逆襲
暗い藍色に沈む砂丘が、ほの白く月光の中に浮かび上がっていた。
説教使と三人の修身士は、異郷の夜空の元、薄い天蓋一枚を屋根および寝床として大地に身を横たえていた。
第三次開拓軍の大半は、少数の見張りを残して輸送船内に戻っていた。第二次開拓軍のものと思われる大量の死体を発見したことから、現地人の襲撃に対する警戒心が生まれたためだった。
開拓軍の軍人たちが持つ説教使への反感や懐疑心によって、説教使たちは屋外になかば強制的に追い出された。少数の見張りの兵士、彼ら装備する兵器のみが砂浜に残されていた。
屋外は身を切るような寒さだった。昼の湿度と温度がうそのように、空気は氷点下まで冷え切って、空気中に満ちていた水分は砂の表面には降着し、表面に白く凍りついていた。説教使の周りで三人の修身士たちはがたがた体を震わせていた。
静まり返った夜の底で、なにかが音を放っているのか、時折耳を和ませる玲瓏な音が聞こえていた。
説教使と三人の修身士は、青みを帯びた闇の中、無言のまま白く眼を光らせている。いずれも、寝付けないようだった。
夕刻、輸送船が開拓地に到着後に、説教使が兵士たちに打ちのめされて以来、四人はほとんど口をきいていなかった。みんな暗い面持ちで考え込むように黙り込んでいた。
やがて、フィオナナンシーがため息交じりにつぶやいた。久しぶりの発言だった。
「……寒うい。ちょっと寝れそうになあい」
説教使は無言でフィオナナンシーを抱き寄せた。三人の修身士たちは、全身に毛布を巻きつけているが、あまり寒気をしのぐ役には立っていないようだった。説教使の体は、断熱効率の高い皮膚によっておおわれているため、あまり温かいとは言えない。説教使自身は、寒冷な環境においてさほど苦痛を感じていなかった。
フィオナナンシーは説教使の腕の中から抜け、立ち上がった。口から白い息が煙のように漏れる。説教使はフィオナナンシーの背中を見上げた。かたわらで声が聞こえた。
「あたしも」
マリアアリスだった。声が震えている。
「ちょっと一服。なんつーか、もうヤニぎれ。えへへ」
テントの外へ出るフィオナナンシーの後を追って、マリアアリスは外に出た。風ひとつない染み入る冷気の中、青い月が輝いている。昼間に、砂漠から舞いあがった砂塵のためか、月の周りに紫色の虹が輪を描いていた。鈍い蛍光灯の光のように、月光は砂漠を薄暗い光で照らしている。
ぱちっとたばこが音をたてた。マリアアリスの鼻と口元が青い闇の中に橙色を帯びて、つかのま浮かび上がった。
フィオナナンシーはそっぽを向いている。体を震わせ、ぼんやり浮かび上がる地平線を眺めている。
「なんでついてくんのお? 邪魔なんですけどお」
「なんの?」
たばこの先端が輝いた。マリアアリスは深々と息を吸い込んだ。むせたようにせき込む。両腕で体を抱え込み、足踏みする。
「マズい寒さ。これマジやばくね?」
フィオナナンシーは吐き捨てるように言った。
「やばいのってえ、寒さだけじゃないでしょお」
「は? 何が」
しらばっくれたように言うマリアアリスに、フィオナナンシーはいらいらと答えた。
「夏期補習だよお。この合宿がそもそもやばかったってことお」
マリアアリスの水色の瞳が、鋭く光った。
「あー。だまされちゃったよね。マリたちさ」
「どうするのお?」
「さあ?」
平然としているマリアアリスに向かって、フィオナナンシーは噛みついた。
「よくそんなのんきな顔してられるよお! 本当に信じられなあい、あったまおかしいんじゃないのお?」
「ねー! 寒くないのー?」
様子をうかがうような面持で、さなええりなが現れた。長い金髪が月光を反射してちらちらと光る。三人はじっと互いを見た。
「さなはさあ、これからどうする気い?」
険しい顔でフィオナナンシーはさなええりなに質問する。さなええりなは言葉に詰まったように相手の顔に眼をやる。
マリアアリスが言った。
「いまさら、どうしようもなくね? とりあえず死なないように……」
