二幕二場
その女の子は、胡乱な目をして俺を見下ろしていた。夕日に染まる制服、多分高校生かな?
「ねぇ、おじさんだーれ?」
「俺は……」
俺は……。
なんと答えたものか?
客観的に見ればどうだ? 見知らぬ怪しい男が、一心不乱に草を刈っている。怪しい……のではないか?
しかし、答え無い方が余程胡散臭いだろう。
「ーーたかし、だけど」
そう答えるのが精一杯だ。会話らしい会話なんて久しぶりだな。
「あぁ、たかし兄ちゃんか。ひょろひょろ君食べる?」
"ひょろひょろ君"とはソーダ味のアイスキャンディーに身も細る食感のソーダ味のかき氷を入れた定番アイスキャンディー。赤切製菓の安価なアレは、俺も大好きだ。曖昧に首肯すれば、少女は快活に踵を返して去ってしまう。
散らばる草葉を片付けてる間に、少女が戻って来た。「ん」と、ひょろひょろ君を差し出してくれる。
「サンキュ」
受け取ってバリッと開けるや素早く齧り付く。さっさと食べないとすぐに痩せ細るのだ、ひょろひょろ君は!
「たかし兄ちゃんは今、何やってんの?」
見て分からないのか?
「草むしり」
「や、そーじゃなくてサ」
あー、疑われるわな。上手に騙すには、真実を伝えるのが良い。混ぜる嘘は一滴だけ。
「今は何もやって無いな。大学も辞めちまったし、内定も取れんかったし」
「ふーん」
シャクシャクと涼やかにひょろひょろ君を食べきる。「ごちそーさん」火照った体にいつもの三倍は美味かったな。
「ばあちゃんがそろそろ終わらせておいでって。刈った草はあたしが厩の方にぶっちゃるから」
「うまや?!」
「あー、昔は馬も飼ってたんだって。今はトラクターとか置いてあるのよ」
彼女の中で、俺はどんな設定になっているのだろうか?
風呂がヤバイ。超気持ちいい。何故下着まで用意されてるのか、なんて些細な疑問も溶けて消えてしまう。
夕飯は昨日と同じ感じだ。多分俺の顔は今、微妙な表情を晒しているだろう。
「はぁ食べぇなっさい」
ばあちゃんに促され、気乗りしないまま食べ始める。何故か女子高生も一緒にだ。
「戴きまーー旨いっ!?」
甘く煮付けられたゼンマイにワラビは多分常備菜で、昨日と同じ物に見える。しかしこの違いは何だ!
素晴らしい塩梅の塩加減と甘み、そして薫風の如き苦味がご飯を進ませる。煮っころがしもそうだ。確かに甘い。甘いのだが、途轍もなく美味く感じる。みそ漬けも堪らん。
「てんで働きゃ、てんで美味かろぅ?」
ばあちゃん会心のドヤ顔をご馳走になったのであった。