二幕三場
山の朝は夏でも爽やかだ。
朝飯はこんにゃくのみそ漬けとしょっぱい焼き鮭、ご飯と味噌汁だ。真っ当な朝飯ってのも、悪くないものだな。いかん、毒されてる。
「ばあちゃんは今日も病院?」
「んだ。そろそろ来る頃だんべぇ。夕子ちゃんは、ちっとんべぇお留守番じゃ」
「あーね」
「たかすはよいじゃねぇが、草刈りお願ぇすっぺぇが? えぇが?」
"草むしりをしておいて欲しい"と、仰っているのだろうか? 「はぁ、やっときます」と、返すに留めた。俺、帰れるのか?!
ざりざりと音を立てて、ばあちゃん家に車が入って来くる感じ。タクシーだろうか?
「ケイおじさん! 久しぶりですっ」
謎の少女A改め夕子ちゃんが元気良く挨拶するのは、玄関に現れた親戚らしき男。上がり框に腰を掛けていてもガタイがいい。ラフな壮年って出で立ちだが、只者じゃ無い感がパネェ。
が、明るい夕子ちゃんに相好を崩す。
「おぉ。夕子ちゃんめんこぐなってェ!」
「やーだぁ、ケイおじさんたら。そだ、たかし兄ちゃんも来るんよ。おじさんはお休みね?」
「んだァ。やっと盆休みんな。……たかし君はどぅが? 大事しとるがね?」
まるで昔馴染みのように四角い顔が俺に問いかける。糸のように細める目の奥が、俄かにギラリと光った気がした。
射竦められる。冷たい汗が肩甲骨を伝ってるよ!
「大学も就職も、駄目でした」
駄目でした! 目を合わせて居られず、俯いてしまった。
「そうなん? まぁ、そのうちいきあうべ」
これ以降の追及は無く、ケイおじさんとやらはばあちゃんを連れて行ってしまった。
女子高生と二人きりでは話題の待ち合わせもなく、居たたまれない。俺はいそいそと草むしりへ逃げ出した。
昨日来てた作業着が翻る庭を抜けて、棚田を降りる。昨日の続きからだ。
あれ?
持ち合わせでアパートまで帰れないものかと、端末を取り出す。
圏外
「マジか?!」
ここは、何処だ? ひょっとして詐欺ってるつもりが、拉致な上に軟禁されてなかろうか?
なし崩し的に草むしりをしている(結局やっている)が、現在地も分からない。交通費も心許ない。方言がキツくて、何言ってるか分からない。外部と連絡が取れない。
うわー、詰んでるかも?
考え事をしながらでも、草刈りはオートパイロットで継続され、効率が良くなっていく。背負い籠が結構重くなってきた。
太陽は麦わら帽子に火をつける程に高くなって、草いきれに噎せる。
「たかし兄ちゃーん。焼きまんじゅうが焼けたよー!」
天使や! 天使が降臨されましたよ!




