【第20話】ヒールの検証をしようとしたら、なぜか膝の上に美少女が座っていた件
【第20話】ヒールの検証をしようとしたら、なぜか膝の上に美少女が座っていた件
異世界の出であることをナヴィに告げた後、
俺たちはスキルの話題をもう少し掘り下げてみることにした。
「主殿のその《ヒール》じゃがの、正体を明かすなとは言ったが…スキルを使うなとまで言うつもりはない。が、先も言ったように強力過ぎる場合は使い所を考えたり加減が必要じゃ」
…なるほど。
異世界人=特殊なスキルを使っていたという事実が広まっている以上、むやみやたらと強力なスキルを使っていては俺が異世界人では、と疑われる可能性も出てくるかもしれない。
そういうわけで、今日は《ヒール(EX)》の“効果”について、改めて検証してみようという流れになった。
俺たちは簡素なテーブルを囲んで向き合うように座っていたが――
「では早速じゃが、主殿。手を出せ」
「え?」
「傷はないが、何かしら反応があるかもしれん。我にヒールを使ってみよ」
ナヴィは席を立つと、俺の隣に座る。
膝と膝がくっつくほどの距離の近さだ。
「えっと……なんか近くない?」
「ぴとっとした方が感覚が掴みやすいのじゃ。ほれ、手を取れ」
……おっさんの俺が勝手に意識しすぎてるだけだった。反省しなくては…。
差し出されたナヴィの手のひらに手をかざす。
淡い緑の光が、ゆっくりと少女の体を包んだ。
「……ふむ」
ナヴィが目を閉じる。
しばらくの間、集中するように微動だにせず、そのまま口を開いた。
「……魔力がほんのり巡っておるな。まるで、ぬるま湯に浸かっているような心地じゃ。これは“回復”というより、“補填”――足りぬ分を補っておる、という感覚じゃな」
ふわっとした説明だが、言いたいことは少し分かった気がする。
傷がなければヒールは“微細な魔力回復”として作用する、という事だろうか。
…あまり魔力というもの事態にピンと来ていないが。
「……ふむ。じゃが、もう少し詳しく見たいのう」
「え? ちょ――」
ひょい。
ナヴィが、俺の膝の上に座った。
「……」
「……」
「……いやいやいや!?」
突然のことに動揺して、慌てて声を上げた。
「な、ナヴィ!?流石にこれは近すぎるというか、その、乗らなくていいんじゃないか!?」
「主殿にぴとっとせねば感覚が掴めぬのでな!」
似たような言い訳を二度繰り返された。
降りる気配がないので、気を取り直しナヴィの背中越しにそっと手をかざす。
いつもより慎重に、身体には触れぬように意識しながら――《ヒール》を発動。
淡い光が、再びナヴィを包む。
「……むむ」
唸って考え込んでいる。
「……う〜む。やはり、主殿の魔力は一切減っておらぬようじゃ。これは魔術とは別物じゃな。通常のヒールなら、多少なりとも魔力は消費されるはずじゃからの」
俺自身も何かを消費したような感覚はない。
つまりこの《ヒール(EX)》は、スキルであって魔術ではない――と。
他人の魔力の補充もできて、死んでいなければ呪いや病、手足の欠損すら回復する消費0のスキルかぁ…。
「……強力すぎるな、これ」
「うむ、強力じゃな。ゆえに人目には気をつけよ。我でさえ回復できたのじゃから、他の者に使えばあっという間に異常性がバレるぞ」
ナヴィが軽く振り返る、真剣な目つきだ。
(……確かに、気軽に使える反面、状況によってはバレるリスクが高くなるか…)
俺は小さくうなずいた。
「分かった。加減には気をつけるよ」
うむ!と胸を張ったナヴィは、どこか得意げで。
――そのまま俺の膝に乗りっぱなしだった。
(……流れ的にそんな気はしたけども)
そんな心のツッコミを押し殺しながら、俺はまた静かにため息をついた。




