【第12話】目を覚ます少女と挙動不審なおっさん
【第12話】目を覚ます少女と挙動不審なおっさん
――目が覚めた。
久方ぶりに訪れた意識は、不思議と穏やかで。
喉は乾いていたし、身体は重かったが……それでも、心地良い目覚めじゃった。
(ふむ……?これは、夢……ではないのか?)
目を開けると、ぼんやりと天井が見える。
(見える……? 我の目が……また、見えておるのか?)
どれほどぶりか。視界が明瞭に戻るのは、いつ以来のことか覚えておらぬ。
ふと、左肩に――ぬくもりを感じた。
ぐるりと顔を向ければ、そこには見知らぬ男がいた。
兵士でも、奴隷商でもない。黒髪の異国の風体。
目の前のこの男は――ただ我の肩に、そっと手を添えておった。
しかも、何やらひとりで慌てておる。
「ごほん……おじさんは、君の傷を治す“お医者さん”みたいなもの、なんだよ。今やってるこの光も、その治療の一環でね。あー…い、痛くないかい?」
(……医者?)
何を言っておるのか、さっぱりわからぬ。
我を助け医者を名乗るとは正気の沙汰とは思えぬ…。
じゃが、治療と称するその手から放たれる光は、見たこともない種類の癒しじゃ。
(……なんじゃ、コイツは)
この我を、“治す”などと。
信じられん……いや、そもそも、理解が追いつかん。
どうして?
なぜじゃ?
なにゆえ、ここまでする…?
疑念は渦を巻くばかりだが、男はただ落ち着きなく動いておる。
ぺこりと頭を下げたり、目線を逸らしたり、何やら気まずそうに目元をこすっておった。
(……おおよそ、我を害する気配はない)
……いや、違う。
“害がない”のではなく――“恐れておらぬ”のじゃ。
それが、何より理解できぬ。
兵士も、商人も、同族すらも我を恐れた。
忌み、蔑み、恐れながら扱った。
当然であろう。我は――妾は魔王軍最凶とまで言われた存在なのじゃ。
…それが当然だと思っておった。
じゃが、この男は――
我を前にして、笑っておる。それも和やかに。
(……おかしい。奇妙じゃ。理解できぬ)
どうして……? なぜ、ここまでする?
理解が追いつかぬ。いや、最初から追いつくような話ではないのかもしれぬが…
(わからぬ。が……温かい…)
そのぬくもりが、じわりと沁みて――
我は、また瞼を閉じた。
今は、まだ……思考するには、少しばかり疲れておる。
けれど――
次、目を覚ましたとき。
この“異質なる男”に、少しくらい言葉を返せるような気がした。




