深紅の修行編 前編
(・・・さみしい)
『ディナステーア王国』『城下町』『ディナステーア』。
『南区』『商業街』。
『中央広場』『中央噴水前』。
満月が昇る夜。
月明かりが照らす、『南区』の中心にある『中央広場』。
白い石畳。
高く上がる、この町の名物である5大噴水の一つ。『南区』の『中央噴水』。
それを後ろに立ち、目を閉じて深呼吸をしたのは『深紅』の肩上までのセミロングが特徴的な少女。
右手には赤い装飾がなされた、短い曲剣。
目の前の地面に刺されているのは、大人が振るうのに丁度よい大きさの『赤』い宝石が柄についた『曲剣』。
『赤』い宝石は、月明かりを反射させて輝きを放っている。
そんな彼女を見る、道行く『人族』や『長耳族』の視線は、侮蔑や忌避を含む。
それでも、何人かが足を止めて彼女を見るようになった。
加えて、見つめる数人の視線に熱を含んだものや、尊敬の念を抱いたものが見えるようになったのは、彼女の『努力』の結果だろう。
少女はゆっくりと目を開けた。
美しい『深紅』の瞳が露になる。
その目が、1人のフードを被った少女と合った。
『深紅』の少女は笑う。
獰猛、しかし、妖艶。
同時、『舞』が始まる。
(舞うのは好き・・・舞だけに集中できるから、さみしくなくなる。それに、舞っている間はお母様と一緒に居られる気がする。それに、何より・・・)
月明かりのもとで、『曲剣』片手に舞続ける少女。
「自由だわ」
彼女と目が合ったフードの少女は視線を奪われ続けている。
もっとも、フードの少女が『深紅』の少女に目と心を奪われたのは、半年近くも前の事だった。
最初は、獰猛そのもののような舞であった。
髪色も赤くて、中には酷い言葉を投げかける人もいた。
フードの少女も最初は、そんな状態で舞い続ける意味が分からなかった。
だが、『深紅』の少女は構わずに舞い続けた。
髪が少し伸びて、雰囲気が変わるほどの期間。
彼女はこの場所で決まった時間に舞を続けた。
次第に視線が変わり始め、フードの少女と同じように彼女を見るためだけにここに来る人も見え始めていた。
大一番。
彼女がいつも最後に舞うのは、上段から始まる美しい舞。
「『剣舞術』『修型』『タンゴ』」
動き一つ一つにかかる恐ろしいまでの『練度』。
舞として、すでに完成していた。
だが、それでも高まり続けている『練度』。
多分、戦ったら一撃で仕留められてしまうだろう。
そう、思ってしまうほどの美しい舞。
楽しい時間というものはすぐに終わってしまう。
舞い終えた『深紅』の少女は剣を鞘に納める。
「ありがとうございました」
胸に拳を持っていく、『騎士』の敬礼。
その所作まで美しい。
パラパラと拍手が響く。
もちろん、フードの少女も一緒に拍手をする。
拍手をしてすぐに踵を返す。
満足だ。
早く、仕事を終えなければ。
急ぎ足で、目的の場所まで向かう。
「待って!」
声をかけられる。
この美しい声は。
いや、まさか。
ありえない。
振り返る。
そこにいたのは、『赤』い宝石が柄についた『曲剣』を背負う深紅の少女。
フードの少女にとっての『推し』が立っていた。
〇
今日で、この場所で舞うのは終わり。
明日からは、『西区』でたまに舞うけど、コルザと一緒に模擬戦を繰り返すってコラソンが言っていたわね。
いつも通りに礼をして、『曲剣』を背負いながらちょっと反省する。
どうしても、乱暴になってしまうわ。
もう、緊張はしてないし、視線にも慣れたけれど、コラソンの言う指先までの集中というものがうまくいかないのよね・・・。
コラソンからの最初の修行は、『剣舞術』以外の『剣術』、その中でも『舞術』に分類されるものに触れることだった。
それから、人の目に慣れ、『剣舞術』を人に見せることを意識して舞う事になった。
よくわからないけれど、コラソンがやれというのだから、やってみた。
そこで知ったのは、この赤い髪はあまりよく思われないということ。
理由はよくわからないけれど、『神樹教』?というもののせいらしい。
コラソンがそう言っていた。
最初はとっても辛かったけれど、次第に慣れて、コラソンの言うとおりに、毎回反省して直してを続けていたら、少しずつ見てくれる人も増えた。
だから、今回の舞も悪くはないと思うけれど・・・。
やっぱりちょっと納得いかない。
あ、そうだわ!
