48.再会
この戦いは、結果だけ見ると我々の圧勝だった。
それは、総旗艦フラデツ・クラーロヴェーの存在が大きかったと言っても過言ではない。なにせ、敵艦24隻中、15隻を撃沈しているからだ。
しかし威勢の良い事柄ばかりでない、確実にアスピヴァーラに死傷者が出ているからだ。
警邏艦ミッケリは、大破。主動力機関破損により自航不能。警邏艦クオピオ及びタンペレは中破。護衛艦は、パーツヨキ中破、ヴァンター及びトルネが小破となっている。
たった7隻で、24隻と対戦し、22隻撃沈、1隻拿捕、1隻逃亡という凄まじい戦果を挙げた代償だ。守るべき者達の為に勇敢に戦って亡くなられた、戦死者の方々にはお悔やみを申したい。
俺は、逃亡している敵艦を追撃しなかったが、ヴァンターとトルネが追跡して敵巡洋艦を拿捕したらしい。
その為、この宙域にいるであろう行方不明者の捜索は、総旗艦フラデツ・クラーロヴェーが行う事になったのだが……、
「マスター、アスピヴァーラ軍人のコマンドシグナルが判別できませーん(泣)」
とハッタが泣き付いて来た。
コマンドシグナルとは、どの国の軍人かを判別する為の信号なのだがアスピヴァーラ軍は、ンジェグなどの捕虜にならない為にスクランブルを掛けており、コードパスを知らないハッタでは識別できなかった。
なので総旗艦フラデツ・クラーロヴェーを大破したミッケリへ向かわせ、トラクタービームにて牽引し、クオピオとタンペレの側まで曳航して行った。
そして、割と人的被害の少なかったクオピオの協力を得て行方不明者の捜索を行い、ツィリルとボフミラに内火艇で救助させていた。
そして、7隻が集合して負傷者の手当と遺体の保管、行方不明者の捜索、拿捕したンジェグ巡洋艦と乗員の監視をしているところへ援軍から通信が来た。
「マスター、付近の小艦隊が交流して、200隻近い数のアスピヴァーラ軍艦隊が、こちらにやってきます。今は、護衛艦ヴァンター、サンッティ艦長と通信しているようです」
「そうか、援軍が来たか。そりぁ助かるな。ところで、パーツヨキのミュッリュス艦長はどうしたの?」
「データーリンク経由の情報によりますと、敵巡洋艦の砲撃で被弾した時に負傷したようです。但し、命に係わる怪我ではないそうです」
「そうか、大した怪我で無いのなら良かった。ところでハッタ、いつまでデーターリンクしてるつもりなの」
「もう少し、忘れたふりしてリンクしてたほうが良いですよ。情報が入ってこなくなりますから」
「ても、軍事機密とか知っちゃうと、怒られちゃうでしょ。だから切りなさい」
「ヘーイ。って、もう遅い! サンッティ艦長からデーターリンク経由で情報がきました。あちら様は、忘れて無かったみたいですね。ええっと、なになに」
データーリンクで送られてきた情報には、俺達が助けた商船隊が保護されたこと。商船隊の通信で、援軍に総旗艦フラデツ・クラーロヴェーが加わっていたことを知った、この宙域の司令官が大慌てで艦隊を差し向けたことなどが記されていた。
そして、負傷者を先に後方へ送り手当をさせ、行方不明者の捜索は艦隊が引き受けるが、総旗艦フラデツ・クラーロヴェーは現座標に留まって欲しいとのこと。
「まぁ、待っているのは良いんだけど、何か理由があるのかな。邪魔になるなら、今度こそ先にハメーンリンナへ行って良いんだけど」
「マスターも結構しつこい性格ですね。
護衛艦隊が同行出来なくなったから、対応策を考えているんですよ」
「そうだよ、ハッタのマスターだからね。
そうか、なら素直にここで待っていよう。指示に従うと返事しておいて」
「了解です…………。マスターに通信が入りましたが、断りますか?」
「だから何で断ろうとするんだよ。良いから繋いで」
「そうですか、面倒なことにならなければ良いんですけどね。繋ぎます」
そんなハッタとのありふれた会話が、戦いが終わった後の俺に心地よかった……のだが、通信が繋がってスクリーンに現れた人物を見て、やっぱ断れば良かったと思った。
「拓留、怪我はないか! ンジェグども相手に大立ち回りしたと聞いたぞ。ハルバートも碌に振れないのに、無茶をするな!」
「心配してくれてありがとう、クリスティーナ。でも、艦隊戦はしたけど、白兵戦はしてないからね。総旗艦フラデツ・クラーロヴェーは、無傷だし、俺が怪我をする事なんてないよ」
心配してくれるのは嬉しいのだが、やはり少しずれているクリスティーナがスクリーンに現れた。どう考えたら、艦隊戦でハルバートを振りまわすという思考に繋がるのだろうか。
