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二人羽織り  作者: ?
12/12

11

自分が何なのか忘れている。ということすら忘れている。つまり意識が浮かんでいる。意識は我を離れて風景の中に溶け込んだ。青い花が咲いている。ヴェールのように全てをモザイクにかけた中できらきらと青い花が咲いている。そしてそこに飛ぶ青い羽の蝶がヒラヒラと霧の中を泳いでいた。自分が何であるかを忘れる。こんなことは前にもあった。暗い押入れの中にこもってずっとずっと考えていた。自分が何なのか。死とはなんなのか。思考は空想に変わり、空想はイメージに解けて、夢と現実の間で身体をぬけた。意識は広い孤独な宇宙に放り出され、果てない世界を彷徨った。自分が何であるか忘れるほどにそこでの時は無限だった。しかし、ふっと気づいた。何の前触れもなく。自分はなんだろう、という自我。この黒を眺めている自分となんだろう。しかし、いくら考えてもわからない。自分とは何であったか。確かに自分というものが昔はあったのに。もう自分には戻れないのかもしれない。怖くなって目が覚めた。自分の手のひらを見て思った。あぁ僕は僕だ。あの感覚を思いながら男は目を覚ました。ふっと青い花から蝶がきえて、周りを見渡すとあたりは深い山の中だ。

何かの気配を感じて振り向いた。そこには女の子と、いびつな形、顔が腫れ上がっているのか凹んでいるのかどっちとも言いがたい骨格をした男の子が肩を組んで歩いていた。その姿はかなり異様だったが、彼らが放つ気配は温かく警戒の色は向井のなかには芽生えなかった。

 中学生くらいの歳に見えるその二人は不安そうな色を浮かべながら、少しずつゆっくり、体を引きずるようにして近づいてきた。どうやら男の子のほうが右足を怪我しているらしい。女の子がそれを気丈に支えている。男は立ち尽くしていた足をあげて自ら彼らに近づいていった。なんとなく彼らのほうから近寄らせるのが忍びなかった。

「こんにちは」

少し近づくと、目の力が鋭い、気の強そうな少女がまるで挑戦するような口ぶりで言った。どこか懐かしい表情だ。

男は挨拶を返さず、足を引きずる歪な顔の少年の膝を眺め、「どうかしたのか?」と聞いた。少年は怖気ついたように男の顔を見ただけで、代わりに女の子が「少しくじいてしまって」と変わりに声を出した。

「そうか」

と男はそれだけいった。何かしら助けをくれると思っていた少女は少し困ったような表情を浮かべ、強気だった目にも困惑の色が混ざった。男はその目の色の変化に気づくと、自分のほうから「おぶってってあげようか」と提案した。すると少年が「大丈夫」と嫌そうに言ったが、少女がひと睨みきかせると大人しく男の背に負ぶされた。少女は強気なままありがとうございますと頭を下げた。すみません、ではないところがなんだか彼女らしかった。

三人は山を登った。そしておかしなことに山を下るということは誰もが考えなかった。すぐ、山小屋もある中腹の寺につくからと思ったからというわけではない、あたかも最初から決まっていたかのように三人は山を登った。


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