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救国の戦乙女は幸せになりたい!  作者: 桜川ヒロ / 秋桜ヒロロ
― 腹黒王子と遠出します! ―
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「え、貴方……」

「君は、さっき降ってきた」

 青年もコレットの存在に気が付いたようで、二人は互いの顔を見つめたまま固まってしまう。

 そう、彼はコレットが先ほど城の塀を飛び越えた時にぶつかった青年だった。あのとき見とれてしまった緑色の瞳は、きらきらとコレットを映している。

 二人の反応に国王は嬉しそうに頬を引き上げた。

「おぉ。もう知り合いだったのか! それは話が早い」

「もう知っておられるかもしれませんが、ルトラス様はこの国の第三王子。ヴィクトル様の弟君であらせられます」

 宰相の言葉にコレットは驚いた顔で隣を振り返った。

 第三王子といえば、アルベールがいない現在、城で唯一《神の加護》を使える王子である。

「そうなの⁉」

「あぁ、兄弟って言っても、異母兄弟だけどね。……でも、それなら頼みって……」

 ルトラスが出てきたことにより、ヴィクトルの中である程度『頼みごと』の見当はついたらしい。難しい顔をする息子を見下ろしながら、王は更に機嫌がよくなったようだった。

「さすがはヴィクトルだな、理解が早い。頼みとは《神の加護》絡みについてだ」

 王は、コレットを見つめながら呆けるルトラスを視線で指した。

「ルトラスが《神の加護》を使えなくなった。全く使えなくなったわけではないのだが、その力は風前の灯どころか、燃え尽きる前の香のそれだ。そなたにはルトラスの《神の加護》を取り戻してもらいたい」

「えっ⁉ 力を⁉」

「ヴィクトルの報告書で確認したぞ。前回の事件の時、そなたは一度《神の加護》を使えなくなったそうだな。その経験で、どうかルトラスの《神の加護》を取り戻してほしい」

「そ、それは……」

 コレットは狼狽えたような声を出した。

 前回コレットが力を使えなくなったのは、ヴィクトルの発言が引き金になり、《神の加護》の存在を拒否してしまったからだ。もし、ルトラスにも同じことが起こっているのならば、力を取り戻すことは可能だろう。しかし、それは他人にどうこうできる領分ではないのだ。

 国王は続ける。

「もちろん《神の加護》は私も使える。しかしな、生まれてこの方ルトラスのような状態にはなったことがないのだ。そもそも私の力はあってないようなもの。使う機会がほとんどないのだがな」

 国王の《神の加護》がどんなものなのか、コレットは知らなかった。そもそも、《神の加護》というのは王族の象徴であって、戦争のような機会がないと使うことはほとんどないのだ。それも、王族が戦場に出るという危機的な戦争でしか使われない。なので、国民は《神の加護》の存在を伝説のようにしか認知していない。つまり存在は知っているが、見たことがあるものはほとんどいないのだ。

 アルベールの力だって、前回戦うまでコレットは知らなかった。前回の戦争でアルベールは出ていたようなのだが、戦場が違ったからか見たことも噂を聞いたこともなかった。

「戦姫よ。知恵ならヴィクトルに借りればいい。アルベールと連絡が取れなくなった今、王位はルトラスにかかっているのだ。《神の加護》が不安定な者が王位についたとあれば、国政に良からぬ混乱を招いてしまう可能性がある」

「連絡が取れなくなったって……」

 前回の事件での黒幕がアルベールだったことは王には話していない。証拠もなければ、安易に話してしまえばヴィクトルの立場が危うくなってしまうからだ。

 アルベールもそれをわかっていたのか、ヴィクトルには追えない方法で国に何度か連絡を入れていたのだが、王の言葉から察するにそれは途絶えているらしい。

 数か月前の時点ではヴィクトルがアルベールから届いた手紙から居場所を探していたので、連絡が取れなくなったというのならそれ以降だろう。

 アルベールの名が出ると、ルトラスの視線はあからさまに下がった。そして、兄であるヴィクトルの方を見て、さらに顔を顰めてしまう。

「兄上の件については、後から詳しく話すよ」

 ヴィクトルが頭を寄せ、そう囁く。コレットは無言で一つ頷いた。

 王の中でこの『頼みごと』は限りなく『命令』に近いようだった。そうなれば断るという選択肢は残されていない。

「頼むぞ戦姫、ヴィクトル。必ずやルトラスの《神の加護》を取り戻してくれ」

「……善処します」

ヴィクトルの言葉に、コレットも頭を下げた。



短いですが、キリがいいので

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