魔女祭り31 魔道王国の野望
「グフッ・・・」
ドサッという音と近衛騎士が漏らした最後のうめき声が刹那の瞬間で不気味に響き渡るその静まった広間の中でその男はつまらなさそうに遺体となった騎士を見下ろす。
(な、なんという腕前だ・・・あの精強で名高いローマ帝国の近衛騎士団が子供扱いだ・・・)
ローマ聖教会使節団の副使であるパスクヮーレは冷や汗を浮かべながらその光景を見ていた。
「さて、もう他に私に剣の稽古を所望される方は?」
ソティリオは自分の周りに横たわる近衛騎士には歯牙もかけぬ表情で辺りを見渡すと一人の男の前でその視線を止める。
「アリスティッド卿、あなたはいかがかな?」
「私は、あまり強くないのでお断りしたいのですけどね」
ソティリオに名指しされたアリスティッド卿はそう言いながらも主であるハインリッヒ王とソティリオの間に立つと
「あなたをこのまま陛下の元まで行かせる訳にはまいりませんので」
音も立てずに護身用の携帯していた剣を抜く。
「ほおー、これはこれは、フッフッフ、先程の騎士達よりは剣の稽古になりそうですね」
ソティリオは眼前に立ちはだかるアリスティッド卿の姿を見て楽しそうに笑う。そして、右手に持っていた剣を一振りして付いていた血糊を払うと獲物を狙うようにアリスティッド卿に近付こうとその足を進めた時、
「ヅルーカイトゥン(拘束)!!!」
「オオッ!!」
「それまでじゃ、ソティリオとやら」
「こ、これは・・・私としたことがあなたのことを失念しておりました、宮廷魔術師ヘルマン・ホト殿」
一瞬の間で拘束の魔術を我が身に掛けられたソティリオは驚愕したようにホトの方に視線を向ける。
「陛下、少しこ奴と話しをさせていただいてもよろしいでしょうか?」
「うむ、許可する。が、その前に怪我をしている者に治療を、ゲッツェ」
「はっ、かしこまりました」
「私も、ご協力させていただきます」
王の指示に答える侍従長のゲッツェとセシリアは倒れている近衛騎士に急ぐ。
「さて、ソティリオとか申したのおぬし・・・無駄じゃ、わしの術からはそう簡単には逃れられん」
体を必死になって動かそうとしていたソティリオに向かってホトは告げる。
「そうですね、無詠唱でここまでの威力とは・・・同じ魔術師として敬意を表します」
と言って、ソティリオは観念したように握っていた剣をガチャンと床に落とす。
「ふむ、殊勝な心掛けじゃ。ところでお主が先程話しておった魔道王国とはいったいどんな国なのじゃ?同じ魔術師であるわしはちと、興味を引かれておるのだが」
「おお、さすがは大陸随一の魔術師と称されるホト殿!!我が尊師が掲げられるわれ等が楽園に興味を持たれましたか、あなた様であれば我等の志にも賛同していただけるものと」
「賛同できるかどうか、まずはどんな国にしようとしているのか話してみろ」
「わかりました。我が魔道王国の国是として偉大にして至高なるサザーランド尊師様に絶対の忠誠を誓うこと」
「ふむ」
「王国の目的は、古から続く魔法、魔術の研究を俗世間のしがらみにとらわれずまた時間にしばられずにするための場所、人員の確保です」
「ほうほう、それは素晴らしいなあ」
「ええ、そうでしょうとも、くだらね俗世間の理など関係なく魔術、魔道の研究及び実験を心行くまで叶えられる・・・これは魔術師にとって至福の環境ではありませんか」
「ふむ、その研究や実験の中には禁呪も含まれておるのか?」
「もちろんです。俗世間で禁呪と認定された特殊な魔法や魔術こそ、実地にて実験をしなければいけませんから」
「ふむ、されどそのためには実験や研究のために使われる素材も購入しなくてはならぬぞ、その資金はいかがする?」
「お金でございますか、それは必要ございますまい」
「それは、何故にじゃ」
「我等が尊師に忠誠を尽くす者共に命じて集めさせれば良いだけですから」
「それは、他の土地から略奪してこい・・・とも聞こえるがのう」
「略奪???ああ、そうとも言えますか・・・しかしながら至高なる御方の国の為になるのであれば必要な物を差し出すのは当然の事だと思えますが」
「ふむ、なるほどな。では研究や実験のためには被検体となる生き物はどうするのじゃ?」
「それは簡単です。我等の至高なる御方の考えを理解できない下等な人々を使用すればよいかと。むしろ我が王国の礎になればその者達にとって光栄なことではありませんか、ハッハッハ」
ソティリオの哄笑が聞こえたその時、
「あなたは、本気でそのような事を言っておられるのですか!!」
手首をソティリオに切り落とされた騎士を治癒の魔法で治療をしていたセシリアが憤然とした表情で詰問をする。
(うん?)と言った不思議そうな表情のソティリオ、何をそんなに怒っているのだという表情を見せる。
「あなたは、人々の命を何だと考えてるのですか!!!」
両目が閉じられたままのセシリアは凜とした姿勢でソティリオに問い質す。
「セシリア殿・・・」
怒りの表情を見せるセシリアにホトが優しく、声を掛ける。
その気配を察したのかセシリアは
「失礼しました、ホト様。お話しのお邪魔をしてしまいました申し訳ございません」
セシリアは、そう言うと気持ちを静めるように両手をぐっと握り頭を下げると膝を折り治療を始めようとする。
治療をまた始めたセシリアを確認したホトは更にソティリオに質問する。
「ところで、お主たちは立国するためには実力を持って領土を奪うとか言っておったがその自信の裏付けはどこからきておるのじゃ、お主たちの王国の主旨についてはよおく理解したがわしら魔術師たちが安心してお主たちの元に参ろうと思ってもその王国がすぐに滅ぼされては困るからのう」
そう言ってニヤリと笑いながらホトは尋ねる。
「ホト殿、それは陛下の下より去るということですか!?」
ホトの言葉に珍しく声を荒げたのはアリスティッド卿であったが
「ジャン、控えておれ」
「はっ、仰せのままに」
ハインリッヒ王はアリスティッド卿をたしなめる。
それを見たソティリオは我が意を得たようなうれしそうな表情でホトの質問に答える。
「おお、そうでありましょうな、ホト殿のご懸念は当然かと。されどその心配は無用でありますぞ、なぜならば」
「なぜならば?」
「我が至高なる御方、サザーランド尊師はかの堕天使ルシフェル様と契約を結ばれルシフェル様配下の魔族召喚並びに、彼等の魔法も使えるようになられました。尊師はその身と引き換えに強大な力を手に入れられたのです、これは、これは、本当に空前絶後の出来事であられます。これをもっても我が尊師がいかに偉大な人物であるかお分かりなられるでしょう!!!彼等魔族の軍団をもってすればいかな国の軍隊であろうと敵ではありません。これも、これも偉大なる尊師の至高なる御人徳がなさる業でございましょう!!!」
一人、愉悦の表情で話すソティリオを一瞥するとホトは自身が仕え敬愛する王に向けて視線を向ける。
視線の先には、ご苦労と言わんばかりの表情で頷くハインリッヒ王が玉座に座していた。
ホト爺さん、さすがの交渉術???それにしてもソティリオは喋り過ぎじゃないかと?
ところで、エルヴィンさんはどうしてるのでしょうか・・・?
最後にまた御挨拶です。
この物語を楽しみにしていただいている全ての皆様にお礼を申し上げます。
本当にありがとうございます。
では、また来週、この時間でお会いしましょうね^^




