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青の修行編 前編

 サティスと別々の場所で修行を開始して早3か月。


 『プランター村跡地』『東の山』。

 『一軒家』『庭』。


 快晴。

 初夏の暑さが身を焦がす。

 右手には、母の形見である『短剣』を握っている。

 この『短剣』。元は『直剣』だったのだが、半分に折れてしまっていた。そのため、ボカの紹介の元、『城下街』の鍛冶師に鍛えなおしてもらい、『短剣』として仕上げてもらったのだ。

 そんな『短剣』を強く握りしめ、緊張を収めるように深呼吸。

 前を見据える。

 程よく力を抜く。


 「始め」


 「『剣舞術』『修型』『ボレロ』!」


 俺はボカの合図で『剣術』を発動。

 ゆったりとしたリズムを体でとり、下段からの軽い切り上げの後、返す形で強く切り降ろす。

 それを、振り抜く方向を変えながら数回繰り返す。


 「次」


 ボカの指示で体を止め、上段構えをとる。


 「『剣舞術』『修型』『タンゴ』!」


 強大な一撃の切り降ろし。

 続けて切り上げ、縦横斜めの強い数回の素振り。

 もちろん、独特なステップを踏みながらだ。


 「最後」


 ボカの再度の指示で素振りを止め、剣を横に構える。


 「『剣舞術』『修型』『ワルツ』!」


 体を回転させながら直進。

 そこに大量の敵がいることを仮定して進む。


 「そこまで」


 ボカの合図に合わせて体を停止させる。

 回転の勢いで砂埃があがった。


 俺はボカと、その隣で木の幹で作られた椅子に座っているコルザに目を向ける。


 「ふん。粗は目立つが良いだろう。合格だ」


 「やったね!フェリス!」


 青い顎髭(青髭ではなく、毛の色が青い無精髭)を撫でながらにやりと笑うボカ。

 にやっと笑いながら拍手するコルザ。


 その2人の様子と言葉に俺は安堵した。


 俺は、『剣舞術』を修めたのである。


 「よし!!」


 〇


 午前中の体力づくり、お昼前の『剣舞術』の試験。

 それらを終えた後、一度昼休憩という事で家の中に入った。


 森の中の『一軒家』。


 俺とサティスが、『アルコ・イーリス』の面々で『猪狩り』に参加していた際に見つけた、あの不思議な一軒家だ。

 なんと、ここはボカの管理する家だった。なんでも俺の高祖父にあたる人の友人から頼まれた家らしい。

 ちなみに、その高祖父の友人。


 それは、『勇者フェリス』とその妻、『パラーグラフォ・ブランコ』の2人である。


 しかも、なんと、『勇者フェリス』は『転移者』だったらしい。

 

 それを聞いてこの家にあった、醤油や包丁、家具の配置、家の雰囲気などが前世で見覚えがあったことに納得がいった。

 『魔族』と同じ黒髪なのに、『人族』に受け入れられていたのにも納得だった。

 そして、ここは『プランター村』と『ブランコ村』のちょうど中間地点にあった。

 北の方の麓に降りていけば、いつぞや利用させてもらったお風呂がある。

 まぁ、そのお風呂も3ヶ月前の1件で破壊されてしまったが。

 と、まぁ、ともかく俺は、ボカとコルザの2人に、大変貴重な家を借りさせてもらって、そこで修行をつけてもらっているのだ。


 今は昼。

 俺はキッチンに立つ。

 ガスは無いが、代わりに火打石と火打金がある。

 石は『城下町』『ディナステーア』で売りに出されており、コルザが買ってきてくれた。

 火打金はこの家にあった。

 前世でのガスコンロに似た物の、火が出るところに穴が開いているため、そこの中に木くずや、使った油を吸わせた『樹皮紙』等を入れて火をつける。

 最初は手こずったが、慣れればどうということはない。

 しかも、消火は蓋をするだけでいい。

 実に便利だ。


 上に網を置き、水の入った鍋を火にかける。


 そう、水である。

 この水は、シンクについている蛇口から入れた物だ。

 驚くことに、蛇口から水が出たのだ。

 裏の井戸から水を引いているのだろう。

 綺麗でおいしい水が飲めた。

 下水は近くの川に流していると思うからできるだけ綺麗に使いたいものだ。

 

