6歳 8
俺は、木に背中を預けて座っていた。
隣では、いつの間にか泣き止んでいたサティスが遠くを見ている。
彼女の力無い、冷たい手を握ることしか出来ない。
唐突に、隣のサティスが話し始めた。
「私、人を殺してしまったわ」
「・・・それは」
言いかけて、言葉がつまる。
正当防衛。
殺らなきゃ殺られていた。
どれも意味をなさない。
サティスが、人を殺したのは事実だ。
「人を殺しちゃいけないって言うのは何となく分かってた。『勇者伝説』でも、『天人青春』でも、誰かが死んだら皆が悲しんでた。人を殺すは酷いことだって知っていたわ」
何も言えず、静かにサティスの言葉を聞く。
「でも、私は殺してしまった。それも大切な友達を。私が弱いばかりに殺すしか出来なかった」
感情の消え去った顔。
ボソボソと話す声。
今まで見たことの無いサティスの姿に悔しくて涙が出てくる。
「ジュビアは努力の人。私とフェリスみたいに勝ちたい人に勝つために努力し続けてた・・・私はその努力を奪ってしまった・・・」
「サティス」
止まらないサティスの自責の言葉に思わず名前を呼んでしまう。
もう、いい。
止めてくれ。
「許されない事をしたのよ・・・なのに、どうしてかしら?悲しいのにもう涙が出ないのよ・・・反省しなきゃならないのに、何も考えられないのよ・・・」
サティスは多分強いストレスを感じているのだろう。
独り言のように話すことで、なんとか平静であろうとしているのだろう。
「私・・・弱いわ・・・友達1人だって守れやしない・・・それどころか殺してしまったんだもの・・・」
彼女の美しい『深紅』の瞳から光が失われている。
「お母様は『魔族』が悪いって言っていたけれど・・・悪いのは私よ・・・弱い私・・・弱いのはとっても悪いことだわ」
自責を呟き続けるサティス。
その、あまりの痛々しさはもう、見てられなかった。
「何が『無敵』よ・・・何がフェリスと一緒に『無敵』になろうよ・・・こんな私・・・ジュビアじゃなくて、私が死ねばよかった!!私みたいな人は、必要な」
「サティス!!」
俺はサティスの言葉を大声で遮り立ち上がる。
それ以上はいけない。
自分のことを必要ないなんて思っては絶対にいけない。
「フェリス?」
少しだけ、驚いた顔をして俺を見上げる。
「それ以上は許さない!!俺にはお前が必要だ!セドロも俺達には期待してくれている!まだ始まったばっかりなんだ!!・・・弱くて、当たり前だろ・・・?」
俺の視界は、涙で歪んでいる。
今の言葉も半分自分に言い聞かせていた。
「だから・・・だから自分が死ねばよかったなんて2度と言わないでくれ・・・」
俺だって弱い。
実力はサティスとジュビアより下。
ベンディスカにだって1人じゃ勝てなかった。
サティスをこの罪から守る事は出来なかった。
「サティス・・・ジュビアを殺させてしまってごめん」
「どうして謝るのよ・・・殺したのは・・・わっ・・・わだじでじょ?」
サティスの声が震え始める。
また涙が出てくる。
「俺だって間に合わなかった!だから・・・だから一緒に背負って行こう。一緒に強くなって、2度と同じことにならないようにしよう・・・っ」
ぽろぽろと涙が溢れる。
「だから、絶対に自分は必要ないなんて思わないでくれ!」
それは、絶対に思っちゃいけない。
それは、心を壊す。
酷い言葉だ。
人は、誰かに理由は様々あれど必要とされているのだ。
少なくとも、サティスの存在は。
俺にとって絶対に必要なものなんだ。
「フェリス・・・フェリスぅ」
サティスが泣きながら抱き着いてきた。
俺も抱きしめ返す。
「わがっだぁ・・・フェリスと一緒に強くなるぅ・・・いっじょにがんばるぅう」
しばらく2人で泣いた。
声を出して。
一緒に。
泣いて、泣いて、泣いて。
やがて、泣き止んで立ち上がる。
「行こう」
「・・・うん」
俺は、ジュビアの胸から曲剣を引き抜く。
それをサティスに渡す。
サティスは、悲しそうな顔でそれを受け取って腰の鞘に収める。
並んで向かうのは、セドロが向かった先。
今は、これ以上何も考えてはならない。
考えても自責に溺れて戻れなくなるだけだ。
とにかく、母達の姿を見に行こう。
2人の笑顔を見て安心するのだ。




