揺れる心、囚われの絆
船の出航は、ちょっとした修理と積荷が終わり次第とのことになり、各自が準備のために一度解散することになった。
――帰り道、港を降りたエルフィナたちは、町のカフェに立ち寄り、木の香り漂う落ち着いた席で一息ついていた。
メイ=スケ(湯気の立つマグを両手で包みながら)
「もうすぐ船で長旅だなぁ〜……。ねぇカクは、ナリアさんに言ったの?」
ティナ=カク(ストローをくるくる回しながら目を逸らし)
「いいや〜まだ……。なんで?」
メイ=スケ(にやにやしてエルフィナの方を見る)
「へぇ? なんでって〜ねぇ〜エルフィナ様!」
エルフィナ(おっとりと微笑んで頷きながら)
「そうですわね〜。長い旅になるかもしれませんし、今のうちにお伝えしておいたほうがよろしいのでは? 旅に必要な積荷を、船に積み込みましたら出航ですし……」
ティナ=カク(顔を真っ赤にして慌てる)
「ひ、姫様まで〜! 私とナリアさんはそんな関係じゃないですよ〜!」
エルフィナ&メイ=スケ(声をそろえて身を乗り出し)
「えーーー!?」
メイ=スケ(指を折って数えながら)
「あんなにしてもらって〜!? 愛情弁当とか、朝食夕食もいつも作ってもらってるし! 休日も二人でお出かけしてるだろ〜?」
ティナ=カク(両手を振ってあたふた)
「そ、それは……友達としてだよ〜!」
エルフィナ(ジト目でじっと見つめながら)
「……ちゃんとしたほうがいいですわよ?」
ティナ=カク(顔を赤らめて声を荒げる)
「う、うるさいですよ! いちいちプライベートまで干渉しないでください! 例え姫様だからって……人の人生に口出しするのはいただけないです!!」
エルフィナ(ハッとして慌てる)
「ご、ごめんなさい……ナリアさんと仲が良かったので、てっきり。よかれと思って……さしでがましいことをしてしまいました」
メイ=スケ(手をひらひらさせながら)
「カク〜姫さんせめるのおかしくね〜?」
ティナ=カク(ムッとして噛みつくように)
「うるさい! おまえもいつもいつもヘラヘラして不真面目で! 少しはちゃんとしろ!」
メイ=スケ(テーブルを叩いて)
「なぁ!? カク!! いい加減にしろ!」
エルフィナ(両手を広げておろおろしながら)
「二人とも……やめてください。わたくしが悪かったのです。ねぇ、落ち着いて……」
ティナ=カク(苦しげな顔をして目を伏せ)
「……っ、少し……護衛から離れます」
(そう言い残し、椅子を引いて立ち上がり、スタスタとカフェを出ていってしまう)
メイ=スケ(口をとがらせて腕を組み)
「うわー……あいつ〜! 態度悪すぎだろ!! エルフィナ様にまで!!」
エルフィナ(にっこり微笑みを浮かべて)
「いいんですよ。ナリアさんのことは……きっとだいぶ悩んでらっしゃるのだと思います。カクさんなりに整理できずにいるところへ、追い打ちをかけてしまった……。だからこれは、わたくしのせいですわ」
メイ=スケ(むくれて腕を組みながら)
「エルフィナ様〜……優しすぎないですかぁ? 私はゆるせません!」
エルフィナ(イタズラっぽい笑顔で)
「ここのカフェ……美味しいパフェがありましたよね〜たしかぁ?」
メイ=スケ(目を丸くして)
「え? 知ってたんですか?」
エルフィナ(紅茶を口にして微笑む)
「もちろんです! スケさん、ここを通るたびに表のメニュー絵をじっと見てたでしょ〜?」
メイ=スケ(頬を赤くして笑いながら)
「えぇ!? 見られてたんだぁ〜……」
エルフィナ(嬉しそうに身を乗り出して)
「さぁ! 今日は特別にスペシャルジャンボパフェなんてどうです?」
メイ=スケ(目を輝かせて)
「え? いいんですか?」
エルフィナ(にっこりと)
「もちろん♡」
メイ=スケ(両手を挙げて喜ぶ)
「やったー!!」
――こうしてテーブルには、次々と大きなパフェの器が積み上がっていくのだった。
場面は変わり、路地裏――。
ティナ=カク(影を落とした顔で歩きながら)
「……はぁ。やってしまった……。ナリアさんのことになると、どうしても頭に血が上る……。それで……姫様にまで、あたるなんて……」
ティナ=カク(ふと足を止め、険しい目で)
「……ん? あれは……ナリアさん!?」
――港の端、荷馬車の前でもめる声が聞こえてきた。
