雨の止まない街!?②
「エルフって、みんな弓が使えるんですか!?」
「かっこいい! 一緒に写真撮ってもいいですか!?」
「エルフって、朝一番に花や葉っぱについた、一番澄んでて綺麗な露しか飲まないって聞いたんですけど!」
「どうして――」
「うるさーいっ! 静かに! 一人ずつ質問してっ!」
普段は穏やかなササス・サスサも、さすがにテーブルをバンッと叩いた。
「せめて……ズズッ、せめて私に……もぐもぐ、このご飯を……バリッ、食べ終わらせてよぉぉ!」
そう叫んだ、その時だった。
空がみるみる黒く染まり、突然、大粒の雨が降り始める。
「えぇ……またかよ。この一か月で、もう十七日も降ってるぞ」
誰かがうんざりしたように呟くと、店内にいた客たちは慣れた様子で次々と帰っていった。
傘を持っていなかったササス・サスサはというと――。
「……まずはご飯。」
そう決めて、最後まで食べ切ることを優先した。
「おいお嬢さん、早く帰ったほうがいいぞ」
店主が心配そうに声をかける。
「この雨は普通じゃない。この街じゃ『雨が降ってから一時間以上外にいるくらいなら、魔王討伐のほうが安全だ』って言われてるんだ」
「ありがとうございます。分かってます」
ササス・サスサはそう答えながらも、箸を止めることはなかった。
◇
「……雨、降ってきた?」
沢恩は外を見つめた。
幸い、公園のベンチは屋根付きの東屋の下にあり、まだ濡れてはいない。
「えっ? どうしよう?」
サリスも雨に気づき、不安そうに空を見上げる。
「これ、試してみる!」
サリスは最小出力の防護結界を展開した。
半透明の球体が二人を包み込む。
「一緒に行こ!」
サリスは沢恩へ手を差し伸べる。
二人はそのまま、人通りの少ない歩道をゆっくり歩き始めた。
「ねぇ……なんでみんな、あんなに急いで家へ帰ってるの?」
サリスが沢恩を見上げる。
「……おかしい。何かある」
沢恩は即座にそう判断した。
その直後。
バチバチッ――
空から降ってきたのは雨だけではなかった。
雹だった。
「わぁ!」
生まれて初めて見る雹に、サリスは思わず手を伸ばす。
コツンッ。
「いたっ!」
雹が指先に当たり、慌てて手を引っ込める。
ぷくっと頬を膨らませた。
「大丈夫か?」
沢恩は苦笑しながら空を見上げる。
「朝からずっと青空だった。それが急に大雨になって、この規模だ。どう考えても自然現象じゃない」
その瞬間。
ゴォォォォッ!!
暴風が街を飲み込んだ。
四方八方から雹が結界へ叩きつけられる。
「きゃっ!」
サリスは慌てて結界の出力を引き上げた。
パキパキパキパキッ――
雹が砕け散る音が絶え間なく響き、不安を煽る。
その時――
『Link. Beyond Magical. Success.』
無機質な機械音声が鳴り響く。
沢恩は即座に銃を構え、引き金を引いた。
サリスはそこで初めて気づく。
巨大な岩が二人めがけて飛来していた。
「っ!?」
バァンッ!!
岩は光弾に撃ち抜かれ、粉々に砕け散る。
「……助かった」
二人は同時に息を吐いた。
「走れるか!? 急ぐぞ!」
「うん!」
サリスは力強く頷き、二人は雨の中を駆け出した。
「そういえば崢拓は!?」
沢恩はすぐに携帯端末を取り出し、崢拓へ通信を入れる。
◇
その少し前。
わずか五分。
たった五分で、ササス・サスサは天才的な結論へ辿り着いていた。
「店長! 風邪薬と解熱剤ください!」
店へ飛び込みながら叫ぶ。
「え? あ、あぁ……はい!」
訳が分からないまま店主は薬を差し出した。
「えっ!? 雹まで降ってきたの!?」
ササス・サスサは一気に青ざめる。
全力疾走。
バシャッ!!
水たまりを踏み抜き、全身が一瞬で冷え切った。
「いったぁぁぁぁぁ!!」
戦闘中の傷なら我慢できる。
でも、それ以外の痛みだけは絶対に我慢しない。
雹が容赦なく全身へ叩きつけられる。
「痛い痛い痛い痛いっ!!」
涙目で叫びながら走る。
風はさらに強くなった。
「きゃあああぁぁぁ!!」
雹は均等に全身へ降り注ぐ。
息も絶え絶えになった、その瞬間。
ふと目を開くと――
一台の電動バイクが空を飛びながら、自分へ一直線に突っ込んできていた。
「……え?」
ササス・サスサは反射的に横へ飛び込み、そのまま地面を何度も転がる。
ビシャッ!!
全身ずぶ濡れ。
「さ、寒ぅ……。さっきのバイク……崢拓のじゃ、ないよね……?」
ガタガタ震えながら立ち上がる。
その直後。
再び大量の雹が彼女へ襲いかかってきた。




