25.海底に潜む者
九月に入っても、温暖化の影響で暑さが和らぐことの無いある日の事。
夜が明けて早々に総旗艦フラデツ・クラーロヴェーに乗り込んだ俺は、CG処理されてドーム天井全面に映し出される海中の様子と、メインモニターに映る瀬戸内海の海底がゆっくりと動く映像と、やはりゆっくり動く潜水艦を見ていた。
「海上自衛隊所属、『おやしお型潜水艦せとしお』が11時の方向から接近中です。スクリュー音合致、間違いないですね」
「はぁ~、何も朝に出発しなくても、日が落ちてからが良かったんじゃないか」
「今更悔いても時は戻りませんよ。前向きに、今の状況を楽しみましょう。
それに日が落ちてから出発すると、浮上予定海域に到達した時は、真昼間です。当艦のステルスと光学迷彩を駆使しても、流れ落ちる海水は消せません。局地的に降る海水と落下音を、他船に目撃される可能性がある以上仕方ありません」
「まぁ、そうなんだけどね……」
総旗艦フラデツ・クラーロヴェーを地中から海中に抜け出させるのに、マイクロウエイブ衝撃波を出しながら土砂を掻き分けたので、抜け出す時の騒音が艦内に響き渡った。
その騒音を聞き、海中に振動や土砂が舞い上がる光景を俺は想像した。実際に天井とメインモニターに映し出された海中の映像は、濁りまくっていて何も見えない状態だった。そして、それこそが現在の緊迫した状況を作り出している。
以前もハッタが言っていたが、総旗艦フラデツ・クラーロヴェーの事が世間に知られると、どう考えてもめんどくさい世界的なパワーゲームに巻き込まれる予感しかしない。総旗艦フラデツ・クラーロヴェーがあれば、世界の覇者に成れるからだ。
日本は、そんな事望む者などいないだろうし、いたとしても戦争を忌避する国民が許さないだろう。もっとも日本人なら『世界平和の為に活用せよ』との声が上がった途端に結果の事など考慮せずに諸手を挙げて賛成するだろうな。
だから、誰にも知られずに宇宙に飛び出したかったのにね。コッソリと目立たずなんて夢のまた夢であった。
総旗艦フラデツ・クラーロヴェーの修復が、順調に進み完了したのは九月初旬の事。
直ぐにでも出発をしたがるハッタを宥め各部の再点検をさせている内に俺は、ロベルトとカテジナを連れてコストコへ向かい、カート三台分の食糧と酒を買いだめて持ち込んだ。
一応、亜空間転送ゲートがあるのだが、万が一の事を考えての事だ。たって、何かトラブルが起きて、津久留島に戻れなくなり餓死するなんて嫌だからね。
「これで三隻目か。やっぱ地中から出るときに振動がデカかったのかな」
「ええ、地震と勘違いした震度計がやる気を出して派手に踊った筈ですから、それはもう海上は大騒ぎ状態の空騒ぎでしょう」
「はぁー。まぁ、やっちまったのは、もう仕方ない。また静かに見付からないようにやり過ごしてね」
「たった今、右舷を通過して行きましたよ」
「そりゃ、良かった」
一隻目の潜水艦が近づいた時に、ややパニック気味に『見付かるー!』とハッタに詰め寄ってしまった俺だが、『防御フィールドを展開しているので、そうそう見つかりませんよ』との言葉に、何それ?』と返してしまった。
すると『そう言えば説明していませんでしたね』と防御フィールドの事を教えてくれた。
宇宙船が航行する時に、飛来する小惑星や有害な宇宙線による被爆を避ける為のエネルギーフィールドの一種で、防御力は注ぎ込むエネルギー量によって変わるとか。つまり戦艦など大きな船には、大きな主動力機関があるので防御フィールドも強くなるらしい。
もっとも、防御フィールドに注ぎ込むエネルギー量は調整出来ずに固定され、戦艦を防御力100とすると、巡洋艦は60、駆逐艦は35ぐらいだそうだ。因みに総旗艦フラデツ・クラーロヴェーは、120との事。
