拝啓天馬、男子ってこんなにめんどくさい生き物でしたっけ?Ⅳ
実はこの話、まだ終わってなかったのです(;´・ω・)
今回でやっと終わりです!
「まったく、何なのかしらこの学院の男どもは! こんな可憐でか弱い乙女に対して、なぜあんな無神経な言動ができるのよ!?」
(前世の祐なら、声をかけることすら躊躇するレベルの美少女なのに! もっと丁寧にあつかわれてもよいはずでは!?)
心の中で叫んでいると、後ろから小さく「可憐で……か弱い?」と、ジェラルドの怪訝そうな声が聞こえてきたが、もちろん聞こえないふりをした。
しかし困った。先程まではショックのあまりおうちに帰りたい……と帰宅願望に陥っていたが、この荒ぶった感情のまま寄宿舎に戻るわけにはいかない。
この顔で帰れば、ソフィーのことには人一番敏感なサニーにすぐに気づかれ、心配させてしまう。苛立ちの理由があまりにくだらなすぎて、話すことも躊躇われる。
自分にとってクリスティーナが至上であるように、サニーにとっては自分が至上のお嬢様なのだ。
少し前に弱い自分をさらしてしまったからこそ、今後はそれを崩すことなく、期待には最大限応えていきたい。
(そうよ。私はこの国の淑女であり、サニーの敬愛するお嬢様。こんなに怒ってばかりいたら、眉間のしわが戻らなくなってしまうわ)
怒り顔がデフォになるなど死活問題だ。そんな顔をクリスティーナやリリナたちに見られでもしたら、もう目も当てられない。
ソフィーは心を落ち着かせるため深く息を吐くと、ゆっくりと吐き出した分を吸い込んだ
気分がトゲトゲしている時は、敬愛して止まない存在を思い浮かべるのが一番だ。
美しい金色のウェーブ。澄みきった蒼穹の如く目に眩しい青。色鮮やかな真紅の薔薇の化身のようなクリスティーナの姿を思い起こせば、ささくれだった心だってすぐにおだやかになり、温泉につかっているかのような潤いが得られる。
(あぁ、クリスティーナお姉様。このお時間なら、どなたかのお部屋で談笑に花を咲かせていらっしゃるのかしら)
すごい。心なしか、かぐわしい花の香りまでかよってくる気がする。
ヒーリング効果が半端ないと、うっとりとしながら歩いていると、後ろから声がかかった。
「ソフィー様、足元がおぼつかないようですが」
心配げというよりは、ただの確認といった感じでジェラルドが尋ねてくる。
喜怒哀楽の機微がまったく感じられない無機質な機械音のような声に、ソフィーは美しい夢幻から引き離された。
「いま美しい花々に想いを馳せていたのよ。邪魔しないでちょうだい」
「左様ですか。それは失礼いたしました。ですが、お考え事は自室に戻られてからにして頂けますか、お身体に障るといけませんので」
この慇懃を直訳すると『つまづいて転びそうだからしっかり歩け』ということだろう。副音声さながらに耳によく届く小言だ。
いや、この際ジェラルドに配慮など求める気は一切ない。それよりも厄介なのは小言の方だ。
彼の小言は日増しに増加傾向にあり、そのうち口うるさい小姑レベルに到達しそうで怖い。
(なぜ私に関わる男性は、時間の経過と共に小言が増える傾向にあるのかしら……)
バートを筆頭に、最近はマルクスまで『あれはダメ、これはダメ』というようになってきた。
『はいはい、そういうバカ高そうな靴で沼地歩かない。お嬢さんが転ばないって分かってても見守る方は怖いからさ』
『ねぇ、ドレス姿で馬に近づくのやめてくれる。汚れそうなのもそうだけど、なんかお嬢さんの場合、そのまま乗ってどっか走り出しそうで恐怖しか沸かないンだけど』
『ダメ。山岳演習には連れていきません』
最後はなぜか敬語で言われた。
あまりに『ダメ』『ダメ』が続き、しかしジェラルドのように無感情ではなく、本当に心配していることが窺えたので、
『お兄ちゃん?』
と、口元に指を当てながら可愛らしく首を傾げて、あざとい妹属性を出してみた。
うん、我ながら愛らしさ抜群の仕草だと自負したのもつかの間、マルクスからの反応は大変悪かった。
心底嫌そうな顔で『マジでやめて……』と言われてしまったのだ。
おかしい。すべての性染色体XYは、妹属性に悪い気はしないはずだと認識していたのに。めちゃくちゃ不快そうな顔をされた。
よもや自分には妹力がないのか?
こんなに可愛い美少女の外見なのに?
それとも中身が前世男のせいで、にじみ出るおっさん感がぬぐえないのだろうか?
