5歳 15
俺は今、熊に引きずられていた。
しかも巨体。
色は漆黒。
間違いない。
『魔獣』。
前世で少年の頃に旅行で行った『クマ牧場』。
子どもながらに目の前で見た熊はとても怖い動物だと思ったものだ。
息遣い、匂い、声。
餌をねだる仕草は可愛かったが、拍手する度に鳴り響く、力強く、硬い音には恐怖した。
今、俺を咥えて引きずっている『魔獣』と化した漆黒の熊。
「グゥルルルルッ」
涎と共に唸る。
漏れる息遣いに背筋がぞわぞわとする。
頭の痛みや眩暈は大分良くなっているが、今は、服の首根っこをかまれて運ばれている状態。
下手に刺激すると危ない。
セドロに聞いたが、熊の『魔獣』は猪の『魔獣』より狂暴であり、強い。
ただの『魔獣』で『ミエド・ハバリー』並みと考えていいそうだ。
だから、俺たちは今まで熊の数減らしには参加できていなかった。
熊の『魔獣』を狩れるのは、セドロとブリランテ、エスタシオナールの3人のみ。
だから、俺は下手に刺激することができない。
最悪、抵抗はするが死ぬかもしれない。
『魔獣』は身体能力が数倍近く上がっている。
倒すには内部の『魔石』を破壊する必要もある。
勝つのは絶望的だ。
・・・どうしよう。
と、考えていた時だ。
大きな洞穴にたどり着いた。
中に入っていく。
ここはいったいどこなんだ。
というか、俺はなぜ、運ばれているんだ?
動けないでいたら死体だと思われたのだろうか・・・。
餌扱いなのだろうか。
というか、こんな洞窟の奥まで運んだら、俺、見つからないのではないだろうか?
ボンッと投げられて、転がって止まる。
熊が出て行ったのを見計らって座る。
サティスにやられて、未だに痛む顎をさすりながら周囲を見渡す。
奥から差し込む夕日の明かりがかすかに洞窟内を照らす。
ひどい獣集。
動物の死骸。
さっきの『魔獣』が帰ってくる前に出ていこう。
立ち上がる。
まだ少しふらつくが、問題ない。
一歩踏み出す。
ザリッと地を踏む音がやけに大きく響いた。
「ヴゥルルルルルッ」
背後から唸り声が聞こえた。
生唾を飲む。
目が更に慣れてくる。
唸り声が聞こえた方を振り向く。
「・・・まじかよ」
先ほどは見えなかった奥の方に最悪なものが目に入った。
唸る熊の『魔獣』5匹。
加えて。
さらに巨大な大熊の『魔獣』。
それが眠っていた。
『ミエド』を冠すると察したと同時に死を覚悟。
「ふざけんなよ・・・」
俺は出口の方を見る。
ゆっくり離れれば出られるかもしれない。
が、現実は非情なり。
「くっそ!」
小さく叫ぶ。
先ほど、俺を連れてきた熊と、2匹の熊。
合計3体の『魔獣』が戻ってきていた。
視線を前に戻す。
大熊が目を覚ました。
覚ましてしまった。
ゆっくりと起き上がる大熊。
俺の姿を視認。
同時。
「バゴォオオオオオオツ」
巨大な咆哮を響かせた。
模造剣を構える。
勝てるわけない・・・。
だが、それでも。
やるしかない。
驚愕。
「うそ・・・だろ?」
気合を入れようとして力が抜けた。
思わず膝をついた。
大熊の背後。
隠れていた小さな熊の『魔獣』が10匹近く現れた。
ここは、大熊の巣だったのだ。
大熊が2本足で立ち上がる。
・・・オーバーキルにもほどがあるだろ。
あまりのその大きさに絶望する。
目測だけで10メートルはあるだろう。
見たくない現実に、この洞穴がとても大きいなと明後日の事を考えてしまう。
巨大熊を囲う大きめな熊と、通常サイズの小さな熊。
すべてが『魔獣』。
『ミエド・ハバリー』と同程度の強さ。
対する俺の手には模造剣。
真剣ですらない。
致命傷を与える事など不可能だ。
「バゴォオオオオオオ!!」
大熊のさらなる巨大な咆哮。
その重圧に動きが制限される。
それと同時、おそらく突撃命令だったのだろう周囲の熊たちが襲い掛かってきた。
こんな所で死んでられるか!!
「うおおおおおおっつ!!」
咆哮。
気合注入。
立ち上がる。
俺の生き残りをかけた文字通りの死闘が始まる。
だれか・・・助けてくれ!!
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