ナリアが必死に商人らしき人物を庇い、複数の盗賊に囲まれている。荷馬車の積荷は散乱し、盗賊たちが乱暴に荒らしていた。
盗賊頭(いやらしく笑いながら)
「この娘が邪魔したんだ! 捕まえて人質にしろ! おい……猫耳に尻尾……クルド族だな? 珍しいぜぇ、いい金になるぞ!」
ナリア(必死に抵抗しながら)
「やめてくださいっ! この積荷は……村の人々の命をつなぐものなんです!」
⸻
ティナ=カク(鋭く声を飛ばす)
「おい! そこの悪党……いや、盗賊ども! やめるんだな!!」
ナリア(振り返り、瞳を輝かせて)
「カクさん!」
ティナ=カク(刀を抜き放ち、鋭い目で盗賊たちを睨む)
「ナリアさんから離れろぉッ!!」
盗賊(ゲラゲラ笑いながら)
「おい見ろよ、女だ! こいつもまとめて売り飛ばせばいい金になるぜ!」
ティナ=カクは深く息を吸い、居合いの構えを取った。
瞬間――居合の一閃から生じた風圧が、盗賊たちを一斉に吹き飛ばす。
盗賊たち
「ぐわあああああッ!!!」
盗賊頭(目を剥きながら)
「な、なんだとぉ!?」
ティナ=カク(歯を食いしばりながら)
「この人に……指一本触れさせない!!」
盗賊頭(後ずさりしつつ叫ぶ)
「せ、先生! 出番ですぜ!!」
――すると、盗賊団の後ろから黒いローブをまとった魔法使い風の男が現れた。
黒いローブの男(ため息をつきながら)
「やれやれ……こんな相手にてこずるとはな」
ティナ=カク(小さく呟き)
「……ただの盗賊じゃないな。禍々しい気配をまとっている……」
黒いローブの男(右手をかざして)
「黒水よ、この者を捕縛せよ!」
地面に魔法陣が浮かび上がり、どろりとした黒い液体が湧き出してティナ=カクに襲いかかる。
ティナ=カク(刀を抜き放ちながら)
「斬るッ!!」
刀閃が走る――しかし、黒い液体は斬れず、そのまま絡みついてくる。
ティナ=カク(目を見開き)
「なっ!? 斬れない……!?」
黒い液体が腕や足に絡みつき、ティナ=カクの動きを封じた。
ティナ=カク(必死に抗いながら)
「くっ……動けない……!」
盗賊頭(下卑た笑みを浮かべて)
「ははーん! わしらを甘く見ていたなぁ、お嬢ちゃん! さぁ、ずらかるぞ!! こいつも積荷に入れろ!」
ティナ=カク(必死に身をよじる)
「ぐっ……離せッ!!」
ティナ=カクばたばた抵抗するが、盗賊頭に何かを飲まされ気を失った。
ティナ=カク
「……っ!!」
次の瞬間、意識が闇に落ちていった。
――そして彼女は抵抗する力を失い、盗賊たちの手で担ぎ上げられてしまった。
⸻
場面は変わり……カフェ。
テーブルの上には、いくつもの空になったパフェの器が山のように積まれていた。
エルフィナ(紅茶を一口飲みながら、ため息)
「スケさん……いくらなんでも食べ過ぎですわ〜」
メイ=スケ(うなだれてお腹をさすりながら)
「う〜……もう食べられないです〜……お腹がぁ〜……」
(そこへ慌てた様子の御者が駆け込んでくる)
御者(息を切らしながら)
「エルフィナ様!大変でございます! 先ほど町外れで遊んでいた子供達が──偶然、ティナ=カク様とナリア殿が怪しい連中に連れ去られるのを目撃したと!」
エルフィナ(紅茶のカップを持ったまま、凍りつく)
「なっ……なんですって……!?」
⸻
その頃、捕まったティナ=カク達。
ティナ=カク(薄暗い牢屋の中で目を覚まし、息を荒げて)
「……だ、誰かが呼んでいる? ナリア……?」
ガバッと起き上がると、横には心配そうな目で見つめるナリアがいた。
ティナ=カク
「わ、私はいったい……」
ナリア(悲しそうに微笑みながら)
「……私達、捕まってしまったみたいです」
ティナ=カクは周囲を見渡した。錆びた鉄格子の牢屋に入れられ、剣も奪われている。
ティナ=カク(拳を握りしめ、悔しそうに)
「そうか……不甲斐ない……私がいながら……」
ナリア(首を横に振り、必死に言葉をかける)
「いいえ。私こそ、こんなことに巻き込んでしまって……すみません」
ティナ=カク(壁を殴りつけ、声を荒げて)
「くそっ! 私に、もっと力があれば……助けられたのに……くそ!くそぉ!!」
(何度も壁を殴りつける)
ナリア(慌ててティナ=カクの手を取る)
「や、やめてください!!」
