23.愛情
翌日は快晴で、絶好の外出日和といえた。
侍女らは天候に恵まれたことを喜んでいたけれど、エリザベートは嬉しいとは思わなかった。
今日の外出にシャーロットも同行することになったことで、一気に憂鬱になってしまったのだ。
「晴れてよかったですね。今日行く予定のカシュール湖の周囲には珍しい花も咲いているので、女性に人気なんですよ」
レオンハルトはエリザベートとは正反対に上機嫌で、それが余計に面白くない。
どうせレオンハルトは今でも忘れられないほど好きな元恋人と出掛けられることが嬉しいのだろう。
今日の行き先を決めたのはレオンハルトだから、シャーロットのことを思って行き先を決めたのかと邪推してしまう。
「貴方は行ったことがあるの?」
探るように言ってしまった。
肯定されたら、誰と行ったのかと気になるのに。
「えぇ。何度か行ったことがあります。本当に綺麗なところですよ」
レオンハルトの答えに、誰と行ったの?と聞いてしまいそうになる。
シャーロットと行ったとしても正直に言わないとは思うけれど、答えに詰まったり、誤魔化したりしようとしたら、シャーロットと行ったと言っているようなもの。
だったら知りたくはない。
「そう。楽しみね」
楽しみだとは思えなかったけれど、そう言う他にない。
こんなことになるなら、昨日の夜会でゼノを誘わなければよかった。ゼノを誘わなければシャーロットも同行を願い出ることはなかっただろうし、仮に願い出ても新婚旅行だからと断ることができたのに。
「では行きましょうか」
上機嫌なレオンハルトに促され、侍女や護衛を伴って出発する。
ゼノとシャーロットも既に支度を終えており、各自馬車に乗って移動を始めた。
湖までの移動も最初は四人で同乗する予定だったが、流石に昨日が初対面ということで別々の馬車に乗ることとなった。
四台の馬車には先頭からそれぞれゼノ、シャーロット、エリザベートとレオンハルト、同行する侍女らが乗り、周囲を騎乗した護衛が囲んでいる。
「あちらの人だかりは今流行りの焼き菓子を売っていて…」
馬車から見える景色にレオンハルトが説明をしていく。
城下町を進んでいるときには、そこで流行している食べ物や娯楽について。田畑が見えればこの国の特産品について。
レオンハルトは実に様々なことを知っていて、それに驚いていると、お忍びの成果だと笑って見せた。
「ねぇ、あれは何?」
出掛ける前の憂鬱など吹き飛んでしまったエリザベートが目に入るものについて質問し始めれば、馬車の中は会話が絶えなくなった。
「市ですね。申請すれば誰でも自由に物の売買ができるんですよ」
レオンハルトから聞くセルビスの話は、帝国にはない制度もあって興味深い。
帝国に戻ったら、レオンハルトにはセルビスの制度を帝国で活用できないか検討してもらうのもいいかもしれない。
馬車から見える景色と会話に夢中になっていると、あっという間に目的地に着いた。
カシュール湖のある森の入り口で馬車を降り、そこから暫く歩いて湖まで行くらしい。
「足元には気を付けて」
馬車から降りる際にレオンハルトが差し出してくれた手に掴まり、そのままエスコートを受ける。
きちんと整備されているとはいえ森の中とあっては足元が悪く、レオンハルトに助けられながら進む。
ふと気になって周りを見渡すと、シャーロットはゼノの手を借りていた。
そのまま暫く歩き、目的地である湖のほとりに到着すると、エリザベートはその美しさに見惚れた。
透き通るような綺麗な湖は日の光を浴びてキラキラと輝いていて、周囲には見たことのない珍しい花が咲き誇っている。
「綺麗…」
「お気に召していただけましたか?」
景色に見入っていると、隣にいるレオンハルトが問い掛けてきた。
「とても素敵だわ」
「よかった。最初にこの景色を見せたかったんです。ここは父と母の思い出の場所で、幼いときから家族で何度も来ていたので。僕も結婚したら家族にこの景色を見せたいと思っていたんです」
少し照れながら言ったレオンハルトの言葉に、エリザベートの方が真っ赤になってしまいそうだ。
両親の思い出の場所であり、自身にとっても大切な場所にエリザベートを連れて来たかったと語るレオンハルト。彼にとって大切な場所に連れて行きたいと思う存在になれたことが嬉しい。
レオンハルトの言葉を嬉しいと思うのと同時に、言葉を聞くまではこの場所がシャーロットとの思い出の場所ではないかと邪推していたことが恥ずかしくなった。
シャーロットとのことをいつまでも気にしているのはもうやめよう。
レオンハルトの妻はエリザベートなのだから。
ストックが尽きたので、今後は不定期更新となります。なるべく早く更新できるよう頑張りますので、引き続き応援お願いします。




