拝啓 天馬 私も、もう十三歳。立派な淑女になりました
誤字報告いただきました、ありがとうございます!
天馬、貴方に見てほしいわ。立派に成長した私の淑女ぶりを。
でも、こんなに可愛らしい淑女なのに、なぜか一部から魔女と言われてしまいますの。とても悲しいわ。なぜかしら?
バートもクレトも二言目には私に説教。私、これでも男爵令嬢のはずなのですが?
ああ、クレトのことは前にも書いたわよね。自国を逃げ出した移民の男の子よ。年はバートと同じくらいかしら。自国では、朝から晩まで休みなく農作業をさせられ、少しでも手を抜けば、鞭を振るわれていたらしいの。
私、とても恐ろしくて震えたわ。そんな私を見て、バートはこの震えている淑女な私になんて言ったと思う?
――――ソフィー様、目が怖いですよ。殺してやろうかその野郎という目をしておりますよ。
ヒドイと思わない!?
震える少女に気遣いもせず、私がそのような怖い顔をしていたというのよ!
バートとはもう何年にもなる付き合いだというのに、私のことを誤解しているわ。なんて悲しいことなのかしら。でもいいの。エリークやサニーは、私のことを至上のお嬢様と言ってくれるから。
バートとクレトからは異端のお嬢様と言われるけれど、エリークとサニーは至上のお嬢様と言ってくれるから、互角よね?
さて、では今日も元気に働いてきますわ。
それでは天馬、また。
早朝の日記を書き終え、侍女のサニーと共にリニエール商会の扉を開くと、社員が皆起立して頭を下げる。
父ならともかく、小娘であるソフィーに対しては、そんな敬礼はいらないと何度も言っているのだが、皆きいてくれない。それどころか『いえ、お嬢様のお顔に一礼してからでないと朝が始まりません』と真剣に言われてしまった。朝は起きた時から始まっているものよ、とか冗談でも言える雰囲気ではなかった。
当初、令嬢のくせにリニエール商会に顔を出すソフィーに対して難色を示していた社員も多くいたが、なぜか今や『私たちはソフィー様の下僕です!』みたいな態度になっている。
不思議に思い、バートに聞いたことがあったが、笑って誤魔化された。しかし、『アンタが異端だからだよ』と小さく呟いたのを、ソフィーは聞きのがさなかった。
(まったく、こんなに栄養にも美容にも気をつけている可愛らしいご令嬢に対して、ヒドイ言いようだわ!)
思い出すと頬が膨らむ。その顔のまま、ソフィーが個室として使わせてもらっている部屋の扉を開くと、怒りを露わにしている男が、客用に設置している革張りのソファーに座っていた。
「おはようございます、お嬢さん」
「おはよう、クレト」
怒りのオーラを発しながらも、朝の挨拶はきちんとするクレトに、ソフィーはほほ笑みで返すが効果は薄く、挨拶が終わるとすぐさま説教へと移行した。
「お嬢さん、言いたかないけどね。ちょっと増やし過ぎなンじゃないですか!? なんで王都に来てすぐに、あんなに孤児を拾ってくるンだよ!」
クレトの目の前に座ると、サニーが黙って後ろに控える。サニーもいつもの光景なので、顔色一つ変えない。
「あら、クレト怒っているの?」
「ええ、怒っていますよ。小汚いガキばっかり拾ってきて!」
「まぁ。貴方だって行き倒れていた時はキレイではなかったわよ?」
「その話はいまはいいでしょうが!」
クレトは、ルーシャ王国で行き倒れていたところを保護した男の子だった。
アルから貰った“アマネ”を改良していくうえで、どうしてももっと苗と“アマネ”の育て方を熟知している人間が欲しくなり、ソフィーはルーシャ王国へ赴いた。
その途中で拾った少年がクレトだ。今や青年という年になり、背も伸びてスーツが似合う男になった。
「だって、皆私にその魂を売ると言ってくれたのよ。買うでしょう、普通?」
「いや、普通のお嬢様はそんな無慈悲なことを口にしないですし、あと絶対に買いません」
断言され、ソフィーは驚いたように『まぁ』と口元を押さえた。白々しいお嬢様に、クレトは頭を掻きむしる。
「だって、クレトも人材不足だと言っていたでしょう? お勉強より体を動かす方が好きな子もいるから、その子たちに農作物の正しい育て方を教えてあげてほしいわ」
クレトは普段、ソフィーが長年過ごした保養地で“アマネ”や多くの農作物を栽培、管理している。
ルーシャ王国で、朝から晩まで畑を見て育てていた彼は、そちらの方面で博識だった。
肥料の質や使う量、栽培の仕方、そして品種改良においても十分な働きをしてくれていた。管理責任者として、これ以上に無い適任者だ。
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