6歳 4
熊。
前世でも問題視されることが多かった。
餌を求めて人里に降り、人を食らう。
そんな獣。
強靭な肉体。
凶悪な牙と爪。
生身で立ち向かうのは自殺行為。
加えて、ここは異世界である。
目の前に2本足で立ち上がる巨大な漆黒の熊。
目測だけで10メートル。
頭の悪い大きさだ。
前世で言えば、マンションの3階までの高さとほぼ同義。
見上げなければ顔も見えない。
加えて、体は漆黒。
つまり、『魔獣』と化している事を示している。
しかも、去年俺を死の間際まで追い詰めた『ミエド』を冠するレベルまで生きているだろう。。
『ミエド・オソ』。
普通なら逃げるべき。
いや、もう遅い。
死んでいてもおかしくない。
だが、ここは異世界である。
今の俺は戦える。
熊だって倒せるはずだ。
腰を低く構え。
日の光が周囲を照らし、視界は良好。
場所も森の中とはいえ開けている。
思う存分戦うことができるだろう。
加えて1体1。
「やれる・・・この状況なら戦える!」
「ブゥオォオオオオオッ!!」
熊の雄たけび。
開戦。
『魔獣』が体を倒して4足歩行へ移行。
そのまま突進。
「『剣舞術』」
突進のリズムに合わせてステップ。
「『シチリアーナ』!!」
短剣で熊の左頬をとらえて勢いを奪って回転し、いなす。
その奪った勢いを利用し、威力を高めた回転切りを左後ろ足に、すれ違いざまに叩き込む。
それは見事に左後ろ足の腱を切り裂いた。
「ガアッ」
俺は、足から力が抜け滑り込もうとする熊の体を蹴って、距離をとる。
「『剣舞術』」
地に足をつけて、タンタンタンとリズムをとりながら前進。
「『クラコヴィアク』!」
滑り込んだ熊に向かって突発的なリズム上昇と共に刺突を繰り出す。
狙うは左目。
『魔獣』が俺の肉薄に気づくが、遅い。
「はぁっ!」
左目に深く突き刺さる短剣。
「ガァアアアッ」
痛みに『魔獣』が悲鳴を上げる。
構わず、刺さった剣ごと体を左に回し、俺の足の位置を目元から額に持っていく。
かき回された眼球はもう使い物にならないだろう。
「『剣舞術』」
熊の額で足を踏み鳴らして剣を引き抜き、上空にジャンプする。
そのまま、バク転の形で反対の目に向かう。
「『エスタンピ』!!」
上空からの、体重を乗せた縦切り。
それは狙い通りに右目を切り裂いた。
「ブアァアアアアッ」
両目の視力を失い、両手を振りながら暴れ出す『魔獣』。
相手はとてつもない巨体だ。
小さな子どもであるこの体と、手に持つ短剣では弱点を攻めて効率的にダメージを与えるしかない
だが、しかし。
問題がある。
それは、『魔石』のありかが把握できないこと。
大体は心臓部にあるらしいが、首や腹など、変わった所にある事もあるらしい。
・・・俺には見つけるすべがない。
セドロやサティスのような『野生の勘』は無いし、カリマのように『気配魔術』を使って『魔石』の気配を探ることも無理だ。
ブリランテのように何らかの『魔術』を使用して見つけることも無理。
じゃあどうするか・・・。
「よし、見つかるまで切り続けるか!」
力 IS パワー。
パワー IS 力。
俺が胸を張って自慢できる体力を使い、限界まで切り続ける。
出るまで回せば100パーセントって、前世の廃課金勢の誰かが言っていた。
だから。
『魔石』が出るまで、手当たり次第に切り刻めばそのうち見つかるだろう。
そうと決まれば!
「出し惜しみは無しだ!」
下段構え。
息を吸って吐く。
熊が暴れながらこちらに向かってくる。
嗅覚でわかるのか?
それとも別の?
まさかのあてずっぽう?
いや、好都合だ。
こちらから敵の攻撃を引き出す必要はなくなった。
「『剣舞術』『修型』」
ゆったりと舞う。
熊の右フックが迫る。
そのリズムに合わせて体を思いっきり低くすることで回避。
できる決定的な隙。
「『ボレロ』!!」
繰り出すは、『守』派の最強型。
足を一気に伸ばし、バネのように跳ぶ。
狙うは右腕。
『修型』による強大な一撃で右腕を切り飛ばしてやる!
「おらッ!!」
短剣。
ただし、この一撃は『剣舞術』の『修型』によって強化されている。
その強化による恩恵は、右腕を切り飛ばすに至った。
「ブオォオオッ!」
痛みに両腕を上げるように仰け反る熊。
それさえも隙。
見逃さずに回り込み、右足のアキレス腱の辺りから、再度一撃を食らわせる。
「ゴアッ!?」
半分ほど切り込むことに成功。
同じく腱が切れたのだろう。
崩れ落ちて立てなくなった『魔獣』。
残った左腕を痛みの走った右足辺りで、焦ったように振り回すが遅い。
体を回して左腕に剣を添わせ、勢いを利用しつつ回避。
すれ違いざまに『ボレロ』の強大な一撃を、そのまま左腕に入れる。
「バァアアアッ!!」
左腕も吹き飛んだ。
まき散らされる漆黒のもやと血液。
『魔石』はまだ見つからない。
俺は右足の腱が回復し始めているのに気付いた。
・・・なるほど。
『魔石』を破壊しない限り倒せないと言うのはこういう事か。
回復してしまうんだな。
と、思考しつつ再度、腱を切断。
上がる悲鳴。
「さぁ、『魔石』はどこだ?」
俺は『魔石』が見つかるまで永遠と『ボレロ』の一撃を食らわせた。
あったのは、腰。
「せい!」
俺の体躯ほどもあるその巨大な漆黒の『魔石』に一撃を叩き込む。
バキンと音がして壊れた。
と、『魔石』の中に、同じ色のもう1つの『魔石』があった。
不思議に思いながらもしっかり両断。
『ミエド』の『魔石』は二重構造だったのか。
『ミエド』の『魔石』をしっかり見たことが無かったし、セドロも一撃で葬っていたから、知らなかった。
新発見だな。
俺は機能停止した『ミエド・オソ』を体の上から見下ろす。
短剣を鞘にしまい、座って休憩。
流石に少しだけ息が切れた。
息を整えねば。
「ふぅ・・・やるじゃん、俺」
息が整い、独り言ちる。
そうら倒せたのだ。
『ミエド』を冠する、強大な『魔獣』を。
努力が実っている。
それがたまらなく嬉しかった。