ティナ=カク(悔し涙を流しながら)
「……しかし、私は……」
ナリア(ぎゅっと手を握りしめ、真剣に)
「あなたはたくさんの人を、この手で助けてきました。これからも、きっと……エルフィナ様や大切な人を守る手なんです。だから……この優しい手を、痛めないでください」
(少し頬を染めて)
「私にだって……たくさん思い出をくれた、私の大好──」
ティナ=カク(驚いた顔で)
「大好?とは……?」
ナリア(目を逸らし、ちょっとむくれて)
「……うーん。なんでもないです」
ティナ=カク(慌てて)
「え? そのあとは!?」
ナリア(顔を赤くしながらぷいっとそっぽを向く)
「いいじゃないですか!」
――すると、小窓から盗賊の看守が顔を出す。
盗賊看守
「おいおい! イチャイチャしてんじゃねぇよ! お頭がお呼びだ、早く出やがれ!」
縄で手を縛られ、螺旋状の階段を降ろされるティナ=カクとナリア。
ティナ=カク(周囲を見回しながら小声で)
「……ここは……灯台か?」
盗賊看守(鼻を鳴らして自慢げに)
「ああ、そうさ! お頭はなんでも直して作れる天才大工よ!」
ティナ=カク(険しい目で)
「……なぜ大工だった者が、盗賊なんぞに?」
盗賊看守(肩をすくめて)
「さぁなぁ。跡取りを亡くして酒に溺れてたところを……あの魔法使いが誘ったらしい。よくは知らねぇがな」
⸻
やがて辿り着いたのは、灯台内部の広間。
重厚な椅子にふんぞり返る盗賊頭。その横には、黒いローブを纏った男が立っていた。
盗賊看守(胸を張って)
「お頭! 連れて来やした!」
盗賊頭(低い声で)
「入れ!」
ティナ=カクとナリアは部屋へ押し込まれた。
盗賊頭(指を突きつけて)
「おい! お前……エルフィナ姫の護衛、ティナ=カクだな!」
ティナ=カク(驚愕し)
「なっ……なぜそれを!?」
盗賊頭(横のローブの男を顎で示して)
「こいつはなぁ……王宮で働いてたんだとよ。だから顔を知ってたのさぁ!」
ティナ=カク(目を見開いて)
「王宮で……!? おまえ……王宮魔導士か!どうして?」
ローブの男(冷たい笑みを浮かべて)
「真面目に生きるのがバカバカしくなったんだよ。王宮の奴らは“正義感”だの“義務”だのとほざくばかり……他人を助けて何になる? 自分に得もないのに動くなんざ……愚か者のすることだ」
ティナ=カク(睨みつけながら叫ぶ)
「得だの損だのじゃない! 民を助けるのは……我らの勤めであり誇りだ!!」
ローブの男(鼻で笑い、突然ティナ=カクの顔を蹴り上げる)
「くだらねぇ理想だ」
ティナ=カク(床に倒れ込み、血を滲ませて)
「ぐっ……」
ナリア(慌ててティナ=カクの前に立ち)
「や、やめてください!!」
ローブの男はナリアの髪を乱暴に掴み、ぐいと引き上げる。
ナリア(苦痛に顔を歪めながら)
「ぐっ……!」
ティナ=カク(必死に叫び)
「やめろぉぉぉ!!!」
盗賊頭(手を上げて制止しながら)
「おい! 人質だぞ! こいつらは大事に扱え、先生よ!」
ローブの男(不満げに手を離し)
「……そうだな」
ドサッとナリアが床に落とされる。
ティナ=カク(歯を食いしばり、ナリアを見て)
「貴様……絶対に許さない……!」
盗賊頭(いやらしく笑って)
「ははは! そう怒るな。だがな、今からいいことを教えてやる。俺の計画だ……」
ティナ=カク(睨みつけて)
「……計画だと?」
盗賊頭
「エルフィナ姫と、そのクルド族の娘の人質交換だ! 交渉役はおまえだ、ティナ=カク! エルフィナに“助けてくれ”と泣きつけ!」
ティナ=カク(目を見開き)
「な、なんだと……!? 卑怯な!」
盗賊頭(愉快そうに笑って)
「できなきゃ、その娘がどうなるか……わかるだろ?」
ティナ=カク(縄を引かれながらも怒声を上げる)
「卑怯者めぇ!!!」
盗賊頭(片手を振り払って)
「牢にぶち込んでおけ! せいぜい言葉を考えるんだな!」
連れ出されるティナ=カク、しかし振り返って叫ぶ。
ティナ=カク
「……エルフィナ様を舐めるな!! 必ず後悔するぞ!」
盗賊頭(鼻で笑いながら)
「フン……吠えてろ」
⸻
――つづく
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