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木蓮屋敷 12
木蓮が咲き誇る数日間のお昼は、台所を取り仕切るきよさんが腕によりを振るったお花見弁当だった。それを二人で南の縁側でのんびり食べた。
木蓮の香りはこんなに強いんだなとわたしは初めて知った。
花を愛でるような余裕なんてろくになかったからだ。
甘い香りが庭に充満していてそれだけで酔いそうになる。
きよさんご自慢の甘酒の柔らかな甘さ、花の香り、白くて大きな花びら、どれも今まで味わったことのない特別なものだった。
綾さまもこの数日はずっと上機嫌で、熱を出すこともふさぎ込むこともなく、ずっと笑ってばかりいて、それを見ているだけでわたしは幸せな気持ちになれた。
天真爛漫な綾さまだったが、父上と兄上が屋敷に戻ってこられるという話が舞い込んできた折には顔を曇らせた。
曇らせたというより怯えに近い。
瞬時に身体を固くしたのをわたしは感じた。
「いつなの?電報が来たの?」
「夏だそうです。兄上は長くご滞在に。父上は時期は不明です」
「長いの…」
綾さまは黙り込んだ。その日はずっと沈んで過ごされていた。