ふとマリアアリスは言葉を切った。目に見えない何かに脅えるように視線を周囲に走らせた。
「アレしないように、なんとか帰るまで、頑張るしかないじゃん」
フィオナナンシーは疑い深そうに言った。
「帰れんのかなあ?」
「そんなー! 怖いこと言わないでよー!」
さなええりなが悲鳴を上げる。フィオナナンシーは舌打ちせんばかりの顔つきでさなええりなを見た。
「だってえ、事実だしい! ちょっとは先のこと考えないとお。さなって意外とバカなんじゃないのお?」
「でもー! これからどうするかなんて、まだ今は全然わかんないよー!」
突然泣き出しそうに顔をゆがめるさなええりなを、とりなすようにマリアアリスは言った。
「今がまじぃのは、さなだって多分わかってんじゃん? つか、もうあーだこーだガタついたってしゃーなくない? 未来に生きようぜ! マリたちの手で変えられるのは未来だけなんだから。過去や現在にこだわってても意味ないよ? アクティヴ思考ってやつ」
「マリのはなあんも考えてないだけでしょお! てゆうかあ、今、現在そのものをどうかしようとしないんだったらあ、未来が変わるわけないじゃないのお。窮地ハイになってんじゃないのお?」
「根が前向きなの! それに、今はさなの言うみたいに、どうなるかとかわかんなくね? こんなくそ寒いとこで朝までしゃべり場して何がやりたいわけ?」
さなええりなはこくりとうなずく。フィオナナンシーはため息をついた。
「悪かったよお。ただのグチでえす!」
「気持ちはわかるよー!」
フィオナナンシーは疑り深いまなざしをさなええりなに向けた。
「そういう決まり文句みたいなの、やめてくれないかなあ? きっとセンセーのくれた“清典”とかに書いてあんでしょお」
さなええりなは傷ついたようにうつむいた。マリアアリスが苦笑しつつ励ます。
「あんま、気にすんなよ。フィナ機嫌悪い」
さなええりなは安堵したようにマリアアリスを見た。言い訳するように言う。
「結構、いいこと書いてあるよー! マリも読んだらー?」
マリアアリスはへらへらと笑った。
「マリは字読むのキライ。つか、漢字読めないし」
フィオナナンシーは苦々しくつぶやいた。
「守さまなんているわけないよお。見たことないしい! しかも外次元の話でしょお?」
さなええりなは悄然と黙り込んだ。
マリアアリスは煙草を地面に放り捨てた。
「もうマリ、テントに帰る。寒すぎ」
「フィナはもうちょっと外にいるう」
フィオナナンシーは体を震わせながら、歩を進める。背後をさなええりなが追おうとした。
「あ、あのー、さなもいようかなー!」
「まあまあ、女の子たちはもう帰ろ」
怪訝な面持のさなええりなの肩を、マリアアリスは引き留めた。むっとしたような面持でフィオナナンシーは二人をにらみつけ、歩み去る。
説教使の容体はほとんど回復していた。ひとりでテントにこもる説教使の目つきは、鬼火が宿っているかのように激しい熱でぎらついていた。手足の長い褐色の肉体から、不穏な気配が凝って湯気のように立ち上っている。
拡張知覚で展開した日誌に文字を記入している途中、ふと入力が止まった。開拓地の状況をすこしずつ書き溜め、本国と通信ができるときにまとめて送信する予定の報告書だった。
恥じ入るような面持で一人、説教使はわだかまる闇の中、あたりをはばかるように息を殺して体を凍りつかせていた。
マリアアリスとさなええりなが戻ってきたとき、説教使の思いつめたような眼差しが救われたように和らいだ。
「寒くなかったですーか?」
様子をうかがうように固くなっていたさなええりなの表情が笑みに緩んだ。
「体がぶるぶる震えてるけど、全然平気ー!」
「いやいや、こんなのフツーに死ねるって!」
説教使の左右に二人の少女は腰をおろした。説教使の体に寄り添う。
「てゆーか、センセー、元気になったんじゃん?」
「ご心配おかけしましーた。もうだじょぶでーす」
「よかったー! ちょっと心配したー!」
