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拝啓 天馬 私も、もう十三歳。立派な淑女になりましたⅡ


「お嬢さんが週に二日の休みとか作るから人が足りないンだよ! なンで週に二日も休む必要があるンだ!? 働く時間も短いし、交代制ってなンだよ!?」


 クレトの祖国でよく見られる、黄土色の髪は短く整えられ、同じ色の瞳は切れ長で、見た目は十分清涼感のある青年なのだがその口調は乱暴だった。しかし、慣れているソフィーは笑顔で対応する。


「クレト、タリスは夏の保養地としては素晴らしいけど、冬は王都よりも寒いわ。その凍える寒さで皆を長期間働かせるなんて鬼の所業よ。週に二日のお休みも体を回復させ、リフレッシュするには必要なもの。体を壊したら、働きたくても働けなくなるのよ?」


 ソフィーとしては当然の雇用条件だと思っているし、人材育成とその維持には相当の資金を確保していた。


 ソフィーの下に集まる者は孤児が大半で、それを卑屈に感じている者も多い。自分が孤児であるというレッテルを自分で砕かせるほど成長させるには、知識と技術だけではなく、当然報酬も必要だ。


 お仕着せもその一つで、管理責任者であるクレトはバート同様、上質なスーツが何枚も支給されていた。今も支給されたものを着用しており、一見すると、一流企業の若きエースだ。


「魂を買ったンなら、魂抜くくらいに働かせろよ」

「まぁ、魂を抜いたら蛻の殻よ。私は奴隷を使役しているわけではなく、社員を雇っているの。人材を一から教育するにはお金がかかるのよ。引き抜きにあったら悲しいし」

「いや、これ以上の好条件、世界中探してもねーよ!」


 とくに子供は、午前中は読み書きと計算を習わせ、午後から数時間働くという徹底ぶりだ。その数時間の働きにも、給金が発生する。勿論、それはリニエール商会全体の話ではなく、あくまでソフィーの下についている社員だけの話だ。


 ソフィーが手掛けた事業は全てにおいて成功しており、その資産は計り知れない。たかが十三歳の少女が、有り余る資産を持っているのだ。その資産を、彼女は次の事業と、維持費と、そして人件費に充てていた。


 彼女が欲するのは高価な宝石でも、絹のドレスでも、最先端の靴でもない。


 彼女はもっと貪欲だったのだ。


 彼女の欲しいものは“発展”だ。


 この国の、この国の民の発展を望んでいるのだ。


 そんな面白い女が、いったいどこの世界にいるだろう。彼女の下について、職場を移りたいなどと思う者はただの一人もいなかった。


「力作業を得意とする子たちが数人、農作業をしたいと言っていたから、クレトに面接を任せたいのだけど」

「ええー。アイツら、俺が毎回連れていくとなると不満げだから面倒なンだけど」

「まぁ、雇用形態になにか不満があるのね。どういった不満かしら? すぐに対処するわ。ああ、でも王都から離れたくないという想いなら、難しいわね。王都ではあまり農作物は作りたくないし」


 王都は長年暮らした保養地に比べ、水も土も汚れている。とても大切な農作物を育てる環境にない。作るならやはりキレイな場所でなければ。


「こんな薄汚れた王都、とっとと離れたいに決まっているだろう。だけど、皆アンタから離…」

「おい、そろそろその煩い口を閉じろ」


 扉が開くと同時に、入ってきたバートの叱責が飛んだ。クレトが小さく『うるさいのがきた』と、呟く。


「バート、ちょうどよかったわ。あの子は大丈夫だったかしら?」

「熱がひくのはもう少しかかりそうですが、薬を飲ませておりますので大丈夫だとドクターからもお墨付きを頂きました」

「そう! よかったわ」

「また拾ってきたの!?」


 クレトの声が部屋に響く。


「あら、知らなかったの? バート、クレトに謝っておいてと言ったじゃない」

「その男が、昨夜寄宿舎に帰ってこなかったんですよ。どこで遊んでいたんだか」

「あら…!」

「なッ! お嬢さんに適当なことを言うなよな! 昨日は研究所でエリークと品種改良について話していただけだ!」

「もう、仕事熱心なのは歓迎するけど、クレトもエリークもちゃんと休んでいるの? 貴方たちは管理者なんだから、ちゃんと私が決めた雇用時間で働いてちょうだい。下に付く子たちまで真似しちゃうじゃない。過労なんて絶対に許さないわよ」

「なんで俺が怒られる流れに…」


 不満を口にするクレトを無視し、バートは一枚の手紙をソフィーに差し出した。


「ソフィー様。ハールス子爵様から、今夜食事会をと招待状が届いております」

「今夜? 随分と急なのね」

「旦那様と奥様もご招待されているということなので、お断りは難しいかと」

「元よりお断りする気は無いわ。ハールス子爵様には、耕地のことでも随分便宜を図っていただいたもの」


 ハールス子爵には“アマネ”を作るための、広大な耕地を融通してもらっている。その礼は勿論しているが、それだけではなく礼儀を常に尽くすのが貴族の嗜みだ。


 ソフィーは食事会の装いをどうしようかと考えながら、本日の業務に取り掛かった。


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転生前は男だったので逆ハーレムはお断りしております 完璧淑女への
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