木蓮屋敷 13
ところが翌日、綾さまは満面の笑みでわたしに言った。
「いいことを思いついたの。とってもいいこと。いと、鎌倉の別荘に行きたくない?」
鎌倉?一体何のお話だろう。
「鎌倉にね、別荘があって小さい頃行ったきりなのだけど、この前も全くお熱でなかったでしょ?きっと身体も丈夫になってきていることだし、日差しだけ気をつけて移動すれば行けると思うのよ。お兄様と長い間顔合わせるのは絶対に嫌だし、向こうもきっと嫌だと思うのよ。お友達連れてきたり騒いだりやかましくするし本当に嫌なの。だから、お父様にお手紙を書いてその頃別荘を使わせてもらおうと思って。いとが付いてきてくれたら私だって家のことも身の回りのこともできるし、先生にももちろん一緒に来てもらうし、だから行きましょうよ」
それから鎌倉行きのことはとんとん拍子に話が進んだ。
この町から出たこともなかったわたしが汽車に乗って鎌倉で夏を過ごしに行くなど、母が聞いたらどれほど驚くだろうか。
いや母はわたしのことなど興味はないのだろう。
仕送りをただ送るだけで母からは文の一度も来たことはないのだから。
母は字が書けないのだが頼めば誰かかわりに書いてくれる者はいる。
そんなことを考えるのはよそう。
わたしは行ったこともない鎌倉や別荘のことで胸が踊った。
いつまでもこうして楽しいままの日々でいられたらどれほどよいだろう。




