ホテルまで押しかけて来る程の事があると思えないがなぁ」
うん、やっぱ、初対面の女性を口説けって、夜ホテルへ押しかけて来るって理解不能です。
「それは、拓留が……」
「少佐、それ以上は今は!」
あー、そんな遮り方をすると返って、何かを隠している雰囲気マンマンですよ。大尉。
「て、では、手続きも終わりましたので、私達はこれで失礼いたします。夜分に失礼致しました。さっ、少佐帰りますよ」
「私は、これから拓留に用があ……」
「帰りますよ少佐。それとも憲兵を呼びますか」
「うむ、では失礼するとしよう。では、拓留またな」
全身で隠し事をしてますよオーラを出すラウタサロ大尉と『憲兵』の名を聞いて大人しくなったクリスティーナがやっと帰ってくれ、漸く俺は眠りにつくことが出来た。
そんなこんなで俺は、貧乏提督と思われているようだ。
もし、一人でホテルに宿泊している時、夜に見知らぬ女性が訪ねてきたとします。
さぁ、貴方の選択肢はどれだ?
1.「私とは、赤い糸で繋がっている運命なんです」と言う女性が訪ねてきた。
2.学生の頃の、もう顔も忘れた同級生が、「本当は、昔から好きだったの」と会いに来た。
3.頼んでもいないマッサージのオバちゃんが「サービスです」とやって来た。
さぁ、何を選ぶ?
えっ、僕の答え?
勿論、「4.美人局がやってきた。」
おめえら、これが現実だ!




