第16話・VALUE!異世界では売れるんですか?
「ご馳走様でした!」
三人分の皿は、見事に空になっていた。
ルーグさんは満足げに腹をさすり、華蓮は幸せそうに椅子にもたれている。
おかわりは軽めにしたとはいえ、よく食えたなこの二人……。
「はー、食った食った!こんなに上手いメシは初めてだ!」
「大袈裟っすよ」
「大袈裟なもんか!トマトをあんな風に食べるのも、卵を半焼きするのも初めてだった」
「トロトロした卵のことを、半熟卵って言うんです……美味しいですよね、半熟……」
椅子にもたれたまま、華蓮がぽつりと言う。
「卵は生で食えないってのが常識だったんだが……」
日本育ちの俺たちにとって生卵は当たり前の存在だけど、海外ではそうじゃないし……。
異世界も同じなのかもしれない。
「いやでも、ビビることなく食ってくれて嬉しかったっす!」
「いやぁ、正直ビビったさ」
「そうなんすか?」
「生で食べるな、その常識を吹き飛ばす美味そうな匂いと見た目。食うしかないだろ?」
そう言ってククっと笑い、お茶を飲みながら続ける。
「あいつらにも食わせてやりたいぜ」
「パーティメンバーっすか?」
「ああ、あいつらもびっくりするぞ。普段食ってるものは、俺と変わりないしな」
「いつもはどんな食事なんですか……?」
復活した華蓮がお茶を飲みながら問い掛ける。
「昼は携帯食ばかりだな。パンと干し肉。これがまた硬い上にしょっぱくてな」
「干し肉も美味そうっすけどねぇ」
「不味いとまでは言わんが、俺みたいな冒険者にはどうしても物足りないからな。それに毎食だぞ?」
「う……それは飽きますね」
「だろ?野営する時は、その辺で獲物捕まえたりもするが……大して上手くもないしな」
「調味料とかは……?」
「荷物にもなるし、塩は前に説明した通り、あまり美味くない。素焼きして食うのがほとんどだ」
ルーグさんはため息をつき、肩をすくめる。
その顔を見る限り、素焼きもイマイチなんだな……。
「それと比べると飯屋は美味いが、庶民が行くようなところは、どこも似たようなもんさ」
確かに飯屋には何度か行った。
こう言っちゃ失礼だけど、「不味くはない」って感じだったもんなぁ。
「お貴族様でもない限りは、食事に関してはそんなもんなんだよ」
Cランクのルーグさんでさえ、普段の食事には満足しきれてないらしい。
料理人が軽く見られてるのも、無理はないのかもしれない。
──そうだ!
「ルーグさん、このトマトソース持って帰りませんか?」
「トマトソースを?」
「これパンに付けて食べるだけでも、美味いと思います!」
「こんな手間が掛かるもん、いいのか……?」
「はい!作ろうと思えば大量に作れるんで!」
「ありがとな。あいつらも絶対喜ぶ」
華蓮に目配せすると、こくりと頷いて椅子から立ち上がる。
そのまま厨房へ行き、余ったトマトソースをガラス瓶に詰めた。
「感想もお願いします。兄さん、褒められるとやる気が出るタイプなので」
そう言いながら、華蓮が瓶を手渡す。
確かにそうだけど!なんか恥ずかしいわ!
