東京 4
いとが連れてこられた日のことを思い出す。
先生は伝手を頼って幾つもの工場など私と同世代の貧しい娘が集まりそうな場所を一年近く探し回ってくれた。
背丈、顔立ち、そして家の状況。
こんな話を裕福な家庭や人脈の濃い家の娘には頼めなかった。
万一本人がいいといっても家のものが探し回ると厄介だからだ。
ある日、先生が珍しく興奮したように戻ってきて言った。
いい子がいたと。
背格好や雰囲気も似ていなくもない上に、片親で、しかも貧しい家庭なのだと。
母親との仲もうまくいっていないようだから、あの母親なら娘を探し回るより見舞金で口をつぐむだろうと。そしてその数日後、いとがうちへやってきた。
わたしはあの日、襖の隙間から土間で立ち尽くしているいとを眺めていた。
頼りなさげで不安な表情のいとをずっと観察していた。
この子が、わたしの代わりに野崎家から嫁にいってくれるのだろうかと、半信半疑で不思議な気持ちでいとを見ていた。
その頃はでもまだ本気だったとは言えない。
あれは先生と私のお遊び、息抜きのようなものだった。
私が生きていくための現実逃避のようなもの。
でも、お稽古をはじめてから、いとは想像していたより飲み込みがよく、わたしのすることをうまく真似られるようになっていった。
訛をなおさせ、言葉遣い、所作を教え、私の部屋に招いて私の着物を着せ、私のすることなすことをすべてその通りに真似をさせた。
訛はいつの間にか消え、手品のように、いとから綾に変わるのだ。
不思議な気持ちになった。
そして少しずつ、私が知っている全てのことをいとに教えた。
親族のこと、野崎家のこと、父のこと兄のこと。
暴力や母のことは言わなかった。
怯えさせたくなかったからだし、昔のように手を上げられることはなくなっていたからでもあるし、口に出すのがこわかったからでもある。
いとの前では涙を見せたくなかった。




