第2話・START!異世界の匂いに釣られました
街へ向かう道は、思っていたよりもずっと賑やかだった。
石畳の通りの両脇には小さな屋台が並び、人々の声が途切れることなく行き交っている。
肉や魚、野菜に果物、雑貨なんかもチラホラ。
あれこれ気になる!
けどルーグさんに案内してもらってる手前、寄り道もしにくい。
ギルド登録終わったらあれこれ見てやんよ!!
てか腹減ったなぁ……。
「……なんか、めっちゃいい匂いしねぇ?」
思わず鼻をひくつかせて周りを見渡す。
目の前では、焼き鳥らしきものがじゅうじゅうと音を立てて、香ばしい匂いを漂わせている。
思わず匂いに釣られ、立ち止まる。
「……でもお金なんてないわよ?」
隣で華蓮が冷静に呟く。
「ぐっ……くっそー!腹減ったー!」
俺は思わず拳を握った。
──異世界に召喚された──
だなんて実感するより先に、腹が減る現実がジワジワと迫ってくる。
さっさと掃除終わらせて、おやつのどら焼き食っとくんだった!!
「まぁ腹が減ってはなんとやら、だよな」
前を歩くルーグが立ち止まって、くっくと笑った。
その瞬間、屋台のおばちゃんから声がかかる。
「その子ら、異世界人かい?」
「あぁ、さっき会ったばかりでな。これからギルドに向かうつもりなんだ」
ルーグが答えると、俺と華蓮を珍しそうに見つめる屋台のおばちゃん。
人の良さそうな人相で、恰幅のいい……失礼。
これまた気風が良さそうなカラッとした感じのおばちゃんだ。
「あれまぁ、そりゃご苦労なこったね。これ食って元気だしな!」
差し出された串焼きを見て、俺たちは思わず顔を見合わせる。
「ありがとうございます!うまそー!」
「こら、兄さん。……ありがとう、いただきます」
程よく焦げ目が付いた、多分鶏肉だろう。
香ばしい匂いが俺の食欲を刺激するッッ!
ぱくり。もぐもぐもぐもぐ……?ごくん。
「うま……いけど、何か、惜しくねぇ……?」
「そうね……味付けされてないみたい?」
「地元の焼き鳥食いてぇ……」
「せっかくのご好意なんだから文句言わずに食べなさいよ」
俺と華蓮は、食べながらも小声でコソコソ言い合う。
「自慢の串焼きのお味はどうだい?」
「う、うまいっす!これ味付けとかは……?」
「味付け?肉の旨味で十分だろ!」
かっかっかっ!と、おばちゃんが笑い飛ばす。
確かに肉は弾力もあって美味いけど……。
「ちなみに、お塩とか胡椒とか……」
思わず華蓮が尋ねると、ルーグとおばちゃんの驚いた声がハモる。
「「胡椒!?」」
「おいおい、胡椒って……」
「塩はともかく胡椒なんて、そこらの食堂でも扱ってない貴重品だよ?」
マジか。その世界線なのか。
俺と華蓮は顔を見合わせる。
「……異世界では、これが普通なの?」
「あ、あぁ……塩は品質悪かったり、胡椒は金と同じ値打ちだったり、まあそんな設定だな」
「……知ってたなら言いなさいよ」
「言う前に聞いたのお前だろーが!」
小声で言い合っていると、おばちゃんがくいっと身を乗り出した。
「塩ならあるけど、少し苦いよ?」
「いや、大丈夫っす!うまいっす!」
タダ飯に文句なんて言えるか。
「……塩が苦いって、ニガリ的な感じなのかしら?」
うーん、と華蓮が首を傾げる横で、俺は串を見つめつつ小さくため息をついた。
確かに、塩が苦いなんて俺たちの知ってる塩とはだいぶ違う気がする。
「胡椒なんて金と同じ値打ちだしな」
横でルーグが肩をすくめる。
……やっぱり。
「……この世界、思ってたより飯のハードル高いな」
「塩コショウ欲しいなんて贅沢言わないの」
「塩コショウ言い出したのお前じゃね?」
華蓮のやつは、俺に責任を擦り付けるのが上手い。
くっそー、いつかやり返してやる!
「とにかく、ごちそうさまでした!」
腹が落ち着いたところで、俺は手を合わせた。
「あいよ!元気出たなら行きな。ギルドはこの先だよ」
おばちゃんが親指で通りの奥を指す。
「助かります。ご馳走様でした」
華蓮がぺこりと頭を下げる。
「おばちゃん、ありがとー!」
「あいよ!頑張るんだよ!」
おばちゃんにお礼を言い、俺たちは屋台を後にして通りを歩き出す。
すれ違う人々の視線が改めて“異世界に来た”って実感を突きつける。
そりゃ服だって制服のままだし、珍しいわな……。
黒髪の人も見当たらねーし。
それが二人揃って歩いてれば、誰でも見るよなそりゃ……。
「ギルドかぁ」
「まずは情報収集ね。お金の価値も分からないし」
「胡椒が金と同じ価値の世界だもんなぁ……」
そんな他愛ない会話を交わしつつ、俺たちは街の中心にそびえる建物を見上げた。
重厚な扉の上には、交差した剣と盾の紋章。
──冒険者ギルド。
「いよいよ異世界っぽくなってきたな」
思わずニヤリと笑う俺に、華蓮が軽蔑するかのような目を向ける。
「……変なこと言ってないで。入りましょ」
「そーだな」
俺たちは深呼吸して、ギルドの扉を押し開けた。
読んで頂きありがとうございます!
応援して頂けると励みになります。