「ああ、もちろん。こんどあいつらにも、ソータの料理を食わせてやってくれな!」
「もちろん!」
数日後。
いつもの日課に加えて、料理をする時間が増えた。
さらに俺たちはスキルを駆使して、使える食材をどんどん増やしていた。
……食事だけレベルアップして、俺たちのレベルはそのまま。
未だに初心者用の依頼しか受けられてないせいで、まだ蓄えはあるとはいえ減ってくばかりの金貨。
だ、大丈夫なのか、俺たち……。
「なー、今日の夕飯どうする?」
「……焼肉食べたい」
「ホットプレートないじゃんか」
「フライパンでいいじゃない」
「鶏と豚しかねぇぞ?」
「……牛肉ってなかなか売ってないのね」
「昨日もこの会話したよな……」
俺たちは牛肉に飢えていた。
調味料も増えてきて、鶏でも豚でも美味しく食べられるようになった。
だけど、肝心の牛肉はなかなか市場に出回らないらしい。
「焼肉に備えて、今度鉄板とか作ってもらうとかどーだ?」
「いいわね、それ」
くだらない雑談をしながら料理をしていると、ドアの方が騒がしい。
なんだ?と思った瞬間、ノックと同時に「おーい」と声がする。
扉を開けると、ルーグさんの後ろにパーティの面々が並んでいた。
「ボク達もいるよー!」
シーフのフィンさんが、ひらひらと手を振る。
俺は扉を大きく開け、そのまま部屋の中へと案内する。
華蓮が「どうぞ」と椅子を勧め、お茶の準備を始める。
四脚買っておいて正解だった。
「えーと、今日は……?」
「あのねー!トマトソース美味しかったー!」
「もうフィンったら……ソータさん、トマトソースとても美味しくいただきました」
セラさんがフィンさんを軽くたしなめつつ、丁寧に頭を下げる。
「ほらー!レインもお礼言わないとー!」
「……美味かった」
「もーレインはー!お礼じゃないじゃんー!」
どうやら、お礼を言いに来てくれたらしい。
「そんな、あんなのでそんな喜んでもらえるなんて……」
「あんなのじゃないよー!」
「そうですよ、本当に美味しかったんです」
「お肉に付けても最高だったんだよー!」
「……と、まぁ。こいつらにトマトソース食わせてから、ずっとこんな調子でな……」
ルーグさんが苦笑しながら、頬をぽりぽりとかく。
「喜んでもらえて良かったっす!」
「それで相談なんだが……定期的にトマトソースを売ってくれないか?」
「え?トマトソースをですか?」
「ああ。金額は言い値を払うとまでは言えないが……金はきちんと払う」
「あ、いや、そういうことじゃなくて。トマトを買ってきてもらえれば、いつでも作りますけど」
「…………」
室内がしんと静まり返る。
な、なにかやべーこと言ったか?
ルーグさんが一つため息をつき、口を開く。
「ソータ」
「は、はい」
「そんな安売りするな。こんなトマトソース、この街じゃどこにも売ってないんだ」
「それは……確かにそうですけど」
「ソータは料理人なんだ。その技術に金を払う。至極当然だろ?」
「そうだよー!」
そう言われれば、そうかもしれない。
──でも……。
「でも、そんな大したもんじゃないっすよ。家で作ってただけですし……」
軽く笑いながら、思わず視線を逸らしてしまう。
金を払うほどのものだなんて、正直考えたこともなかったんだ。
「兄さん」
華蓮が静かに口を開く。
「皆さん、ここまで言ってくれてるの」
「いや、まぁ……」
「料理人として、お金も、想いも、きちんと受け取りましょう?」
華蓮の言葉に、うんうん、と頷く面々。
「──それに」
「な、なんだよ」
「そろそろ兄さんの料理で、何か商売出来ないかと考えていたの」
そう言うと、にっこり笑う華蓮。
それにつられて、一同が吹き出す。
「ははっ!カレンの言う通りだ!」
「ええ、私もそう思います」
「ボクもー!宣伝しちゃうよー!ね、レインー!」
「概ね同意だ。……宣伝はしないが」
盛り上がる声に囲まれながら、俺は頭をかく。
華蓮をみると、満足そうな含み笑いをしている。
くっそ、華蓮め。こうなると予想してただろ!
「わ、分かりましたよ。ちゃんと考えますって!」
嬉しいやら恥ずかしいやら。
照れ隠しで言い放つと、また一段と笑いが起きた。
商売にする、か。
いやいや、急展開すぎるって!
ただの趣味だったのになぁ。
……まぁでも。
こんなに喜んでくれるなら、やってみるのもいいかもしれない。
「いっぱい宣伝しなきゃー!」
「宣伝しすぎると、私達が買えなくなりますよ?」
「う、それはダメだー!」
「他にもソース作れるんだろう?」
「あら、それも楽しみですわね」
…………。
「兄さん」
「な、なんだよ……」
「ふふっ、忙しくなりそうね?」
こ、こいつ……!
やっぱり前から企んでただろ!
我が妹ながら、末恐ろしいわ……。
俺の平凡だったはずの異世界生活、これからどーなるんだろうか。
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次回更新・3月6日