 そうこうしているうちにお湯が沸いた。

 中に、塩と胡椒で味付けされた猪の乾燥肉を、研ぎなおしてもらった、この家の包丁で細かく切って入れる。


 塩と胡椒、ハーブなどの香辛料や調味料は安くもないが、買えなくもないといった感じのお値段らしい。

 コルザに買ってきてもらっているので相場はわからない。

 ただし、砂糖は高級らしい。

 数がないのではなく、税率が高いのだという。

 そして、酢と醤油、味噌は存在していない。

 日本生まれ、日本育ちの俺には寂しい事だが、仕方ない。

 そもそも、大豆のような豆が、あまり周知されていないらしいのだ。

 ついでに白米もこの辺にはないらしいし、諦めよう。


 鍋の中で肉が戻り、調味料と肉の出汁でいい匂いがし始める。

 俺は、頃合いまでに使った包丁を『灰洗剤』を使って洗う。


 『灰洗剤』。

 俺の手作りだ。

 火を使った後の灰の処理に困り、前世の記憶を巡ったところ、『灰洗剤』の存在を思い出したのだ。

 水の中に灰を入れて熱した後、待つだけでいい。

 本当はろ過出来ればもっと早く作れるのだが、ろ過に使えそうな物が思い付かなかった。

 なので、灰が沈殿するのを待ち、分離した後の上澄みの水をすくって、『灰洗剤』にした。

 そんな、『灰洗剤』を作って出た灰はさすがに用途がなかったが、ボカに相談してみると、『城下街』の鍛冶師が使うかもしれないと持って行ってくれた。

 後から聞いたが、『研磨材』として使ってくれているらしい。

 この包丁も、それで研磨してくれている。


 洗い終えた包丁をシンクの下の包丁差しに納め、後ろにある食器入れから木製の底の深い皿を出す。

 もちろん、綺麗にしてあるのですぐに使える。


 皿だけでなく、部屋中綺麗だ。

 『灰洗剤』ができたことで洗濯と掃除がはかどったのだ。

 体力づくりもかねて、大掃除をした。

 『勇者フェリス』と『パラーグラフォ・ブランコ』の部屋には入れてもらえなかったが、その他の部屋は持てる知識を駆使してそれはもう、ピカピカにしてやった。

 まったく、ボカも管理を任されてるなら掃除の一つでもしろってんだ。

 文句言ったら「あぁ?やだよ。めんどくせぇ」だとよ。

 俺は察したね。

 彼は、家事を妻に押し付ける典型的な駄メンズだと。

 ・・・駄メンズって久しぶりに使ったな?

 まぁ、実力はあるし、実際、『王国騎士団』の『雑務隊』という部隊を率いる『部隊長』という地位もある。

 ちゃんと稼いではいるのだろう。

 

 鍋から皿に、出来たスープを流し入れる。

 もちろん3人分だ。

 キッチンから出て、2人が待っている居間にスープを持っていく。


 「お、良い匂いだね!お腹すいたよ!」


 そういうのは、俺の従姉。

 青いインナーカラーが映える、栗色のポニーテール。

 『セロコルザ・アロサール』。

 彼女も家事が一切できない。

 いや、やる気はあるのだ。

 ただ、ちょっと、いや、かなり大雑把なのだ。


 掃除をすれば、物を壊す。

 洗濯をすれば、衣服はしわくちゃ。

 料理をすれば、味が濃すぎるか薄すぎる。


 コルザにも、苦手なものがあるのは好感がもてるが、彼女の将来が不安だ。

 ・・・それとも、俺が神経質過ぎるのか?

 いや、そんなことない・・・はずだ。


 ともかく、この家の家事はすべて俺が担当することになっていた。


 コルザも助かるよと納得してくれていた。

 ・・・自覚はあるのかもしれないな。


 続けてパンを持っていく。

 

 『ディナステーア』には有名なパン屋さんがあるらしく、そこからコルザがたまにパンを買ってきてくれるのだ。

 普段は、安い硬いパンを食べているが、今日は俺の『剣舞術』修得記念だ!

 

 テーブルに昼食をそろえたと同時。


 「うむ、うまい」


 パンをいきなり一つ平らげたのは、俺の叔父。

 青い髪、青い無精髭のイケオジ。

 『ボカ・アロサール』。

 俺の2人目の師匠である。

 師匠ではあるが・・・。

 

 続けて2つ目に手を伸ばして平らげる。


 「あ、ちょ!俺の分無くなる!」


 「ふはははっ!この世界は弱肉強食。食うか食われるかだ!という事でもう1個」


 「待て!」


 俺がそれを止めようと手を伸ばす。


 「ふんっ、甘いわ!」


 声を聴くと同時に視界が変わる。

 目の前に天井。


 「うぐっ」


 俺がボカによって『転移』され、空中に投げ出されたと把握した時には背中を強く打っていた。

 一瞬、息ができなくなる。


 「げほっごほっ・・・くそぉ」


 まさしく、傍若無人。

 勝手気まま。

 

 立ち上がるころには俺のパンは無くなっていた。

 ちゃっかりコルザもパンを2つキープしていた。


 なんて親子だ!

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