Memory ~存在した証~⑦
「さらさら……」
木の葉は静かに枯れ落ち、
大地はゆっくりと闇に染まっていく。
「お父さん……
来てくれたんだね。」
Kealnonは墓の上から降りてきた。
その髪は真っ白になり、
頬は痩せこけ、
苦しそうに咳をしている。
見るからに衰弱していた。
「お願いだ……
息子よ……
帰ってきてくれ……!」
男は涙を流しながら膝をつく。
「そんなことしないで。」
Kealnonは優しく父を抱き起こした。
「僕はもう……
こんな姿だから。」
そう言って、
境界へそっと手を伸ばす。
触れた瞬間、
その部分だけが跡形もなく消えた。
手を引くと、
身体は元通りに戻る。
「そんな……
どうしてだ……!?」
父親は崩れ落ち、
声を上げて泣き始めた。
「もう苦しまないで、お父さん。」
Kealnonは静かな瞳で父を見つめる。
「本当は分かっているよね。」
「僕は最初から存在していなかったって。」
その優しい問い掛けに、
Kealnon以外の全員が息を呑んだ。
「!」
「お父さんとお母さんは、
告白したばかりで、
まだ結婚もしていなかった。
その時、
お母さんは亡くなった。
なのに、
僕がお父さんの実の子供なんて……
そんなこと、
あるはずないよ。」
その姿は、
まるで天から降りてきた神のようだった。
「僕は知ってる。
お父さんがどれだけ苦しんできたのか。」
「そして、
お父さんとお母さんが、
黄金の木の葉に包まれた場所で出会ったことも。」
Kealnonは静かに続ける。
「でも、
僕はずっと一緒にはいられない。」
「水に落ちた石が作る波紋も。
叫んだ声のこだまも。
何度繰り返しても、
いつか必ず消えてしまう。」
「だから――」
Kealnonは小さなハーモニカを取り出す。
静かな旋律が流れ始めた。
男は、
最初に彼女と出会った日の景色へ戻っていた。
彼女は優しく微笑みながら、
彼を見つめている。
男は、
ただ泣くことしかできなかった。
「あなた、
どうしたの?」
女性は優しく尋ねる。
「君を……
本当に愛している。」
男は震える声で答えた。
「だけど……
だけど……
俺は全力を尽くしたのに、
救助も間に合わなくて……
俺は……」
女性はそっと彼の唇へ指を添えた。
「それは、
あなたのせいじゃない。」
「もう悪い夢は見なくていいの。」
「もし私に会いたくなったら、
秋を楽しみにしていて。」
「私は落ち葉になって、
またあなたに会いに来るから。」
そう言って、
彼女は静かに彼を抱きしめた。
男は涙を拭い、
ゆっくりと歩き出す。
「さようなら、
お父さん。」
Kealnonは一枚の羽根となって、
静かに空へ溶けていった。
北方大陸のような美しい世界も、
同時に崩れ始める。
幻想は消え、
世界は元の姿へ戻った。
音楽も、
いつの間にか止んでいた。
男は目を擦る。
まるで、
長い夢を見ていたようだった。
「ありがとう……。」
男は四人へ頭を下げる。
そして、
Kealnonにも、
静かに感謝を告げた。
……
「ブォォォン……」
崢拓の運転する車が静かに走る。
後部座席では、
三人とも疲れ切っていた。
「……」
ササス・サスサは、
膝の上のライフルを見つめる。
そして、
隣にいる三人を見つめた。
(私は……
最後までみんなを守る。)
そう静かに決意する。
沢恩もサリスも、
いつものように言い合いをすることはなかった。
車内には静かな空気だけが流れていた。
「……沢恩。」
サリスが小さく呼ぶ。
「ん?」
「幻覚の中の私は、
そんなに怖かった?」
「えっと……。」
沢恩は言葉に詰まる。
サリスは少しだけ笑った。
「私は、
絶対そんな風にはならないから。」
そう言って、
真っ直ぐ沢恩を見つめる。
「……」
沢恩も何も言えず、
ただ彼女を見返した。
その時。
サリスの髪に、
一輪の虹花が咲いたように見えた。
「!」
沢恩は目を見開く。
思わず瞬きをする。
次の瞬間には、
花はもう消えていた。
けれど、
サリスの瞳には、
子どもっぽさや無邪気さの奥に、
どこか柔らかな優しさが宿っているように見えた。
やがて、
空はゆっくりと夜へ染まり始める。
夕焼けだけが、
どこまでも美しく輝いていた。




