『体育祭2年生編』 『リレー』 3
目を瞑って深呼吸をする。
6月末。
本格的に気温が上がるのはもう少し先だ。
まだ涼しさを感じる風が吹いた。
ここに立つのは2度目。
昨年も第4走者。
ファセールから貰ってサティスに渡すのも変わらない。
そして、この緊張感も。
遠くでスタートの合図が鳴った。
目を開ける。
左右に並んでいる面々は後ろを真剣な目で見つめていた。
俺も後ろを向いて目を逸らさず、ファセールの到着を待つ。
そして、待つこと数分。
速くもバイレとファセールが見えた。
隠れるようにプーロも走っているのが見える。
そのすぐ後ろを次々と走者が走ってくる。
第4走者全員が構える。
バトンがすぐ目の前まで来たその時、ほぼ全員がバトンを受け取るべく身構えた中、フロロースが駆け出した。
「・・・ここ!」
それとほぼ同時にプーロが抜け出してくる。
「フロロース!」
「プーロ!」
流れるように渡されるバトン。
俺達もバトンの受け渡しは練習してきたが、あそこまで綺麗に行くかと言われれば必ず成功するとは言えない。
現に今も失敗を警戒して俺とファセールは安全な受け渡しを選んだ。
バトンを受け取ったフロロースは、その小柄な体からは想像もできないほどの速度で駆け抜けていく。
「ごめんフェリス!」
ファセールはプーロに遅れを取った事を謝ったのだろうが、俺に言わせればこれだけの接戦になっているのだ、十分すぎる。
「十分だ! 任せろ!」
俺はバトンを受け取ってフロロースを追いかける。
「お1人で先に行くなんて許しませんわよ!」
いつの間にかバトンを受け取っていたエンシアが隣に並んでいた。
なんとか先に出ようとするが置いていけない。
フロロースは少しずつ近づいてきているが・・・。
少しして曲がり角が見えてきた。
内側から行けばフロロースを越せる距離まで来た。
ここで越す!
「待てよ」
「なっ!?」
俺の更に内側からティンが飛び出してきた。
驚いてティンに視線を向けると、視界の端、俺の後方すぐ近くにパティとレティセンシアさんの姿が見えた。
それぞれの差はほとんど無い。
次の走者まであと少し。
・・・負けるかよ。
俺は、1着でサティスにバトンを渡す。
昨年はニエベに追いつけず、エンシアを抜けず、悔しい順位でバトンに渡してしまったのだ。
今年こそ1着で渡してみせる!
「サティス!」
深紅が見えた。
あと少し。
差は開かない。
しかし。
順位は一番だ。
俺に名前を呼ばれたサティスは微笑んで走り出した。
その姿に俺は思わず笑う。
彼女は信じているのだ。
俺とサティスなら、バトンの受け渡しで失敗は無いと。
俺は歯を食い縛って加速する。
それは俺もだ。
俺は更に加速したその速度のままサティスにバトンを渡す。
綺麗に渡るバトン。
サティスは獰猛に笑う。
「今年は勝つわよ!」
「あぁ、任せた!」
「任せなさい!」
少しの言葉を交わしてすぐ、サティスは一気に加速して離れて行った。
その一瞬後に他の4人も駆け出していく。
「頑張れサティス!」
俺は、サティスを応援したくて彼女の背中に向かって大きな声で叫んでいた。




