王女、潜入任務につき
【施設裏口・夜】
ティナ=カク(ひそやかに)
「子供たちの寝室は二階の東棟。見取り図通りなら、廊下を抜けてすぐのはずです」
メイ=スケ(軽く伸びながら)
「ふぁ〜あ、真夜中にこんなとこ入りたくないっての……でも、まぁやるけど」
カクが鋭くスケの肩を小突く。
ティナ=カク
「気を抜かないで。見張りが多い。エルフィナ様が囮になってくれてるみたいだし、間に終わらせるわよ」
スケは魔力を纏わせた手裏剣を指先で回しながら、薄く笑う。
メイ=スケ
「へいへい、こっちは影でこっそりお仕事ってわけね」
二人は施設の窓をこじ開けて中へ。音を立てず、廊下を滑るように進む。
途中、夜勤の職員らしき男が廊下を巡回していたが──
ティナ=カク(低く構えて)
「一瞬よ」
その瞬間、彼女の居合が閃く。
シュッ!
小さな風を切る音と共に、男は糸が切れたように意識を失って倒れた。
メイ=スケ(ひそっと)
「また地味にすごいことするんだから……」
⸻
【二階・寝室前】
子供たちが数人、布団にくるまって震えていた。中には涙ぐんでいる子もいる。
ティナ=カク(小声で)
「静かに、起きて。あなたたちを安全な場所へ連れていくわ」
スケが顔をほころばせ、優しい声で続ける。
メイ=スケ
「こわくないよ。大丈夫、あたしたちは王女様に頼まれて来たんだ」
子供の一人がぽつりとつぶやく。
「クレアが言ってた人たち……?」
スケはウィンクして、肩をすくめる。
メイ=スケ
「そ。クレアちゃんに聞いてるなら話が早いね。さ、行こうか」
カクは後方を警戒しながら先導し、スケは子供たちの間に立って守るように動く。
──だが、階下から怒鳴り声と足音が響く。
「誰か侵入してるぞー!!」
「ガキどもがいねぇ! 逃げたぞ!」
ティナ=カク(目を細め)
「時間切れね」
メイ=スケ(肩を回しながら)
「やれやれ……バレちまったか。さて、こっからが本番?」
⸻
【施設前・中庭】
──静寂を切り裂くような、怒号と足音。
男たちがぞろぞろと現れる。全員が武器を手にしており、明らかにただの職員ではなかった。
その中心、堂々と一人で待ち構えるのは、倒れた男の上に立つエルフィナ。腰に手を当て、堂々としたポーズのまま。
エルフィナ(うんざりしたように)
「やっと来た! まちくたびれたよ。そろそろ、本気だすね」
※転生者、地球の元・男だった頃の喋り方に戻っている。
男A(先頭、戸惑いながら)
「……おい、何だこのガキは?」
男B(刀を構えて)
「変なポーズしてるけど、あいつ……やばいぞ。倒れてるの、たぶん俺たちの仲間だ」
エルフィナ(くいっと手を動かして挑発)
「そうだよ。次は、誰かな?」
男たちがどよめきながら周囲を囲む。
男たち
「このガキ、一人でやったのか……!? 囲め、全員でいくぞ!」
⸻
【数分後】
あっという間に男たちは地面に転がっていた。
残るは──身長2メートルを超える大男!
風が一陣、吹き抜ける。静寂の中、最後の一人が、ズズン……と足音を響かせながら現れる。
大男(にやにや笑いながら)
「おめぇ……なかなかやるなぁ。ちびのくせによぉ、見直したぜ」
エルフィナ(鼻を鳴らす)
「ありがと。でも“ちび”は余計」
大男(胸をドンと叩きながら、自慢げに)
「だが、ここまでだ。俺ぁな……“武”の道を渡り歩いた男よ。山岳の拳僧にも学んだし、獣式拳術も習った。西域じゃ剣闘士とも戦ったぜ! 闘技場じゃ連戦連勝! 筋肉の厚みは力の証明! そして俺は……速ぇんだよ!」
エルフィナ(目を細めて)
「ふぅん……つまり“何一つ極めてない”ってこと。寄り道ばっかして満足するタイプだな」
大男(ぴくりと眉を動かす)
「なんだと!?」
エルフィナ(肩を回しながら)
「体がでかいのは悪くない。でもね、筋肉って“飾り”じゃない。“力を通す道”を知ってる者だけが、本当に強い」
(──ま、教わるまで自分も知らなかったけどね。ハハ)
構えるエルフィナ──重心を落とし、片足を半歩引いた姿勢。
両手の指を軽く開き、片手を胸元に、もう一方を前へ。魔力が全身を巡る。
手のひらが光り出す。
エルフィナ(鋭く)
「王族護身術、衝撃手。行かせてもらうよ!」
大男(ニヤついたまま突進)
「上等だぁぁぁあっ!!」
⸻
エルフィナは男の懐に入り、手のひらを──
バシューーーッ!
大男の胸に掌打が突き刺さるように入る。空気が爆ぜる音。
ゴォッ!!
ドガァァァン!!!
大男の身体が、5メートルほど吹き飛び、地面を転がり、柱に叩きつけられた。
大男「……ぐはっ……な、なん……だと……?」
エルフィナ(肩で息を整えながら、低く)
「……ふぅ……見た目だけの筋肉じゃ、話にならないって……言ったでしょうに……」
⸻
子供たちを安全な場所に誘導したカクとスケが、エルフィナの援護に合流していた。
ティナ=カク(見ていて)
「出た……“男口調モード”。王女様、たまに熱くなるとあれ、出るんですよね」
メイ=スケ(ひそひそ)
「中身……ほんとに姫かよ……いや姫だけど……」
エルフィナ(聞こえてる)
「聞こえてるわよ!!」
ガッツリポーズ!!!
スケ「ごめんなさーい☆」
(小声で)「ダサいポーズ……ぶつぶつ……」
つづく
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