5歳 20
雪がちらつき始めた11月後半。
よく晴れた日。
朝のランニングからの帰り道。
プランターおじさんの家の前に村民が何人か集まっていた。
中には、ブリッサとベンタロンの姿も見える。
何事かと右隣のサティス共々目を凝らす。
そこにいたのは、旅の商人。
ダークブラウンの髪と無精髭。
『人族』の商人。
それを見つけたサティスが黙っているわけがなく。
「あれ、なにかしら!?行きましょう!気になるわ!」
サティスが俺の手を引っ張って駆け出した。
俺だって気になる。
手を繋いで走ると、あっと言う間に商人の元にたどり着いた。
商人の後ろには荷車。
近くの木には、雑草を食べる栗毛の馬が繋がれている。
商人の後ろの荷車には袋がいくつか乗っている。
これは凄いな。
商人は低い椅子に腰掛け、目の前にござを広げて色々なものを置いている。
見たことないものばかりだ。
あれは、葉巻か?
あっちは、剣か?
いや、包丁かナイフの類いかも。
後は、ペットボトル・・・。
ペットボトル!?
俺は食いつくように見いる。
見れば見るほど透明な液体の入ったペットボトルだった。
「あの、これって・・・」
「ん?あぁ、『ディナステーア』の『東区』で商売してたときにゴミ山で見つけてな。珍しいものだったから、回りを拭いてそのまま売りに出してる」
「触っても?」
「構わんよ」
俺は唾を飲み込んでペットボトルを持ち上げる。
中に入っている液体が傾き、泡が浮かんだ。
「不思議だろ。傾けると大量の泡が浮かぶんだ」
「なにかしらそれ!面白いわね!」
隣で一緒にペットボトルを覗くサティスの目が輝く。
「なんだろうな・・・」
とは、言うが、俺には検討がついていた。
炭酸水だ・・・きっと。
サイダーかもしれないが・・・このペットボトルの形状は、俺が酒の割りようで買っていた炭酸水の物と同じだ。
「いつ手に入れたの?」
俺は首をかしげて聞く。
「ふむ・・・3日ぐらい前だったかな?」
飲めるかもしれない!
「いくら?」
「んー、初めて見たもんだからなぁ。まぁ、良いところ子供の玩具くらいだろうから持って行っていいぞ。全く売れそうになかったからな」
それは運が良い!
「ください!」
「あいよー」
ペットボトルを受け取る。
「そんなに気に入ったの?」
「あぁ・・・これは、良いものだ」
俺は立ち上がり、家へと戻ろうとする。
「あ!ちょっと待って!私、まだ見たいわ!」
「あ、すまん。もう少し見ていくか」
俺は早まる気持ちを押さえて、サティスを待つことにした。
さて、何に使おうか・・・。
それから、結局他には何もよさげな物がなかったため、俺達は特訓を再開した。
いつもの休日を過ごしていると、気づけば夜。
夜の鍛錬も終えて、いつもなら寝る時間だが・・・。
隣の部屋ではサティスがすでに寝ていることだろう。
下の階からセドロとブリランテの笑い声が聞こえてきた。
今日も飲んでいるらしい。
そこで俺は一つ思いついた。
2人がよく飲んでいるのは、葡萄酒と麦の酒。
スパークリングワインとハイボールにしてやろう!
俺は急いで下へと降りる。
「あら、まだ起きてたの?」
ブリランテが頬を抑えながら樽に入ったワインを開けていた。
テーブルを挟んだ向こうではセドロが麦酒をちびちびと飲んでいた。
やっぱりお酒が強いなぁこの2人・・・。
俺も久しぶりに飲みたくなるが、今は子どもの身体だったことを思い出して諦める。
「どうしたんだ?」
セドロが首を傾げなら俺に聞いてきた。
「良い物が手に入ったんだ」
俺は炭酸水を取り出した。
「それは?」
ブリランテが聞いてくる。
「『炭酸水』だ」
「『炭酸水』?」
ブリランテが首をかしげる。
「たんさ・・・なんだ?そりゃあ」
セドロも同じく首をかしげる。
揃った傾げ方が可愛くて笑ってしまう。
「この容器は俺の前世にあった物と同じだ。多分、『召喚』されたんだと思う。王国で手に入った物だって言ってたから、研究の際の廃棄物だと思うんだ」
「・・・なるほどね。言われてみれば、そんなものも召喚してたかもしれないわ」
ブリランテは少し考えて思い出したようにつぶやいた。
俺は口を開けた容器から『炭酸水』を喉に流し込んだ。
しゅわーとのどに駆け巡る刺激。
間違いなかった。
味も問題なさそうだ。
赤いラベルの、割り用で買っていた炭酸水の味がした。
「おいおい、大丈夫なのか!?」
セドロが慌てる。
「大丈夫だ!それで、これを、お酒に入れてと」
俺は2人の空いたコップに新しいワインと麦酒をそれぞれ入れて、炭酸水を追加で入れてやる。
この世界に炭酸は無い。
多分、炭酸の技術はまだ出来ていないのだろう。
2人はせっかくの酒が!!と慌てるが、俺には自信があった。
炭酸の入った酒は上手い。
「いいからいいから飲んでみて!」
2人は怪しそうにしながら口をつける。
「「っ!?」」
瞬間、二人に衝撃が走る。
炭酸なんてもの初めてだろう。
まず刺激に驚くはず。
そして、癖になるはず!
「「うっうまい!!」」
2人の声が揃った。
「おいおいおい!なんだこれ!!」
「おいしいわ!すごくしっくりくる!」
2人は感動して一気に飲み干してしまう。
「あぁ・・・。それしかなかったのに」
俺は一気になくなってしまった炭酸水に残念に思う。
「いや、多分これは一気に飲んだ方がいい!」
「あら、もう無くなっちゃったわ」
2人とも満足そうである。
「もっとあったらよかったんだけど・・・」
「いや、満足だ。これがフェリスの前世の世界の味か・・・」
セドロが腕を組んで頷く。
「これ以上は多分、今までの酒じゃあ満足できなくなりそうだから、これで十分だ」
そしてにやりと笑う。
ブリランテもそれに頷く。
「そうね。これで満足。また一つ、あなたの事が知れたわ」
言いながら笑うブリランテは心底嬉しそうだった。
「お酒に合うって知っていたって事は、フェリスも前世でお酒を飲んでいたのかしら?」
ブリランテはお酒が入っているからか、珍しく前世の事を聞いてきた。
「まぁ、人並みには」
「そう・・・この世界でも飲めるようになったらその時は一緒に飲みましょうね。その時にまた、前世のお話聞かせて頂戴」
そうか、この世界でもお酒を飲める日が来るのか。
それは今から楽しみだ。
「おっと、サティスもいっしょだぜ!」
セドロが割り込んできた。
「もちろんよ!」
そして、3人で、他愛ない話をした後就寝した。
翌朝、寝坊した俺はサティスを怒らせてしまった。
ごめんよサティス。
酔っ払いとの話は長いんだ。
カフェーオレ、3杯で許してもらえた。




