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あなたに一言、お伝えしたい

 

 ガチャ、と重々しい音がして、少女は細腕で自分の体ほどもある大剣を持ち上げる。


 初めて見た人はとても驚くが、何のことはない。この剣は聖剣なので勇者である彼女にしか持ち上げることが出来ず、彼女以外の者には、どれほどの力自慢であっても決して持ち上げることの出来ないものなのだ。

 少女にとってはナイフを持ち上げているかのような感覚でしかない。

 魔王を倒すことが出来るのはこの聖剣だけで、聖剣を手にすることの出来る勇者の条件はたった一つ。

 誰よりも強く、強く、魔王を打ち倒したい、という意志があること。

 少女は聖剣に選ばれるための儀式に臨んだ者の中で最も若く、最も弱かった。しかし誰よりも意志が強かった為、聖剣に見事選ばれたのだ。

 聖剣は勇者にしか持ち上げることは出来ない。だが、聖剣は魔王を倒す為の唯一の武器、というだけでそれを手に入れたからと言って、その瞬間に誰よりも強くなれる訳ではない。

 文字通り血反吐を吐きながら、ボロボロになりながら少女は幾多の闘いをくぐり抜けてきたのだ。

 かつて白く嫋やかだった腕は今や細いままながら引き締まり、細かいものから生々しいものまで数えるのも嫌になるぐらいの傷跡が彼女の体には刻まれている。

 それでも決して彼女は歩みを止めなかった。

 ところで彼女は一人でここまで来たのではない、聖剣を持ち上げることは出来なかったが正義感の強い騎士や、国からの報酬を望む傭兵達と共にここまで旅を続けてきた。

 彼らには何度も、何がそれまで普通の少女だった彼女を駆り立てているのか、と聞かれた。

 いつも彼女は、大切な人を魔王に奪われたからだ、と答えてきた。


 それは間違いではない。


 ついに魔王の座す部屋へと続く扉の前まで辿り着いた少女は、これまで頼もしい相棒であり続けてくれた聖剣に心の中で礼を言う。


 少女はかつて、故郷に憧れている男がいた。

 彼はとても強く、正義感に溢れる正しく勇者のような男だった。彼には最愛の恋人がいた。少女は恋人たちの仲睦まじい姿にも、とても憧れていた。

 けれど、彼が少し留守にした間にその恋人である女性は殺されてしまったのだ。旅の、男たちに。

 彼は怒り狂い、その男たちを惨たらしく殺し、そして恋人の亡骸を抱えて何処かへと消えていった。


 彼が後の、魔王である。


 彼と恋人の物語にとって、少女はただの名もなき端役でしかないのだろう。

 けれど少女の物語は、少女が主役だ。

 彼女は聖剣を握り、傷痕だらけの腕で扉を開く。


 まずは拳を一発お見舞いして、話はそれからだ。


 あなたの運命はいなくなってしまったけれど、私の運命はあなたなの。


「……わたし、あなたに一言お伝えしたいんです」


 愛してる、て。




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