5歳 18
「・・・さて、フェリスには謝らないとならないわ」
落ち着いたブリランテは唐突に話し始めた。
「それは良いよ。さっき謝ったでしょ?」
「その事とは別件。貴方をこの世界に呼んだ存在についてよ」
・・・なに?
「えっと、それは、神や女神やゲームマスターとかではなく?」
俺の言葉にキョトンとするブリランテ。
あ、やっぱり違いますね・・・。
「あなたの世界ではそういった存在が異世界召喚を?」
「・・・まぁ、よくある感じでは」
「そう・・・。でも残念。普通に『長耳族』よ」
やっぱりそうだよなぁ・・・。
前世がバレたときの話を思い出す。
たしか、この世界には『転生者』や『転位者』がたまにいるはずだ。
王国では、『勇者召喚』の研究も進められているらしい。
それらを可能とする『魔術』も俺は知っている。
『召喚魔術』。
以前、辞典で見た『魔術』。
「王国では『勇者召喚』の研究をしている事は知っているわよね?・・・そこで私も一時期研究の手伝いをしていたことがあったの」
なんと。
「詳しくは話せないのだけれど、私が協力した最後の日。『勇者召喚』の際にちょっと不思議な感覚があった気がしたのよ」
「気がした・・・?」
「私のお腹の中に何かが宿る感覚・・・だと思うわ。すぐに気を失ってしまったからはっきりとは思い出せないのだけれど。そのすぐ後にあなたが生まれたから、もしかしたらとは思っていたのよ・・・フェリスをお兄ちゃんに初めて見せに行った日、覚えているかしら?」
俺は記憶を引っ張り出す。
ほとんど覚えていないが。
「あの時、黒いローブの人に会ったのを覚えているかしら」
俺は言われて思い出す。
藍色の髪の三つ編み眼鏡か!
あの、失礼な表情はよく覚えている。
何を言っているのかは全く分からなかったが。
「覚えているようね。彼女が『召喚魔術』の使い手『コネクシオン・インディゴ』よ。おそらくあなたの召喚に関係しているわ・・・それで忠告」
「忠告?」
「えぇ、あの人を信用してはいけないわ」
言ってブリランテは頬に手を当てて困った顔で続ける。
「あの人、考えは立派だけれど、手段を選ばないところがあるから・・・私、騙されちゃった」
ブリランテはため息をついて俺に頭を下げる。
「あなたがこの世界に来た理由は私にもあるわ。本当にごめんなさい」
そう、ブリランテが頭を下げたのだ。
この世界では屈服や忠誠を表す行為。
「いやいやいや!頭を上げてくれ!」
「え?貴方の世界ではお礼や謝罪の時にする事ではなかったの?」
ブリランテは俺の事をよく見ていたのだ。
俺が礼や謝罪をするのを見て真似してくれたのだ。
「いいって!この世界はこの世界だ!そこまで気にしなくていい!ていうかそもそも母さんが謝る事じゃないだろう!」
俺は立ち上がる。
「何だったらこの世界に呼んでくれた事、感謝してるんだ」
勿論前世に思い入れはあった。
だが、心残りと言われればそうもない。
感謝している父と母はすでに他界。
友達だって殆ど疎遠状態だった。
夢や仕事へのやりがいだってあった訳ではない。
弟家族とのお出掛けとお酒、週刊の少年誌を楽しみに生きていただけ。
弟との別れが急になったくらいで後は別に心残りらしいものは無い。
俺はこの世界で夢や目標が見つかり、今を一緒に生きている家族や友達がいる。
これ以上の幸せは無いだろう。
「そうなの?」
「お、おう!今度その人に会ったら礼が言いたいくらいだ」
ブリランテは、俺の顔を見つめた後、頷く。
「・・・そう。そうなのね。わかったわ。この話はこれで終わりにしましょう。ただし、あの人には近づかないこと。関わる事になっても信用はしない事よ」
最後の言葉はやけに真剣だった。
「・・・分かった」
まぁ、自分の子に関わる事で何かされたのだとしたらそりゃ怒るよなぁ。
「おーい、そろそろ終わったか?」
言いながらサティスをおぶったセドロが入ってきた。
サティスは腫らした目を閉じて、寝息を立てていた。
泣き疲れたんだろう。
「えぇ、帰りましょう」
ブリランテが立ちあがる。
俺もそれに続こうとして。
「・・・あれ?」
ふらついた。
「まだ完全には回復してないのよ」
ブリランテが言いながら俺をお姫様抱っこする。
・・・恥ずかしいなこれは。
「照れてるな?」
ニヤニヤするセドロを睨んでやる。
「良いのよ。お母さんだもの甘えなさい」
「・・・母さんって優しいのよな」
俺は照れ隠しで言いながら腕を組み、目を瞑り寝たふりをした。
沈黙。
どうしたのかと薄目を開ける。
「「今更気づいたの(か)?」」
2人の美しい笑顔がそこにはあった。
帰り道。
夜。
月明かりの元。
ブリランテの手の内。
微睡。
「やっと呼んでくれたな」
活発な母の声。
「えぇ。私。やっとこの人の母になれたような気がするわ」
優しい母の声。
「これからも一緒に頑張ろうな」
「えぇ」
2人の笑い声を子守歌に眠りにつく。
そんな幸せ。




