6歳 14
朝。
『アロサール家』『道場』。
俺はボカとコラソン、コルザに頼んで早朝のこの時間に『道場』に集まってもらった。
今は、『道場』の中心で俺と右隣にサティスが並んで正座している。
目の前には、ボカを中心に、彼の左手にコラソン、右手にコルザが正座している。
「何の用だ?」
ボカが俺とサティスを見て問う。
俺は意を決して頭を深く下げた。
「・・・どういうつもりだ?」
土下座である。
この世界では頭を下げるのは屈服や忠誠。
だからこの場合は意味が合わずに混乱するだろう。
だが、それでもやる。
これは、俺の全てを込めた頼みなのだ。
「頼みがある」
「・・・頭を上げろ。そんなことするな」
ボカがため息をついて頭を上げさせる。
「・・・まったく、これだから『転生』や『転移』の奴らは・・・」
頭を上げる。
「すまない。だが、これが俺にとって、ものを頼む最高礼だ」
「わかったわかった。ある程度のことなら受けてやるから」
俺は言われて安心する。
そして、覚悟を決めて頼みを言う。
「俺を鍛えてくれ!!」
「・・・ほう?」
顎髭を触る。
何かを考えているのだろうか。
「・・・どうしてだ?」
「守りたいものを守るため、そして、サティスと一緒に『無敵』になる為」
真っ直ぐに言う。
こういうのは、誠意が大切だ。
「『無敵』ねぇ・・・」
何かを考えているボカ。
駄目なのか・・・?
彼の返答を待っていると、隣のコラソンが口を開いた。
「サティスは、良いのですか?」
コラソンが質問したのは隣のサティス。
寝起きから、静かにしているサティス。
昨日のショックから立ち直っていないのだろう。
いや、立ち直れという方が無理か。
しかし、サティスは落ち込んでいたわけではなかった。
静かに口を開いた。
「・・・みんな、『プランター村』で生きていたのよ」
思い出すように語り始めた。
「ブリランテお母様とセドロお母様は、私たちのために『努力』していた」
思い出すのは、仲良く笑いかけてくれる母2人。
「お父様は、みんなを守るために『努力』していた」
思い出すのは、記憶の中の父2人。
「ソシエゴは、大好きな人の子どもを産むために『努力』していた」
思い出すのは、俺たちの姉のような存在だった人。
「デスペハードは、大好きな人を守るために『努力』していた」
思い出すのは、快活な笑顔の朱色の少年。
「カリマは、大好きな人の隣で戦えるように『努力』していた」
思い出すのは、素直になれないこげ茶色の少女。
「ベンタロンは、憧れを追い越すために『努力』していた」
思い出すのは、真面目な表情の空色の少年。
「ブリッサは、大好きな人を支えるために『努力』していた」
思い出すのは、愛らしい笑顔を浮かべる桃色の少女。
「ビエントとアイレは、家族を守るために『努力』していた」
思い出すのは、マイペースな黄緑色の双子の少年たち。
「ベンディスカは、恩を返すために『努力』していた」
思い出すのは、フードを被った灰色の青年。
「そして、私が殺したジュビアは、私に勝つために『努力』していた」
思い出すのは、濃紺色の青年。
勝ちたい人に勝つために『努力』を惜しまなかったあの青年。
「みんな、『努力』していた。生きていたのよ」
拳がきつく握られる。
悔しそうな表情。
そして、睨むようにコラソンを見る。
「私はそれを、守れなかった!」
全員の視線がサティスにくぎ付けになる。
彼女は落ち込んでいたわけではない。
皆の事を思い出していたのだ。
「弱さは罪だわ・・・。もう二度と、大切な人を無くさないために強くなりたい」
息を吸って続ける。
「強く、強くなって、大切な人を守れるくらいに強く、皆の『努力』を背負えるくらいに強く!」
視線をコルザに移す。
「今までは、コルザに勝って『無敵』になることを目指していたけど、それじゃあ、足りなかったのよ・・・」
一度、言葉を止めて、深呼吸をする。
そして、ゆっくりとコラソンを見つめる。
「私だけじゃなくて、みんながやりたかったことができるくらいに強くなりたい」
突然、俺は右腕を掴まれて引き寄せられる。
見上げると覚悟を含んだ瞳のサティスがいた。
「私は、私と一緒にいてくれるフェリスと、守りたいものを守る事ができる『無敵』になりたい」
言って、首を振った。
そして、言い直す。
「私は、フェリスと2人で『無敵』になる!」
その言葉を聞いたコラソンがくすりと笑った。
「そうですか」
「えぇ、だから、私を強くして」
頷くコラソン。
そのまま隣のボカに声をかけた。
「彼女たちの覚悟は本物です。とても、昨日家族を亡くしたこどもの言える事ではありません・・・どうでしょう?修行、つけてあげませんか?」
言われたボカは鼻で笑う。
「ふん・・・」
だが、口元は笑み。
それは、馬鹿にした笑い方ではない。
感心したような笑みだった。
「いいだろう」
俺はもう一度頭を下げる。
「ありがとう!!よろしく頼む!!!」
「だぁもうやめろ!!!」
隣でサティスも礼を言う。
「ありがとう。私、頑張るわ」
「えぇ、頑張りなさい。期待していますよ」
コルザも嬉しそうに笑っていた。
そう、どうしたってこの日までがプロローグ。
ここから始まるのだ。
俺とサティス。
2人で歩む人生。
人生に満足するため努力し、2人で『無敵』に至る。
そんな人生が。




