【第19話】異世界バレした朝
【第19話】異世界バレした朝
ナヴィの手足が戻ったその翌朝、まず俺を悩ませたのは――彼女の服だった。
ウチに来たばかりの頃、さすがにボロ布のままでは忍びなくて、子ども用の服を数着買った。
もちろん、着替えさせる時もなるべく見ないように細心の注意を払ったつもりだ。
だが今――その服は今や完全にサイズオーバーしていた。
特に胸元。
子ども用のため明らかに布地が限界を迎えている。多分本人も苦しいんじゃないだろうか。
他に買ってあった服も当然サイズが合わないため、俺の服しか替えがない。
そういう事で一番厚手のシャツをナヴィに渡したところ――
「む。なかなか悪くない着心地じゃの」
袖が手の甲まで隠れるほどぶかぶかだったが、本人はまんざらでもなさそうだった。
それから、場面は小さな寝室から移り、
俺とナヴィはリビングへと向かっていた。
小さな足音を立てながら、ナヴィが俺の後ろをついてくる。
その視線は、きょろきょろと落ち着きなく部屋のあちこちを眺めていた。
「この家は、こうなっておるのか……。寝室しか知らなかったゆえ、新鮮じゃな」
そう呟く声は、どこか楽しげだった。
「まあ、古い家だけどね」
壁も床もガタガタ、リビングも古いソファと木のテーブルがあるだけ。
俺たちは向かい合うように、リビングのテーブルに腰を下ろした。
「しかし……手足が急に治るとは。今までそんな様子はなかったよね?」
俺が切り出すと、ナヴィはふむ、と小さく頷いた。
「うむ。我も、起きたら急に生えていてびっくりしたぞ」
寝起きで手足がある驚きって、どんな気分なんだろう……。
そんな事を考えつつ、ヒールのことを思い出す。
「レベルで回復効率が上がるのは理解してたけど……これも、効率が上がったからって考えていいのか…?」
ぽつりと呟くと――
「む?レベル?」
ナヴィが首をかしげた。
(あ、そうか。この世界にはレベル制って概念がないんだったな)
この世界に来て、スキルについての話は聞いてもレベルに関する話を耳にすることはなかった。
「えっと、俺は《ステータスウインドウ》ってのが見れてね。そこにスキルの詳細とか、成長度みたいなものが表示されるんだけど…」
「――主殿」
不意に、ナヴィの声の調子が変わった。
「異国の出と聞いておったが……もしや、主殿は異世界から来たのか?」
さっきまでの砕けた雰囲気とは打って変わり、どこか慎重な色を帯びる。
(あれ、言っちゃまずい話題だったのか……?)
空気の変化にちょっと戸惑いながら、俺は小さくうなずいた。
ナヴィはしばらく考え込むように黙った後、静かに語り始める。
「我は見たことはないがの、“異なる地”より来た者たちがおるとは聞いたことがある。そやつらは皆、主殿のように《ステータス》というものと《特殊なスキル》を扱っておったそうじゃ」
「…そうなのか」
「うむ。そして……異界の者を捕らえ、スキルを悪用せんとする連中もおったそうじゃ。人にも魔族にもな」
ぞくり、と背筋に冷たいものが走った。
「安心せい。当たり前じゃが我は誰にも言わぬ。…じゃが、あまり不用意に口外せぬ方がよいぞ」
…異世界人の立ち位置というのはこの世界では微妙なものらしい。
ナヴィの忠告に、俺は素直にうなずいた。
(教えてもらえてよかった……頼りになる子だなぁ)
そんなことを思いながらも、ふと気になった別のことを尋ねた。
「あ、そういえば……ナヴィ。傷の回復だけじゃなくて、体も成長しているようだけど…」
問いかけると、ナヴィは胸を張って言う。
「うむ!先ほども言ったが、我は魔力不足で体が縮んでおっての。主殿のヒールで魔力も多少回復したようでな。本来の姿に近づいたというわけじゃ」
「……なるほど」
魔力で体が縮むのか。
魔族はみんな同じ体質なのだろうか…?それともこの子が特別なだけなのだろうか。
(何はともあれ――回復してよかった、本当に)




