木蓮屋敷 19
決行の日は近づいていた。
わたしは綾さまの言うことにけして嫌とは言えたためしがないのだ。
綾さまはそれをよくご存知だった。
わたしが苦手なことや渋ることがあってもいつも綾さまの懇願でわたしが折れることはわかっていたはずだ。いつもそうだったのだから。
なのに、こんな辛いことをわたしにさせようとするなんて。
そう思うといつの間にかわたしはだんだん綾さまが憎らしくなってきていた。
怒りの気持ちを抑えることができなくなっていた。
あの母にも抱いたことがないような激しい怒り、わがままな弟妹にもいだいたことがない憤り。
わたしはだんだんそれに支配されるようになっていた。
どうやってこの湧き上がる感情を止めればいいのだろう。
大事だったからこそ、大事にされていると思いたかったからこそ、裏切られたということに深く傷ついた。
一方通行なことは最初からわかっていたはずだったのに。
身分も立場も何もかも違い、わたしは金で雇われただけの存在なのだから、こんな怒りを抱くのは間違っている。
間違っていても、でも止められない。
遊びだという話で始めたことが、いつの間にか逃げられないことに変わっていったこと。
綾さまは、わたしが嫌とは言えないことをわかっていてそれを進めていったこと。
ずっと一緒にいたいみたいなことを綾様は口にしていたのに、本当にそれを願っていたのはわたしだけだったという惨めさ……
痛みは怒りに姿を変え、自分ではどうしようもないほど膨らんでいった。




