三十年後 2
二日前に急にその橋本さんがうちの病院に入院したのには驚いた。
体調が悪いなど何も聞いていなかったから。
でも顔は土気色であまりよくないし、療養が必要な状況だという。
お姉さんとずっと二人で店を続けていたのにあの震災でお姉さんを亡くされてからは一人できりもりをしてきていて、身よりもないのだと聞いたこともある。
これから橋本さんがどうなるのかを考えるのは怖かった。
だから病室でお話できる時も、わたしはなるべく病気の話は避けていた。聞くのが怖くて。
病室は4人部屋なのだけど、同室は3人でしかも一人は処置室や休憩室などにいって不在のことが多く、もう一人は今は一時退院中だったので、わたしたちは合間をみてはおしゃべりをしていた。
いつもは店先で他愛ない世間話程度しかすることはなかったから、初めて聞くような話が多く出てきて楽しかった。
あまりはっきりは話されないのだけど、橋本さんの子ども時代の話とかも少しずつ聞いた。
大事な友達がいて、その人を失ったことを後悔しているのだとしきりに言って、わたしには友達を大事にするようにと何度も繰り返していたり。
そんな友達がわたしにいただろうか。
生活に必死で余裕がなくて振り返ると大事な友達といえるような存在なんていない気がして寂しくなる。
大事な友達を失った橋本さんと、はじめからいなかったわたしとではどちらがより辛いのだろうか。
橋本さんはお姉さんとは血が繋がっていないという話もこの度初めて聞いた話だった。
なんでも家出をしてきてあの橋のたもとで行き倒れになりかけた橋本さんを、お姉さんが介抱してくれたのが一緒に暮らすようになったきっかけなのだそうだ。
だから橋本さんは言った。「本当の姓はね、橋本じゃないのよ」と。
そんな事情もあって、泣きながら歩いていたわたしをほっとけなかったのだという。
昔の自分を思い出していたのだと。
だからあんなに優しくて、あれからも随分親切に声をかけてくれていたのだなと知って、胸が熱くなる。