見に来てくれていた人に聞いてみようかしら!
コラソンも、自分と相手では見ているものが違うって言ってたわ!
周囲を見渡す。
最初の頃からずっと来てくれていたフードを被った女の子を探す。
遠くに見えた。
いつの間にあんなに遠くに!
私は急いで踏み込んだ。
『クラコヴィアク』の踏み込み。
ダンッと大きな音を出して踏み込む。
一気に飛んで、タンッと着地。
そのまま走って追いかける。
「待って!」
「・・・え?」
驚いた顔の女の子。
これが私、『サティス・グラナーテ』と。
私の親友、『サクリフィシオ』の出会いだった。
〇
「そうですか、友達が出来ましたか」
『ディナステーア』『西区』『住宅街』。
『アロサール家』『道場』。
帰宅したサティスは、コラソンに先ほど出会った少女、『サクリフィシオ』の事を伝えていた。
コラソンがかけた眼鏡の奥にある、切れ長の目。
中に納まる赤みの強い橙色の瞳が細まる。
「そうなの!私の事をいっつも見てくれていた子でね!私の舞の感想を沢山話してくれたの!『西区』にも見に来てくれるって!」
嬉しそうに話すサティスの様子に口元が緩む。
(・・・良かった。とりあえず、人との繋がりを持つことに臆病になっている様子はなさそうですね)
「それは、よかったですね。最近はあなたを応援している特定の人々が出てきていましたし、修行の第一段階は成功と言ってもいいでしょう」
「いいの?」
拍子抜けした顔のサティス。
彼女は正直、自分の舞がうまくなった自覚も、強くなっている自覚もなかった。
それもそのはずである。
コラソンは、サティスにそれを自覚する機会を与えていない。
「良いのです。あなたは確実に実力をつけています。まだまだ、改善の余地はありますが、明日からコルザが帰ってきます。嫌でも自分の成長を感じられるでしょう」
「そうなの?」
「えぇ、そうですよ。ここまで、半年、貴女は良くやっています」
「ほんと?」
「えぇ、本当です」
「うへへ」
照れくさそうに後ろ頭をかくサティス。
その様子を微笑ましく思ったコラソンが、サティスの頭を撫でる。
「さて、今日はもう休みなさい。明日は午後から修行を始めます」
「じゃあ、午前は好きに使ってもいい?」
コラソンは、サティスからの問いに手を止め、顎に手を当てた。
旦那の癖が移っているのに本人に自覚はない。
「えぇ、何か用事が?」
「サクリフィシオに会いに行こうと思うわ」
問いに答えたサティスが思い浮かべるのは、先ほど仲良くなった少女。
フードの下は、そばかすがついた、幼さの残る人形のように整った可愛らしい顔。
露出が極端に少ない服装で、見える肌は顔だけ。
髪は少年のように短く、柚子色。
耳も若干長く、彼女がサティスと同じ、血は薄いが『長耳族』であることは一目で分かった。
『南区』にいることが多いとのことだったため、会いに行くつもりだったのだ。
サティスには『野生の勘』もある。
高い確率で会えるだろう。
「わかりました、では、昼食に招待なさい。皆で食べましょう」
「いいの!?」
「えぇ、当然です。友人は大切にすべきですから」
「やったわ!ありがとうコラソン!大好きよ!」
抱きつくサティス。
(・・・スキンシップが多いのは不安からですかね?)
コラソンはもう一度、頭を撫でながらそんなことを思っていた。