ごそりとテントの入り口が開いた。フィオナナンシーが立っている。身をよじるように体を震わせていた。
「冗お談じゃないよお、もお! 空気冷たすぎだよお」
「お帰りなさーい。外気温は(あ)零下十度に達しているようでーす。危険ですよ」
「こっち来なよ。ケッコーあったかいよ」
マリアアリスがフィオナナンシーを手招きする。フィオナナンシーは浮かない面持で逡巡するように立ち尽くした。マリアアリスは手を伸ばす。フィオナナンシーの手を取り、強引に引っ張った。
フィオナナンシーは説教使の体の上に座りこんだ。その両脇には、マリアアリスとさなええりながそれぞれうずくまっている。マリアアリスが、フィオナナンシーの体に腕を巻きつける。フィオナナンシーは迷惑そうに顔をしかめた。
「どう? 体くっつけあったらあったかくね? ほら、さなももっとくっつきなよぉ」
「ん、う、うん! わかったー!」
戸惑ったような面持を笑顔に変えて、さなええりなはフィオナナンシーに寄り添う。フィオナナンシーは気まずそうに体を丸める。
「ちょ、ちょっとお……わかったけどお、フィナはいいよお……。三人だけでどおぞお」
「は? エンリョすんなって」
フィオナナンシーの首筋をマリアアリスの吐息がなでる。肌に鳥肌を立て、フィオナナンシーはほおを赤らめた。マリアアリスにとがめるような視線を向ける。声を抑えたささやきを投げつけた。
「いいかげんにしてよお! へんなかんじになっちゃうだろお!」
マリアアリスは侮るように鼻を鳴らした。さなええりなは不思議そうな面持ちで二人をかわるがわる見た。ためらいがちに尋ねた。
「どうしたのー?」
マリアアリスが得意げにさなええりなに答える。
「こいつさ、実は……」
あせった様子でフィオナナンシーが割り込んだ。
「もおお、しつっこおい! ほんっとかんべん……」
その瞬間、耳を聾する爆発音が轟然と響きわたった。テントをびりびりと振動させる。
三人の体は石のように固まった。血相を変えた説教使がテントを飛び出す。
冴え冴えと澄んだ冷気の彼方に黒い巨大な影がうずくまっていた。月光を無数の蒼玉のように反射する水面に、輸送船の天を衝く巨体がそびえたっている。船内には、第三陣開拓軍の参加者および物資の大半がいまだ収容されていた。
到着が昼を過ぎており、また大量の死体が発見されたことで周囲の斥候など安全確保に注意がむけられたためだった。偵察、迎撃に必要な少数の兵器と人員以外は、夜襲を警戒して輸送船に退避させられた。
輸送船の膨大、無骨な鯨影が揺らめいている。後光のように淡い光がはためいていた。蒼い夜闇を桃色に染めている。何かがはじけるような音がこだまを伴って聞こえてきた。
風がふわりと説教使の体をなぞった。冷気をはらんだ大気の揺れに、物が燃える異臭がかすかに混入していた。
再び轟然と大音響が大気を振動させる。
ぱっと光の輪が瞬いた。輸送船の船体がくっきりと闇の中に浮かび上がった。船殻を縁取るように、まばゆい炎の鎖がじりじりと輸送船全体に巻きついていた。
無数の叫喚が津波のように地上に押し寄せる。輸送船に満載されたHF次元人の悲鳴のようだった。三人の説教使見習いがあわててテントから飛び出してきた。
説教使の長身にしがみつく。みんな、説教使の腰のあたりに頭があった。不安げにあたりを見回す。燃え上がる輸送船を目の当たりにし、三人は息をのんだ。
荒々しい足音を立てて、戦騎が三人のそばを駆け抜けた。
周囲から立て続けに甲高い破裂音がいくつも聞こえる。つかのま茫然と立ち尽くしていた説教使だったが、あわてて三人の修身士を腕の中にかばいつつ、地に伏した。目の前の地面が、破裂するように土くれを飛ばした。破裂音は、火薬推進式の銃器が弾丸を発射する音だった。
数人連れ立って、駆けていた戦騎隊のうち一人が、もんどりうって地面に転がり落ちた。銃槍を構えた戦騎隊の反撃が開始された。
身の丈程度の長さをもつ白い棒の先端を目標に向ける。銃口がうがたれた先端から、閃光がほとばしる。