『なら、なんで被害を受けたの?』と質問したら、スウィン社会人民全体共和国側との決戦で被弾しており防御フィールドの出力が落ちている時に亜空間機雷の攻撃を受けたとの事。
防御フィールドと亜空間機雷は、相性が悪く、巡洋艦なら一発で防御フィールドが消滅するとの事。しかし、使い勝手の悪い亜空間機雷は、そうそう当たるものではないらしい。
その為、総旗艦フラデツ・クラーロヴェーに亜空間機雷を当てた敵艦は、捨て身の攻撃を仕掛け、総旗艦フラデツ・クラーロヴェーの暴走と引き換えに全艦撃沈されたようだ。
で、この防御フィールドだが、ステルス機能と光学迷彩を同時に使用すると内側の音・振動・熱量・反射光を殆ど外部に漏らさないらしい。その為、海上自衛隊潜水艦に発見されないとかなんとか。なんとも、まぁ、こ都合主義満載のテクノロジーだこと。お蔭で助かってるけどね。
「それにしても潜水艦のスクリュー音だけで艦名が何故判るの?」
「元々、海中にソナーを設置して音索はしていたのです。それを最近、それぞれの艦と合致出来たのですが、どうやったか聞きたくないですか?」
「いえ、聞きたくないです」
どうせ航海記録と照らし合わせたのだろうが、その航海記録を何処から入手したか考えると怖い。ハッタの性格というか思考パターンは、かなりぶっとんでいるからね。海上自衛隊の機密である航海記録を、どうやって入手したのかなんて聞きたくもない。
「そうですか。私の暇つぶしついでにハッキングして、情報収集した努力話は聞きたくありませんか」
「ハッキングって、ネタ明かししてんじやん!」
「まぁ、何時ぞやのゲーム会社よりかは歯応えが有りましたが、このキング・オブ・AIのハッタに掛れば御茶の子さいさいでした」
「だから聞きたくないんだよ! もしバレて捕まったら、俺がやった事になるじゃん」
「暇つぶしで突破出来る程度のセキュリティーですから、追跡も大したことありませんよ。多数のサーバーを経由してありますので、尻尾は掴ませません。尤も、私には尻尾処か実体が有りませんけど」
澄ました顔で大したことありませんって言ってるけど、大それた犯罪だからね。うーん、ハッタとは、基本的な考え方が違い過ぎる、どうにか出来ないものかな。
「それでもマスターが、私の華麗なハッキングをお聞きしたくないというのであれば、この時間を有効利用して私が最近視聴して面白かったドラマを紹介いたします」
話が唐突過ぎるけどハッキングの話よりマシか……。
「頼むよ……」
「『君の名は』というお話です」
「ああ、知ってるよ。僕も見た。ファンタジー色が強かったけど、なかなか面白い話だった」
「ファンタジー? まぁ、戦争を知らない子供達のマスターとしては、ファンタジーなのかもしれませんね」
「戦争?」
確か流星が落ちてくる話だよな。戦争?
「ええ、緊迫した状況下の数寄屋橋にて出会った男女が、『君の名は』と言ったところで空襲警報が鳴る。何とも悲恋を象徴するシーンではありませんか」
「前々前世じゃなくて、真知子のほうか!」
「前々前世から付き纏う、しつこいストーカーの話なんか興味ありませんよ」
「いや、主題歌ってだけでストーリーとは関係ないからね」
「それはどうでも良いとして、2時の方向距離約10Kmからまたスクリュー音と騒音を探知しました」
どうでも良いって、ハッタが話を振ったんだろ。まぁ良い……。
「騒音? また自衛隊?」
「いえ。艦名までは判りませんが、中国海軍の原子力潜水艦だと思われます。いや、太鼓とドラを鳴らしているような騒々しい潜水艦は、中国海軍しか居ないだろ(反語)」
「えっ、瀬戸内海まで中国の潜水艦が入ってきてるの!」
マジ! そんな大胆なことすんの、最近の中国って!