分からない。自分がおかしいのか、マルクスの審美眼がおかしいのか。判断しかねる。
「ソフィー様、せめて考え事をされるときは歩きながらではなく、一度立ち止まってからしていただけますか」
またもやジェラルドの小言が飛んだ。
これでは小姑レベルなどすぐに飛び越え、姑レベルにクラスチェンジしそうだ。
恐ろしい危険性を回避するためにも、ソフィーは気を引き締め、これでもかと早歩きで足を進めた。
ジェラルドとしては速歩だろうが疾走だろうが、ソフィーが気もそぞろな状態でなければいいようで、それ以降は黙って後をついてくる。
でかくて無愛想で、顔だけはやたらといい護衛は存在感の圧が強く、ソフィーの心にまた嵐が吹き荒れる。可愛いが足りなさ過ぎて、呼吸困難に陥りそうだった。
(うん、今日はルカとラルスの顔を見てから帰ろう!)
顔の圧が強い無口な護衛に、奇天烈さが群を抜いているレミエル。なぜかやたら突っかかってくるエーヴェルト。めんどくさい男性陣のなかにあっても、あの二人はソフィーの精神をなごませてくれる貴重な存在だ。
ルカはどんな話もニコニコと聞いてくれるし、ラルスとは『咲くも花、つぼみも花』の話で盛り上がれる。
どんな地獄でも、心をなごませてくれる花は咲いているのだ。
よしと決めて、ラルスたちが放課後よく集まる部屋に足を向けることにした。
突然の進路変更にもジェラルドは戸惑うことはなく、どちらに? と問いかけることもなくついてくる。ある程度ソフィーの行動パターンを把握しているのだ。
そうこうしているうちに、目的地に到着。扉の前に立ち、ドアノブに手をかけた。
「――あら?」
ほんの少し開いた扉の隙間から見えたのは、長椅子に腰掛けるレミエルと、横に立つエーヴェルト、銅星のマルクスたち数名だった。
彼らだけでなく、端の方には金星銀星の生徒が数人見える。
以前は一つの部屋に黒星、金星、銀星、銅星の生徒が集まるなど考えられないことだった。各星の監督生だけならありえても、他の生徒が合わさることなどほぼ皆無。
だが、いまは違う。
彼ら自身が、ソフィーが手掛けた品種改良の種を売り込むための打ち合わせを兼ね、こうやって頻繁に集まる機会を自発的に設けたのだ。
最初やはりぎこちなさが目立ったが、それも少しずつ改善され、いまでは家柄の違う各星が集まっていても、室内の空気が荒れることはない。
(お互い意地を張らなければ、ちゃんと仲良くできるのよね)
仲良きことは美しきかな。
自然と唇が持ち上がり、ふふと笑みが零れる。
さきほど受けたヴィンセントからの憤りも、ジェラルドからの小言も、ゆっくりと緩和される想いだ。
彼らの邪魔になってはいけないが、ちょっと端の方で内容を聞くぐらいならいいだろうか。迷っていると、なにやら話が漏れ聞こえてきた。
「そりゃあ、ダメだろ……」
声はマルクスのものだった。呆れと驚愕が滲んでおり、絶句に近い。話している相手はレミエルだ。
なんの話をしているのか、思わず耳を寄せる。
「触んなくてもお嬢さんの胸がないのなんて、見れば分かるでしょう」
――ん?
「ソフィーの胸がないことは分かっている。僕はそんな分かり切った事実の有無を調べたかったんじゃない。ただあまりになさすぎて男が女装していると疑ったんだ」
「いやいや、さすがに胸がないだけで男扱いはひでぇだろう。……まぁ、確かにお嬢さんの言動と行動力はあんま令嬢らしからぬけどさ」
ちょっと待て。なんの話をしている?