夜の中で、幻のように輪郭が定かではない白い砂丘に、赤く輝く光弾が飛翔する。弾体がつぎつぎと着弾、炸裂し、周囲に砂塵の飛沫が四散した。宙を貫く砂柱のはざまに、吹き飛ばされた人影が垣間見える。
「ひるむな! 体勢を崩しては敵の思うつぼだぞ!」
司令官の声が空気を貫いた。騎乗の司令官は、矢継ぎ早に指示を飛ばしながら、兵士の間を駆け回っている。
輸送船から空気をゆさぶる無数の悲鳴が上がった。巨大な輸送船は内部に大量の積み荷を積載したまま、猛然と火炎を吹き上げ始めた。巨大な松明と化した輸送船はおびただしい命を燃やしながら、赤々と周囲を照らした。静かな冷たい夜は炎熱で蒸発してしまったかのようだった。
説教使と三人の修身士に、温かい砂のようなものが降りかかる。輸送船の炎に巻きあげられたすすだった。
説教使は三人を両腕で抱き上げ、安全地帯を求めて足早に歩を進める。あたりは昼のように明るくなっていた。
「パンフィロロドリゴ!」
背後からの大音声に、説教使は身を固くした。聞こえなかったかのように、先へ進もうとする。その前方に、戦騎ごと司令官が回りこんだ。
「手を貸せ! 武器は使えるだろう」
説教使は固い声音で返事をする。
「はい。これから我々は輸送船のほうへ向かおうとしております。邪魔をしないでいただきたい」
決然とした説教使の視線を、さもつまらないもののように見下ろし、司令官は冷然と言った。
「不要だ! そちらは総督が差配しておられる。構うな!」
「わたくしは聖職者ゆえ、人を殺めることはできません」
「だったらそうするがいい。とにかく空いた戦騎に乗れ。そのままではお前だけでなく大事な修身士の命も拾えまい!」
司令官につき従っている従者の背後に、乗り手のない戦騎が十機ていど連なっていた。さらに、爆音があたりに満ち、すべてのものをみしみしときしませる。司令官は説教使に言った。
「警戒していたはずが、完全に不意打ちを食らったよ。海から侵入されるとは思ってなかったんでな。気がつけば、兵士の半数以上が夜闇に乗じて首を掻かれているありさまだ。逃げ回っていれば助かるなどと楽観視するなよ? 多少なりとも戦力になるものは総動員せんとわれらも第二陣開拓軍の二の舞だ」
「守よ、われらを護りたまえ……!」
不承不承、戦騎にまたがろうとする説教使へ、司令官はさらに言う。
「修身士も戦騎に乗せろ。ほかのHF次元人より扱いが上だと思ったら、ディメンズ校出身だそうだな。軍事教練を受けているはずだ」
説教使は逡巡するような視線を三人の顔に向けた。
「みんなさん、戦騎、乗った事ありますか?」
「ある! こっち来る前に教えてもらった」
マリアアリスは答えると同時に説教使の後ろにつながれた戦騎に飛び乗った。フィオナナンシーが無言で続く。緊張した面持ちで操縦装置に手をやる。さなええりなはおびえた表情で足をすくませた。説教使はさなええりなの顔を覗き込み、優しげな声を出す。
「さあ、早くセンセーの後ろに乗りなさい。一人ならぜんぜんダイジョブでーす」
さなええりなはすでに戦騎にまたがっているマリアアリスとフィオナナンシーに目をやった。唇をかみしめ、頭を左右に振った。
「ううん……! だ、大丈夫―!」
ぎこちない動作で戦騎にまたがった。
「来い!」
司令官と従者が先に立って駆ける。
「みんなさん、準備よろしですか?」
説教使は心配そうに背後の三人に声をかける。三人は戦騎を操ることで精いっぱいのようだった。必死の面持で説教使の後を追う。
ひっきりなしに銃声が砂漠の至る所から響き渡った。
もうもうと砂塵が巻き上がり、砂漠を騎兵が行き来する。悲鳴があがり、騎馬ごと兵士が砂の上に崩れ落ちる。
閃光が明滅し、爆音とともに土煙りが膨れ上がる。戦騎の足もとに、現地人の姿が垣間見える。兵士たちの手に、鋭くとがった七色の光が伸びた。圧縮エネルギー弾を射出する銃口から、接近戦時には斥力波の刃が展開される。戦騎の上から、兵士は長い槍と化した銃槍の穂先を繰り出し、地面に伏せた現地人を貫く。白い砂地に、黒い鮮血の飛沫が長くほとばしった。