「ああ、それは良かった。それでな、私が総旗艦フラデツ・クラーロヴェーへ行って、拓留の身辺警護をしてやる。亜空間転送ゲートの使用を許可してくれ」
「もう戦いは終わったから、別に警護なんて要らないよ」
「何を言っているんだ! 戦場では、気を抜いたヤツから死んでいくんだぞ。未だ、ここは戦場だ!」
ハッタが、思いっきり首を横へ振っているが、クリスティーナの言にも一理ある。俺は、戦闘経験をしたばかりの新人だ。素直に、クリスティーナの好意を受け取っておこう。
「クリスティーナ、判ったよ。少し待ってくれ。ハッタ、受け入れを」
俺の命令を聞いたハッタは、大袈裟に溜め息をつく真似をして亜空間転送ゲートを開いてくれた。
暫くすると白金のハワードスーツを着たクリスティーナを先頭に、11人の機械化装甲兵が指令室に入って来た。ただ、その中にヴィーヴィや見知った顔は無かった。
「やぁ、クリスティーナ良く来てくれたね。ヴィーヴィやヴァルト伍長がいないけど、部隊が変わったの?」
「ああ、あの部隊は、あの馬鹿男の為に急遽集められた部隊でな、今は皆それぞれの隊へ復帰している。今は、第8機械化装甲兵師団、第5大隊、第6中隊所属の第63小隊だ。拓留、紹介したい部下がいる、曹長こちらに」
クリスティーナに呼ばれると、一歩後ろに控えていた20代後半に見える、ブラウンの髪、青い瞳、ベージュの肌、やや薄幸そうな美女薄茶エルフさんが前に出た。
「ロニヤ・ハカミエス曹長です。総旗艦フラデツ・クラーロヴェーへ乗艦出来て光栄です。宜しくお願いします」
と機械化装甲兵とは思えないほど、柔らかな口調で丁寧に挨拶してくれた。
これは! 機械化装甲兵の中でも常識のある人だ。きっと、そうに違いない! 俺も、礼儀立たしく返礼しなければ。
「総旗艦フラデツ・クラーロヴェーへ、ようこそハカミエス曹長。こちらこそ、宜しくお願いします。艦長の東郷拓留です」
「ほらな、言っただろ曹長。拓留は歓迎してくれるって、心配し過ぎなんだよ。にも拘わらず、あの石頭の中佐め!」
うん? クリスティーナ、今なんて言ったの? 何か、勝手にやって来たと取れる発言でしたよね。俺の聞き間違いか?
「クリスティーナ、ちゃんと許可取って来たの?」
「そんなもの要らん!」
「「はぁ~」」
やっぱりクリスティーナは、相変わらずクリスティーナでした。ハカミエス曹長と溜息がハモちゃったよ。
ハカミエス曹長が、幸薄そうな表情なのは、きっとクリスティーナが原因だな。
「ハッタ、司令部に第8機械化装甲兵師団第63小隊を護衛に着けてくれとお願いしといて。期間は……。おい、クリスティーナ。いつまで、ここに居るつもりだ?」
「勿論、主星ハメーンリンナに到着するまでだ!」
「だそうだハッタ、連絡宜しく。
で、クリスティーナ。ハメーンリンナまで一緒なら、私物はどうした。着替えはいいのか? それとも、ずっとパワードスーツのままか?」
「ああ、そうだな、取りに戻らなくては……。もしやと思うが拓留、私達が一度戻ったら亜空間転送ゲートを閉じたりしないだろうな」
「そんな、嫌がらせするぐらいなら、初めから帰れって言うわ!」
コイツは、俺をなんだと思っていやがるんだ。いじめっ子か? 陰険な男か?
「ああ、少佐殿。隊を半分に分けて、取りに戻しましょう。護衛なのですから、全員が一気に戻るのは宜しくありません」
ああ~あ、やっぱハカミエス曹長が苦労してんじゃん。
「うむ、ならば曹長が先に戻れ」
「いや、クリスティーナが先に行ってくれ。ハカミエス曹長には、部屋割りの相談がある。それとも、クリスティーナが部屋割りしてくれるか?」
「うむ、ならば半数を連れて、先に戻ろう」
良いかい、ハカミエス曹長。クリスティーナは、こうやって操るんだよ。そんな俺の考えなんて、お構いなしのクリスティーナは指令室から足早に出て行った。
「はぁ、クリスティーナの御守が大変ですが、ハメーンリンナまで宜しくお願いします。ハカミエス曹長。私の事は、拓留と呼んで下さい」
とニッコリ笑って、もう一度挨拶すると……、
「こちらこそ宜しくお願いします。拓留さん。私の事は、ロニヤと呼んで下さい。あと、少佐の扱い方を教えて下さい。お願いします」
と、とても真面目な表情で頼まれてしまった。おい、クリスティーナ。部下に迷惑かけ過ぎだよ。
そんなこんなで俺は、めんどくさいエルフさんと一か月ぶりに再会した。
肉食系の『ポロリ&ガバッ』なエロフさんが戻ってきました。
戻す気なかったんですが、なんか気に入ってしまったので戻ってきちゃった。




