親愛なる我が愛しのお姉様方へ
春の新緑が、鮮やかに森を彩る今日この頃。いかがお過ごしでしょうか?
どこまでも広がる青い空の下、大輪の花が咲き乱れる美しい場所で、皆様が心穏やかな日々を過ごされていることを、遠く離れた地にいても、私はいつも祈っております。
さて、こちらの状況なのですが、私のほうは淀みなく日々を過ごさせていただいております。
そういえば、ラナお姉様が気にされていらっしゃったジェラルド・フォルシウス様なのですが、どうやら大変お忙しいようで、いつも誰かを探していらっしゃるようなお姿を、幾度となく拝見いたします。
あれはいったいどなたを探されていらっしゃるのでしょうか?
無知な私には見当もつきませんが、きっと大切な方なのでしょう。
もしかしたら、運命の方でも探されているのかもしれません――――
と、いう文をお姉様たちに送ってみようかと思うのだけれど、どう思いますか、天馬?
いえ、嘘はついていないのよ!
だってジェラジェラが、誰かを探すように学院内を歩いている姿を何度も見ているし、それが誰を探しているのか、私は知らないもの。
だから、探している相手が運命の相手ではないという確証もないわけで……。
つまり、ちょっと話を盛ってもいいと思うのよ!
そう、もしかしたら事実とはちょっと違うかもしれないけれど、嘘ではないギリギリの線を攻めているだけなの。
だって、その方がラナお姉様はお喜びになるし、私の株も上がるかもしれないでしょう?
――――天馬。私が、酷い人間に成り下がったと誤解しないでちょうだい。
私だって、いくらジェラジェラが、ラナお姉様お気に入りの憎きイケメンとはいえ、運命の相手、状況からいって男であろう人物をでっちあげるような行為については、さすがに躊躇しているのよ。
相手がリリナ様ならこれほど悩まないのだけれど、ラナお姉様が相手となると、さすがの私だって良心というものが痛むわ。
だって、ラナお姉様は…こう……その……。
なんというか、ラナお姉様の行間への洞察は、リリナ様のそれとは格が違うように感じるのよね。
リリナ様なら、目が合うシーンだけで頬を紅潮させ恥じらう姿が可愛いのだけれど、ラナお姉様の口にする数々は、それよりももっと生々しさがあるというか……。
甘い果実のような唇から、小鳥のような可愛らしい声が紡ぐその言葉は、『ん? んん?』と、首を傾げるような数々で。お茶を飲みながら、何度か吹きかけたことがあるわ。
ラナお姉様は、人当たりのよい笑顔が可愛らしい美少女だけれど、さすがはクリスティーナお姉様とセリーヌお姉様のご友人だけあって、頭の回転が速く、話術がとてもお上手なのよ。
だからかしら、ラナお姉様のお話を聞いていると、行間に一切興味が無い私でも、だんだん現実と妄想の境目がぼんやりと薄れて、絶対に事実と違うはずなのに、『もしかしたら、そうなのかも?』と混乱してしまう時が度々あるの。
ラナお姉様の怖いところは、お話を聞いていると『もしかしたら、そうなのかも?』が増えていき、最後には『断定』の二文字が脳を支配するところよ。
まさに洗脳! 行間の洗脳よ!
この手紙を送れば、ラナお姉様の中でジェラジェラと、存在しているのか、していないのか分からない――たぶん絶対存在していないと思うけれど――運命の相手の存在は確定され、次のお茶会ではその話で大いに盛り上がるのでしょう。
お茶会でヒートアップする少女たちの姿が容易に想像でき、思わず真顔になる。
「男からすれば、なかなかの地獄絵図ね」
なまじ男の記憶があるだけに、自分だったらと仮定すると、勘弁して下さいと泣きながら懇願しそうな光景だ。
「でも、ジェラジェラが誰かを探しているのは嘘ではないし」
そう、嘘ではない。嘘ではないのだ。
フェリオからの命がどんなものなのかは知らないが、何度か見かけるジェラルドの視線は何かを探るように動いていた。それは最小限の動きで、一見すると、ただ歩いているだけにしか見えない。
ソフィーが、ジェラルドの雰囲気やちょっとした仕草で、それが誰かを探している動きだとすぐに気づけたのは、寄宿舎を警護する聖騎士たちも同じような目をしていたからだ。
いかにも警戒している、警備を行っていると思わせない、聖騎士特有の動きなのだろう。
何かを見つけようとするとき、探ろうとするとき、危険がないか確認する時に彼らが行う動きだ。
そこで、ふと思い出す人物が脳裏をよぎる。
「そういえば、アルって聖騎士だったのかしら?」
ジェラルドと比べても、アルはあまり聖騎士という感じがしないが、第一王子であるフェリオの傍にいたということは間違いなく黒星であり、聖騎士だろう。
けれど、幼少期に出会ったよく笑う彼は、どう思い出しても聖騎士には見えなかった。
ジェラルドや寄宿舎を護衛してくれる聖騎士と、アルは態度や雰囲気が違いすぎる。
(アルはどちらかというと、キョロキョロと周りを物珍しそうに見てまわる人だったし……)
面白そうな果物があれば、「アレはなんですかねぇ?」と言いながら、フラフラとどこかに行こうとして、フェリオに「お前、オレの護衛だろうが! 仕事しろよ!」と怒られていたことだってあった。
思い出すとクスリと笑ってしまう。
フェリオは、アルの所在について詳しく教えてはくれなかった。
だが、ソフィーはすぐにアルがひょっこりと現れて、昔と変わらぬ笑顔で「お久しぶりですね」と笑ってくれると思っていた。
なぜだか、アルはきっと自分に会いに来てくれると思っていたのだ。
「アル、会いに来てはくれないのかしら?」
ちょっぴり寂しい気持ちで呟く。
「アマネのお礼だって、まだ言えていないし。……今度、機会があったらフェリオにもう一度聞いてみようかしら」
アルのことを聞いた時のフェリオの嫌そうな顔を思い出すと、簡単には教えてくれなさそうだが、何度か聞けば教えてくれるだろう。