ソフィーは口元に笑みを浮かべたまま、額からなにやらピキッと音が鳴った気がした。
「えー、ぜんぜんないわけじゃなくないっスか? なんかこう、段差……? みたいのあるじゃないっスか」
横から口を出したのは、銅星のコンラートだった。
コンラートは、銅星の生徒の中では、コンラート=アホという図式が成り立っているといっても過言ではないほど失言が多い。今回の発言も、ソフィーに対するフォローではなく、ただ思ったことをそのまま口にしただけだろう。
手を小さく波打つように動かすコンラートに――その動きは何を示している?――エーベルトがハッと小馬鹿にしたように笑う。
「バーカ。あれはコルセットの膨らみだよ。お前、そんな見る目がなかったら、将来盛った女に騙されるぞ」
女性関係が派手な彼らしい発言だが、前世彼女いない歴=享年だった身としては、腹立たしさしか沸かない。
ピキッと、もう一つ音が鳴る。しかし笑顔は崩れていない。我ながらなんという淑女魂だろうか。
ドアノブを持つ手が小刻みに震えているのは、なんだか肌寒いからだ。うん。
「ソフィー様?」
いつまでたっても入室しないソフィーの様子を怪訝に思ったのか、半歩後ろにいたジェラルドが声をかけてくる。だが、すぐに部屋から微かに聞こえてくる内容に事態を察したようで、右手で目元を覆っている。
「え、じゃあ、師匠は本当は男なの?」
コンラートが驚いたように目をしばたたかせている。
本気でソフィー男説を信じようとしているのが見て取れ、気づけば音を響かせて扉を開いていた。
「貴方たち、一体何の話をしているのかしら?」
さすがにソフィーの登場は予期していなかったようで、その場にいたレミエル以外の口元がひきつっている。
そこには、レミエルたちの会話を制止しようとしていたルカとラルスの姿もあったが、怒りに震えていたソフィーの目には入らなかった。
「もう一度聞くわ。――なんの話をしていたの?」
笑顔のまま低い声で尋ねる。
マルクスが「ヤベッ……」と呟く横で、レミエルがなに食わぬ顔ですくっと立ち上がり。
「ソフィー、ちょうどいいところに来た。君はかたくなに自身が男か女なのか答えないが、それはそれほどまでに答えたくない理由があるからなのか?」
相変わらず人の情感を汲み取ることができない男が無神経に問いかけてくる。
「理由もなにも、なぜわざわざ一目見て分かるものを私が答えなければならないのよ」
嫌み満載で答えるも、レミエルがそんなものに堪えるはずもなく。
「どれだけ視力がよくても、ないものは見えないだろう」
不躾な男が胸部あたりを見ながら言う。
自分でもキリキリと目がつり上がっていくのが分かった。
淑女の面が割れ、苛立ちが天井突破しそうだ。だがのみこめ。ここで怒ってもレミエルのことだ、一切反省などしない。無駄に体力を削るだけだ。
(落ち着きなさい、ソフィー! 淑女らしく、無礼には華麗な嫌みで返すのよ!)
ソフィーは小さく呼吸を整えると、ニッコリと笑みを深めた。
「貴方、女学院の入学前には身体検査があることを知らないの? 王の剣でもあったでしょう」
「僕はなかった」
そうだった。コイツ王族だった。一般の生徒とは待遇が違う。
舌打ちしたい気持ちをのみ込んでいると、レミエルは何やら一人納得したように頷き。
「分かった。君の唯一の慎ましさについてはもういい」
「ちょっと、なによ唯一の慎ましさって……」
唯一をやたら強調され、ソフィーはいらっとした。
レミエルにしては珍しくいたわるような口調だが、ソフィーにとってはただの暴言にしか聞こえない。
こんな時、心の底から考えてしまう。
(なぜこの男は、フェリオと共にタリスに来なかったのよ!)
あの頃なら、まだ更正の可能性だってあったはずだ。今すぐ責任者(兄)を呼び出して、二人まとめて説教したい。
「慎ましいというか、ないとハッキリ言って差し上げた方が、この場合親切なのでは?」
エーヴェルトがいい、コンラートが続く。
「別に、ないならないでよくないっスか?」
横でマルクスが「やめろ、コンラート。会話に参加するな」と止めているが、すでに後の祭りだ。
――――本当に、この学院の男どもは女性に対する配慮が欠け過ぎている。
ソフィーは額に青筋を浮かべ、握りしめた拳をブルブルと震わせた。
ダメだダメだと自分を律するも、気付けは淑女面が外れていた。
「胸がない胸がないうるさいっっ!」
そんなことは自分が一番分かっている。
自分が一番分かってる!!!!!
ソフィーは怒りのままに右腕を大きく振り払うと、糾弾するがごとくその場にいた者達を指さした。
「貴方たちっっ、全員行間の刑よ!!!!!!!」
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ラルス:「ソ、ソフィー様!? ぎょうかんの刑とは一体?」
ソフィー:「あら、二人ともいたの? 貴方たちは大丈夫よ。私がちゃんと守ってあげるから、安心して!」
ラルス・ルカ:「「え……??」」
ルカ:(僕、一応お守りする側なんだけどな……)
ラルス:(あれ? ソフィー様にお気遣い頂いているのに、あんまり嬉しくない……)
別タイトル『交わらない想い』終了――――。
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――というわけで、次からは最終章に入ります!更新は来年1月予定。
その前に一回登場人物紹介をはさみます。とくに必読必須ではありませんが、裏設定なども入れておきます(*'▽')
そして、先日コミカライズの㉗話を更新して頂いております!
こちらは書籍書き下ろしの部分なのですが、ソフィーのお顔がとっても良いのでぜひご覧いただきたいです!
https://comic-earthstar.com/episode/2550912964887621792
また、『勘違い結婚』の方もシーモアさんにてコミカライズ先行連載中ですので、あわせてよろしくお願いいたします(*'▽')✨
https://www.cmoa.jp/title/307988/