「そんな事、海上自衛隊が許す訳ないじゃないですか。ここは、もう太平洋ですよ。豊後水道もあっという間に通過しました。現在は、一旦日本の接続水域外に出るところです。それに、反語ギャグをスルーするのはマスターとして失格ですよ」
「まだ、出発して三時間ぐらいだろ、もうそんな所まで来てたんだ。それに、反語ギャグなんてどうでも良いだろ。」
「ええ、総旗艦フラデツ・クラーロヴェーですからね。この程度は、朝飯前です。それに、どうでも良いは了承出来ません」
「そうなんだ。思ってた以上に凄いね。それに、結構しつこいね」
「ダブルで当然です」
モニターに映ったハッタは、上を向いた横顔を見せている。鼻高々と言いたいのだろうな。でも、しつこいは褒め言葉じゃないよ。
「それと中国海軍の原子力潜水艦の後方から、海上自衛隊の『そうりゅう型潜水艦こくりゅう』が追跡しています」
「ああ、そうなんだ。何年か前にも、そんな事あったよね」
「ええ、2018年に2日間ほど、海上自衛隊に追跡された商級093型原子力潜水艦が東シナ海の公海で浮上しており、2020年には潜航したまま接続水域内を航行し、海上自衛隊に発見され追跡されています。その後も度々同じような事例が多発しております」
「そうか。なら自衛隊の邪魔をしないように、今回もこっそり通過しよう」
だよね。大変な任務に就いてくれてるのに、邪魔しちゃいかんよね。
「ナニと同じように、かくれんぼがお好きなマスターに提案です」
「ナニと同じようにって何だよ! 別に僕のナニは隠れてないぞ。大体いつ見たんだよ!」
「別に、マスターのアレの事を言っている訳ではありませんよ。マスターが気にしているから、過剰反応するだけですよ。では、提案に移ります」
ぬぐぐ……、しかしここで話に乗ったら、また脱線する。
「で、提案って何?」
「中国海軍の原子力潜水艦に音波振動通信装置を使用して、メッセージを送りましょう」
「そんな事出来るの? それに自衛隊の邪魔をするような気がするけど」
「ええ、何らかの原因で通信不可になった艦船に接舷する事により、宇宙空間に於いても通信する為の装置です。所謂、ミノフスキー粒子下におけるお肌の触れ合い回線ですね。
強力な振動音波を送るので、艦全体がスピーカーのようになってシッカリとメッセージを送れます。なので、海上自衛隊の邪魔どころか、手助けになると思いますよ」
ふぅーん。そうなんだ。触れ合ってなくても送れるんだ。凄いね。
「でも振動音波を出すと、こちらが探知されるんじゃないの?」
「距離がありますし移動していますから、振動音波からは位置は探知されないでしょう。
振動音波を発すると一瞬だけ、防御フイールドの効果が落ちますが、海上自衛隊潜水艦のソナーや熱源探知装置からは、中国海軍の原子力潜水艦のお蔭で死角となる位置に居ますのでやはり探知される事は無いでしょう」
「そっかぁー。で、何てメッセージを送るつもりなの?」
「効果的に、且つ端的にこちらの意図が伝わるように『いつもオマエの後ろに潜んでいるぞ』と送ります」
「らめぇ~、そんなメッセージ送っちぁ自衛隊の邪魔するだけだから、絶対にらめぇ~!」
驚いた中国潜水艦が、スパラルターンとかしちゃったら自衛隊も驚いちゃうじゃん。
「そうですか残念です。では、何時かリサイクルして使用します」
「いや、リサイクルしちゃ駄目だからね。前フリじゃないよ。本当に駄目だからね」
「考慮致します。そう言っている間に、二隻ともすれ違いましたよ。それよりマスターは、食事はよろしいのですか? 朝食を摂られてないのでは」
「ああ朝が早かったからね、食べてないんだよ。良いタイミングみたいだから、ちょっと食べてくるよ」
モニターには海中しか映らないから現在地が判らないけど、太平洋に出たのなら、そうそうトラブルも無いだろう。お腹空いたし、遅めの朝御飯としよう。
「ごゆっくりどうぞ」
妙に上機嫌なハッタの声に送られて、俺は食堂に向かった。
そんなこんなで俺は、ついに総旗艦フラデツ・クラーロヴェーを発進させた。
長かった。宇宙船の話なのに、ここまで土の中。
イデオンや∀だって、もっと早く掘り出されたのにね。
埋没していた理由、それは主人公がJK愛好家だからだ。
でも気が付いたら日間で3位になっていた。みんなーJKが好きですかー!
漸く発進です。




