6歳 11
大きく口を開けた、城の正面玄関。
熊の『魔獣』の頂点、『ミエド・オソ』を見上げた時と同じくらいの高さ。
つまり、10メートル程の巨大な入口。
走って中に入る。
ダークブラウンの絨毯。
入り口よりも高い位置にある天井。
そこにある、巨大なシャンデリアが室内を照らす。
ダークブラウンの絨毯の先には2つに分かれた階段。
その階段は、2階で折り返しがあって、3階で合流する。
家具や手すりなどの室内にあるものは、殆どダークブラウンで統一されていた。
そのため、落ち着いた高級感を感じる作りとなっている。
メイドや執事のような格好の人達や、高級そうな服に身を包んだ人等それなりの人数が歩いたり、談笑したりしていた。
記号で言えば、《》のようになっている奥の階段。
その《》の中心。
白い壁。
そこには、ダークブラウンの額縁に収まる、大きな人物画とその下に中くらいの人物画が3枚。
さらにその下に小さな人物画が5枚あった。
俺は階段の目の前で足を止めた。
人物画を見上げる。
中くらいの3枚の人物画。
真ん中にいる『黒髪』の男性に目を奪われる。
・・・デジャブ?
一度見たことがある感覚に陥る。
「ねぇ!場所分かっているのかい!?・・・と、どうしたの?」
走って追いかけてきたコルザが俺の後ろで足を止め、首を傾げた。
俺の視線を追う。
「あぁ、『人物画』かい?あの一番大きいのがレイ王Ⅵ世だよ。今の王様だね」
俺が大きい人物画を見ているのだと思ったらしい。
「そうなのか、ちなみにあの中くらいの奴の真ん中に居る奴は?」
気になった人物画を問う。
「あぁ、そうか、見た事が無いのか。あれが『勇者フェリス』だよ」
・・・あれが、『勇者フェリス』。
どうして、俺はデジャブを覚えたんだ?
「あ、ちなみに両隣の2人が勇者パーティーだった人たちで、本当は後2枚あったんだけど、いろいろあって、どっちも名誉を剥奪されている・・・ちなみに1人は『アスール・アロサール』。僕たちの高祖父。確かに『勇者』と供に戦ったらしいよ」
「・・・え?」
思いがけない話である。
俺の知っている『勇者伝説』に、そんな人は居なかった。
だが、思い出されるのはいつぞやボカの書斎で見つけた、知らない表紙の『勇者伝説』。
名誉剥奪と言ったな。
そのせいで、書き直されたりしたのだろうか?
・・・って、そんな事より!
頭を振る。
「いや、今はいい、それよりボカは!?」
今は『プランター村』だ!
急げ俺!
「ちょっと待って・・・『空間魔術』『空間把握』『魔素』」
言いながら目を閉じて、もう一度開ける。
コルザの瞳が青く輝く。
その美しさに思わず見とれる。
「・・・?いたけど、ここは・・・というかあの『魔素』の色はなんだい・・・?」
眉をひそめて不思議そうな顔になる。
瞬きすると元の瞳に戻った。
一体何をしたんだ?
