『2年生』『想起編』 『想起』 2
まず『想起』されたのは、『剣舞術』を学び始めた頃。
『お前ら!『夢』はあるか!?』
美しい深紅の長髪を翻す女性。
名前はなんだったか。
思い出せない。
だけど、彼女の声は思い出せた。
よく通る声だった。
あの日響いた彼女のその言葉に自分はなんと答えたのだったか。
『ボクを受け入れてくれた存在への『恩返し』』
あぁ、そうだった。
私の・・・。
ぼくの夢は。
『恩返し』だった。
「ぐっ・・・あぁ!!」
青年が叫びながら放った『アルマンド』がフェリスの『クラコヴィアク』の軌道を上に変えた。
上がった腕、その隙にテーセラは回転蹴りを食らわせる。
「くっ」
重い回し蹴りを腹に受けたフェリスは痛みに顔を歪ませながら飛んでいく。
回し蹴りを決めた青年の頭に痛みが走る。
裏切ったあの日、フェリスとの戦いが『想起』され始める。
あの日も蹴り飛ばした。
そして。
「『剣舞術』『ジグ』」
過去の出来事をなぞるように、地面に落ちたフェリスの前に着地した青年はステップを踏み、高速の切り下ろしを放つ。
「ちっ」
フェリスはそれをいなす。
「『ダブル』」
テーセラは更に速度を上げながら今度は切り上げる。
フェリスはそれを身を引いてかわす。
「『スリップ』」
速度の上昇は止まらない。
再度の切り下ろし。
「くそ!」
フェリスはそれを見て横に弾く。
「『シングル』」
最高速度に達す。
『身体強化』で上がった『俊敏性』で放たれる、速度を上げながら放たれる4連続の型の行き着く先、それは、『転移』とほぼ同じ速度。
その速度にフェリスは、目で追えても体が追い付けなかった。
弾かれた場所から横一線、それと振り抜いた先から斜め下に向かって一線。
ほぼ同時についた2本の切り傷。
その威力にフェリスは吹き飛ばされ、そのまま広場に植えられている木に背中から衝突する。
「『剣舞術』『クラコヴィアク』!」
その様子を好機と見た青年は超高速の刺突を放つ。
フェリスまで後少し。
そこで、また、過去が『想起』される。
今と全く同じ光景が『想起』されたのだ。
そしてそれは、今放った刺突が『朱色』の髪をした少年によって阻まれる未来をも『想起』させる。
それは過去の事。
しかし、今のテーセラにはそうなるようにしか思えなかった。
それは、テーセラの足を止めさせる。
「・・・『デスペハード』?」
テーセラは幻想を見た。
『何してんだベンディスカ!!』
目の前に『朱色』のツンツンヘアー。
いつもの勝ち気な表情を怒りに染めた、かつての仲間のひとりの幻想を。
それに続くように、その隣にこげ茶色の髪をした少女が現れる。
それがきっかけかのように次々と、かつての仲間達が現れ始めた。
空色の髪の眼鏡をかけた青年。
桃色の髪の少女。
黄緑色のマッシュヘアーの双子の少年達。
そして、濃紺の髪をした寡黙な青年。
「・・・『デスペハード』。 『カリマ』。 『ベンタロン』。 『ブリッサ』。 『ビエント』。 『アイレ』。 『ジュビア』」
溢れだす皆の名前を確かめるように呟いた。
その幻想を割るように、青い髪の青年が剣先をこちらに向けて刺突して来た。
「・・・あぁ、『フェリス』」
彼の表情は怒り。
しかし、それを見つめる灰色の青年の脳裏には彼の乳児時代の事が『想起』されていた。
彼と始めて顔を会わせた時のこと。
彼は自分を見た時笑った。
怖がらず、嫌がらずただ笑った。
受け入れるかのように優しい笑みだった。
思えば、あの村の事を好きになり始めたのはあれがきっかけだった。
青年は反射的にフェリスの刺突を受け止めようとするが、フェリスの刺突は青年の右手を貫いた。
その痛みがまた、『想起』させる。
手からこぼれ落ちる短剣。
流れ出る鮮血。
その色が『深紅』を『想起』させた。
「・・・『サティス』。 そして」
その母。
自分を差別せず、特別視せず。
真正面から向き合ってくれた、優しい師匠。
「・・・師匠」
『セドロ』。
そう、師匠の名前は『セドロ』だった。
「うっ」
刺した勢いのまま突進してきたフェリスの勢いに押されて近くの木に倒れ込む青年。
そのまま木に頭をぶつける。
「うぐっ」
力無く倒れ込む。
雨はいつの間にか上がり、雲の間から日が差し込んでいた。
倒れ混んだまま視線を上に上げる。
目に入ったのは、自分を見下ろす青年。
そして、その後ろに見える美しい虹だった。
「あぁ、あそこはぼくにとって大切な居場所だった。 あそこはぼくが好きになった居場所だったんだ。 裏切りたくなんて無かった」
ボロポロとこぼれ落ちる涙。
そのまま体を起こして木に背を預けるように座り込む。
ゆっくりと顔を上げる。
「・・・殺してくれ。 ぼくはもう、生きていたくない。 こんな、どうしようもないほどに罪を重ねたぼくは生きているべきじゃない。 フェリス。 君に殺されるべきだよぼくは」
「言われなくてもそのつもりだ」
フェリスは剣を引く。
差し込む日の光がその剣を輝かせる。
青年にはそれがまるで、真っ黒に染まった自分を捌く光の剣のように見えた。
ゆっくりと視線を虹に送る。
「あぁ、あの日。 あんなことがなければボクはまだ、『虹』でいられたのかな」
青年は目を閉じる。
光の剣が自分を貫くまでの間、青年は自分の過去を『想起』させていた。