敵味方の入り組んだ乱戦のさなか、炎に包まれた輸送船が音をたてて崩壊し始めた。剥落した装甲から青白い炎が噴き出し、帯となってたなびいた。一段と明るさを増した輸送船の崩壊にDT次元人の兵士は目を奪われた。悲痛な嘆声があがる。
開拓軍の兵士は地上から駆逐されつつあった。暗闇と砂漠の隆起を巧みに利用し、身を隠して射撃する現地人は、手ごわい反撃を受けながらも、確実に騎兵たちを屠っていった。
趨勢を敏感に察知した司令官は、周囲の兵を周りに集めた。
「射撃を一か所に集中させ、敵を排除しろ! その一点に向かって強引に包囲を抜ける!」
兵士たちは口々に返事する。
「了解!」
司令官は四方へ素早く隊列を整える指示を投げる。輝く銃刀を頭上に振りかざし、号令をかけた。
「突撃!」
兵たちは声を揃えて声を張り上げる。
「突撃!」
残存した騎兵たちは一団となって最後の突撃を敢行した。かまえた銃槍からエネルギー弾を一斉に撃ちだした。豪雨のように赤い光の弾体が降り注ぐ。騎兵たちの前方に巨人のごとく魁偉な土煙が猛然と膨れあがった。爆風が荒れ狂い、引きちぎられた現地人の肉体が膨大な砂とともに舞い上がる。
津波のような兵たちの渦に、巻き込まれるかのように説教使と三人の修身士は戦騎を駆った。説教使は、銃槍の穂先を伸ばした。遅れがちになる三人をかばいながら、威嚇的に武器を振り回す。
不意に、足もとに小柄な現地人の姿が現れた。
現地人は砂にまみれて灰色に染まっていた。身長ほどもある長大な銃器を肩に担いでいた。叫び声とともに、銃口を説教使いへ向ける。
説教使の体内に迷いがからみついた。一瞬、ためらうように槍の切っ先がふらりと揺れた。銃声と同時に、槍が一閃する。
現地人の体を、輝く穂先が深々と貫いた。
説教使の頭のそばを、弾丸がすさまじい速度で飛びぬける。衝撃波が説教使を痛撃した。
がっくりと説教使の体が戦騎の上で崩れる。背後の三人が悲鳴を上げた。速度の落ちた説教使を、三人の戦騎が囲む。説教使の体はバランスを崩し、いまにも落馬寸前だった。ずるずると滑り落ちようとする体を、細い手がつかむ。
「センセー! 死なないで!」
悲痛な声が、説教使の脳裏を貫いた。苦い悔恨に曇っていた黒い瞳がにわかに鮮烈な眼光を放つ。目が覚めたように説教使は顔をあげ、周囲を見回した。恐怖におののき、すがりつくような三人の瞳が、説教使を取り巻いていた。力を喪失した指先が、銃槍の柄を握りなおした。戦騎の操縦装置へ体を向ける。説教使はもつれる舌で言った。
「わたしは……ダイジョブでーす。早く逃げましょー」
「うん!」
三人は一様に目を輝かせた。
すでに開拓軍の残存部隊から遅れている。先行する兵士たちは、四周から猛烈な集中砲火を浴び、散り散りになっていた。説教使は槍をおさめ、戦馬から飛び降りた。三人の修身士もたどたどしく従う。
操縦装置から伸びたコントロールワイアの先端を握り、説教使は戦騎の脚を折りたたみ、姿勢を低くした。
「こっそり遠くに逃げましょーね」
河畔で燃える輸送船の照明は、急速に勢いを失っていた。あたりの夕闇が色濃く深くなりつつあった。
激しく揺らめく砂丘の陰にまぎれ、説教使たちは暗闇に息をひそめながら進む。突然、説教使が足をとめた。砂の隆起のはざまに横たわった現地人の双眸が、闇の帳にうがたれた穴のように地面にうずくまっている。砂地に転がっていた銃身が跳ねる。銃声が轟いた。まばゆい虹色の環が閃光と化して眼を射る。
じりじりと波紋がゆらめく銃槍の穂先が、現地人の額に突きつけられていた。現地人は銃を構えたままの姿勢で、動きを止めた。説教使は低い声で言った。
「うせろ! さっさと行け!」
現地人は銃を抱え、説教使を警戒しながら姿を消した。説教使はそっと安堵のため息を漏らした。脇腹に手をやる。指先が血でぬれていた。痛みを押し殺し、何事もなかったかのように歩みを再開する。
四人は深まる夜の中を進んでいった。