「ついてきて、父さん、謁見の間に居る」
言いながら駆け出した。
置いてかれないように必死に追いかける。
正面の階段を登りきり、目の前に伸びる、沢山の『人物画』が飾られた長い廊下を駆け抜ける。
また階段、曲がりくねった道、階段、長い直線。
それを、コルザは足を止めることなく、俺以上の速度で走る。
追いかけるので精いっぱいだ。
体力・・・俺よりあるのは知っていたが、ここまでとは。
結構な距離を駆け抜けた。
勿論城の中なので、兵士や侍女、執事らしき人、気品のある女性や恰幅の良い、豪華な服に身を包んだ男等々とぶつからないように気を付け、階段を上り下りする。
体全体を使って駆け抜けた。
そして謁見の間前。
「ここか・・・?はぁ、はぁ」
息が切れる。
息が切れるほど体を動かしたのは久しぶりだった。
「ここ」
汗一つ書いていないコルザが大きな扉を、前に立つ門兵に頼んで開けて貰おうとすると、突然扉が開いた。
扉の先にボカが居た。
青い髪。
無精ひげのイケおじ。
その見知った顔の彼は、扉の前で驚いた顔をしていた。
「なんだ?驚いた。コルザとフェリスか、どうした?・・・待て、なんでフェリスが居る?」
そこから、俺はボカに何か聞かれていたらしい。
らしいと言うのは、俺が彼の言葉を聞くことが出来なかったからだ。
俺はある者に目を奪われていた。
それはボカが両手で大切そうに抱える、今の俺と同い年位の少女。
白。
彼女を表す言葉にそれ以外はありえなかった。
純白のワンピース。煤汚れはあるが、色白の手足。純白の髪はまとめて彼女のお腹の上に乗せられている。あの量は多分、下ろせば彼女の身長以上の長さがあるのではないだろうか。
目を瞑って静かに呼吸をする儚い彼女。
全てが白く、美しく、触る事すら躊躇われる。
宝石のような少女。
ただ、ただ、美しかった。
俺はコルザに腕を叩かれて正気に戻る。
「あ、えと、あ、そうだ!ボカ!大変なんだ!!『プランター村』が魔族に襲われて!!」
俺の叫びにボカの手の中の少女が目を覚ます。
一度苦しそうに身じろぎし、ゆっくりと瞳が露わになった。
紅。
セドロとサティスの髪を思い出す。
それほどに深い紅色の瞳。
その瞳が俺を捉える。
「・・・ここ・・・は?」
鈴の音のような声音がか細く響いた。
「おっと。姫。もうちょっと寝てな。大丈夫。おじさんが安全な部屋まで送ってやる」
ボカが言うと、何も言わず頷いて静かに目を閉じた。
「・・・やはりそうか」
赤い瞳に、白い髪と色素の薄い肌。
一瞬アルビノが頭に浮かんだが、この世界は髪の色がめちゃくちゃだから一概にも言えないかと考え直す。
「フェリス・・・状況を教えろ・・・フェリス!」
ボカの怒声が響いた。
「あ!すまない!!そうだ、襲われたんだ!村の皆が殺され・・・っ・・・くそっ!ブリランテとセドロも危ない!!」
村の惨状を思い出す。
泣きそうになるのをこらえて叫ぶ。
ボカは舌打ちを一つ。
「ちっ!レイ王!事態が想定よりも不味いかもしれない!予定通り、俺はこれから『ブランコ村』に戻る!」
振り返って遠く後ろに座する男に叫ぶボカ。
「『プランター村』での進行妨害が失敗している可能性が高い!そっちの対応もする必要があるから、待機中の『雑務隊』をプランター村に向かわせてくれ!!」
奥の玉座に座るのはダークブラウンの髪をオールバックにした、威厳たっぷりの男性だった。
あれがこの国の王様。
「・・・分かった」
頷いて、隣に立っているいかにも『宰相』ですといった感じの男に指示を飛ばす。
「頼んだ。急いでくれ」
歯をくい縛って、焦った顔のボカ。
俺たちに向き直る。
「コルザ、状況確認の後、すぐに『プランター村』に飛んで様子を見てこい。俺は、『ブランコ村』に先に向かわせた『突撃班』と、『壁』の修繕護衛中だった『防衛班』の2部隊と合流しに行く。生きていれば、供に『プランター村』に向かう」
「え、僕も!?」
驚いた顔のコルザ。
「あぁ、頼む。すぐに『待機班』から、応援も行くから、もし、戦闘が続いていた場合はともに戦え。コルザも知ってるやつらだ。一緒に戦ってくれる」
「・・・わかった」
ボカの真剣な様子に覚悟を決めたような目で頷く。
「よし。そしてフェリスは、この子を部屋に連れて行く道すがら、俺とコルザに状況を説明してくれ」
手の中の白い少女を優しく抱えながらボカは足早に歩き始めた。
俺は、それを追いかけて歩きだし、知り得ている状況をボカとコルザに伝え始めた。




