【第10話】おっさんに徹夜は堪える
【第10話】おっさんに徹夜は堪える
少女の小さな寝息が聞こえる。
それだけで、ほんの少し胸を撫で下ろす。
昨日とはまるで別人のように、顔色はだいぶ良くなっていた。
青白く干からびていた肌にも、ほんのりと血色が戻ってきている。
「……効いたんだな」
俺の《ヒール》が。
このスキルが、本当に命を救ったのだと、初めて実感できた気がした。
あれほどまでに荒れていた肌。
服の下から覗いていた、赤黒く変色した傷跡も気づけばだいぶ薄くなっていた。
手のひらをかざした範囲にしか効果がないと思っていたが、少しずつ効果範囲が広がっているのだろうか。
気になって、ステータスウインドウを呼び出してみる。
《ヒール(EX)Lv.6》
(……6?)
驚いた。
昨日Lv.2だったはずが、もう6になっている。
あれだけ使い続ければ当然かもしれないが……これは、“回数”より“時間”で成長するタイプなのだろうか。
いまだに“触れなければ回復できない”という制限は変わっていないようだけど……
それでも、効果範囲が広がったことはかなりありがたい。
(けど……効率は、あんまり上がってない気もするな)
正直、これまでまともに使ったのなんて、靴擦れとか手荒れとか日常的な“軽い不調”ばかりだったから、比較のしようがないってのもあるけど。
まぁ、効果が確実にあるのは分かった。
あとは――この子が、目を覚ましてくれれば。
「……ふぅ」
少しだけ深呼吸して、少女を起こさぬようゆっくりと立ち上がる。
ようやく一息つけるかと、身体の向きを変えたそのときだった。
ぴくり、と。
服の裾を、誰かに引かれたような気がした。
(……ん?)
思わず振り返るが、周囲には誰もいない。
この小屋にいるのは、俺とまだ眠っているはずの少女だけだ。
……いや、ありえない。
まだ眠っている。手足も――この子には、もう無いはずだ。
なのに、なぜか“行かないで”と引き止められたような、そんな気がした。
「……わかったよ」
そう呟いて、またベッドの脇に腰を下ろす。
少女の肩に、そっと手を置く。
その瞬間、また柔らかな緑色の光が溢れヒールが発動する。
まだ眠ったままの少女の表情は、変わらない。
でも――どこか、ほんの少しだけ。
苦しさが和らいでいるように見えた。
俺の、ただの希望的観測かもしれないけれど。




