【第113話】大樹の村の地下遺跡 1階
【第113話】大樹の村の地下遺跡 1階
地下へと続く階段は、思ったよりも長かった。
一段、また一段と降りていくにつれ空気は冷たくなり、冷え切った風が古い土と湿った石の匂いを運んでくる。
階段の先には、石造りの扉があった。
完全に閉じ切っているわけではなく、僅かに隙間があり、そこから風が吹き抜けている。
「……見た通りですが、かなり古い遺跡ですね」
扉の前にしゃがみ込み、注意深く扉を観察するノイラ。
「開閉用の仕掛け……おそらく、機能してないです。内部の回路に、まったく反応がなくて……」
「なるほどのう」
ナヴィが肩をぐるぐると回しながら近づいていくので慌てて止めた。
「あー、じゃあ俺がこじ開けてみるよ。壊して開けるのはまあ、その後ってことで」
そう言って、魔力の腕を展開する。
隙間に合うよう先端を細く調整し、扉の隙間へと差し込んだ。
そのまま、ゆっくりと力を込めていくと、石と石が擦れる嫌な音を立てながら、扉が徐々に開いていく。
「やるね。器用に使いこなすじゃん」
横で見ていたリズベルが、感心したように呟く。
「重宝してるよ」
人が通れるほどに開いた扉から中を覗くと、遺跡の中には照明などがなく真っ暗だった。
「照明、しますね」
ノイラが静かに呪文を唱える。
すると、ふわり、と。
それぞれの頭上に、柔らかな光の玉が浮かび上がった。
眩しすぎず、けれどある程度の視界を確保してくれる温かい光。
「すごいですね……」
頭上の光を不思議そうにツンツンとつつきながらレイが声を漏らした。
「この照明魔術は、半日くらいは持ちます。切れそうになったら、また掛け直しますね」
「よし!では早速進むぞ!」
扉へ向かいナヴィが一歩前へ出た、その時だった。
「あっ、あっ、あの……!」
「待ちたまえ」
慌てて声を上げようとするノイラより先に、クレイが静止する。
ナヴィが不満そうに振り返る。
「ぬぅ……今度はなんじゃ」
「探索魔術を先に展開したい。安全確認は最優先だ」
クレイの説明の後、ノイラは小さく息を吸い目を閉じて呪文を唱え始めた。
次の瞬間、淡い光が彼女を中心に、波紋のように一気に広がっていく。
「……っ」
しばらくの沈黙の後、ノイラは目を開き皆へ向き直った。
「探知できた範囲は、かなり広いです。遺跡というより……途中から、洞窟に近い構造になっている場所もありました」
「ふむ、なるほど。魔物はどうだった?」
「昆虫型と、アンデット型です。アンデットは点在、昆虫型は群れで固まっていました」
「嫌な情報だね」
「はい……あ、でも下へ続く階段もちゃんと確認できました。こ、昆虫型の群れを避けながら、まずはそこを目指すのが安全だと思います」
「へぇ、そんなことまで分かるんだ。すごいねアンタ」
リズベルが素直に感心した声を出す。
「すぅ、すごくなんて……」
ノイラは照れたように帽子を押さえる。
「そうだろう。この子の遺跡関連の魔術は、ギルドとしても高く評価しているからね」
クレイがどこか誇らしげに言った。
その言葉に、ノイラは完全に顔を隠すように帽子を深く被ってもじもじしていた。
そんなやり取りをしつつ、俺たちはノイラの指示に従って遺跡を進み始めた。
遺跡内部は冷え切っているはずなのに、不思議と寒さは感じない。
頭上の照明魔術が、光だけでなく、ほんのりとした温もりも与えてくれているのだろうか。
歩きながら、クレイが魔物について説明をしてくれる。
遺跡に多いアンデット型は、大きく分けて三種。
・骨型のスケルトン
・死体型のゾンビ
・それらを捕食するグール
これらの人型の個体は稀に武装していることもあるらしい。
その説明が終わるか終わらないかといったタイミングで、奥の闇から――ガチャガチャ、と何か硬いものが擦れ合うような音が響いた。
クレイが手を挙げて後方の俺たちへ合図を送る。
戦闘の邪魔にならないよう後ろへ下がる俺とレイ。
擦れ合うような音は一度止んだ直後――先ほどとは比べ物にならないほど激しく音を立てながら一気に近づいてくる。
光の届く範囲に現れたのは、骨だけで二メートルはあろうかという巨体のスケルトンだった。
歪に尖った腕を振り上げ、信じられない速度でこちらへ突進してきた!
リアルな骸骨がものすごい勢いでこちらへ向かってくる!正直、めちゃくちゃ怖い!
「ひぃっ!?」
隣で、レイの声が裏返った。
だが――
「なんじゃ、つまらんのう」
ナヴィは一歩前に出ると、迫ってきたスケルトンの動きに合わせてその細腕を軽く払う。
次の瞬間、バランスを崩した巨体は突撃する勢いをそのままに壁へと勢いよく激突し、バラバラと無惨にも砕け散った。
先程とは打って変わって辺りに静寂が響く。
「あの……ナヴィさん……すごいですね」
隣のレイが小さな声で呟いてきた。
「うん、頼りになる相棒なんだ」
俺はちょっとだけ自慢げに答えるのだった。




