5歳 11
『アロサール家』『二階』『客間』。
俺はノックをする。
返事はない。
静かに扉を開けて、中を覗き込む。
「失礼しま~す」
「なにをだい?」
後ろのコルザが聞いてくる。
「あ、いや、なんでもない」
首をかしげるコルザ。
俺は構わずなかを見る。
そこではベッドの上で、サティスがセドロの腕の中で眠っていた。
セドロもサティスを優しく抱いて眠っている。
美人親子の寝姿は絵になるな・・・。
と始めて見る光景に静かに合掌した。
「さっきからなんなんだい?」
隣でコルザがひそひそと聞く。
「きにすんな」
「前世のなにかかい?」
「きにすんな」
「・・・なんだい、人がせっかく君のアドバイスを」
「あーあー聞こえないー」
遮る。
きっとまた長くなる。
「むぅ」
と少し怒った様子だったが大丈夫だろう。
根はやさしい奴だからな。
これくらいは許してくれる。
と、俺達の存在に気付いたのかセドロが目を覚ました。
ゆっくりと起き上がり、サティスに布団をかけてやる。
「フェリス」
セドロが口を開いた。
俺はセドロに手を合わせて謝る。
「すまない。俺は今まで出しゃばりすぎていた」
それをセドロが手で制止する。
「謝るな。私は感謝してるんだ。フェリスがいてくれて良かった」
意味が分からずに首を傾げる。
「ブリランテから話を聞いただろう。今回、ブリランテは当分だって言っていたと思うが、完全に私の落ち度だ。私は一度サティスから逃げてしまったんだからな」
言いながら眉をハの字にする。
「だが、私が、もう一度サティスと向き合おうと、一緒に過ごそうと、そう、思えたのはフェリスが居てくれたおかげなんだ」
どうしてそうなるのか分からない。
だって、そもそも俺がでしゃばりすぎなければこうはならなかったはずだ。
「全く身に覚えがない、俺がしたことはサティスと一緒に居すぎたことだ」
俺の言葉に首をふるセドロ。
「フェリスが言ってくれたじゃないか、サティスが私を大好きだと・・・」
俺は、初めて『剣舞術』を使用したあの日、そんなことも言った事を思い出す。
「あの言葉がなかったら私は、サティスとの関係を諦めてしまっていた。全部ブリランテに投げてしまっていたと思う。もしかしたら、最後の砦にすらなれなかったかもしれない。だから、本当にありがとう」
感謝の言葉に俺はますます訳が分からなくなる。
「今回の原因は、お前が側にいた事じゃない。私がフェリスよりも沢山サティスと一緒にいてやれてなかったのが原因だ。コラソンさんにも、何を友人の子供に甘えてるんだって怒られた」
ははっと自嘲気味に笑う。
寝起きで本調子では無いのだろう。大分普段よりもテンションが低い。
もしかしたら、こっちの方が素なのかもしれない。
「だから、本当にお前が謝る事は無い。ブリランテもそう。無理に私の罪を一緒に背負わなくても良い。これは、私の失敗だ。私が反省して直していかなきゃならないこと。だから、サティスとはこれからも変わらず接してやってくれ。サティスにはフェリスが必要だから」
そう言ってベットから降りて立ち上がる。
そのまま俺の頭を数回撫でたあと部屋の扉に手を掛ける。
「私はブリランテと話してくる・・・」
最後にそれだけ言って部屋を後にした。
「・・・よかったね?」
隣でコルザが嘲笑を浮かべる。
俺の赤くなった顔をあざ笑っているのだろう。
「うっせぇよ」
「くくっ。ふーん。君はそうやって照れるんだね」
俺は耐え切れなくなって顔を伏せて両手で顔を覆った。
「だ、だって、セドロから礼を言われるなんて思ってなかったから!!」
怒られるか、共に落ち込むか、どちらでもないにしろ、礼を言われるとは思ってもなかった。
しかも、あんな、すぐに忘れてしまうような話で。
内心、サティスとの事で申し訳ないやら、セドロから感謝されて嬉しいやらでぐちゃぐちゃだ・・・。
と、俺達の会話が聞こえたのかサティスが目を覚ました。
勢いよく起き上がり、威嚇するように膝をつく。
コルザを見つけて睨みつける。
「なによ!!」
ガルルッと威嚇しているようだ。
怒ってるなぁ・・・。
隣でコルザが頭を下げた。
「すまない」
「なにがよ!」
「君を不快にしてしまった事」
「別に怒ってないわよ!!」
「いや、怒ってる」
「怒ってないって言ってるじゃない!」
「いや!怒っているね!」
「怒ってない!」
「だぁあ!まてまてまて!落ち着けって!これじゃあさっきと変わらないだろ!」
俺は2人の間に入って仲立ちする。
「フェリスはどうしてそっちに居るのよ!」
うおっ!飛び火!!
「大丈夫だ!俺はサティスの味方!コルザがどうしても謝りたいって言うから!」
「ならよし!コルザ!」
言いながらサティスは立ち上がって腕を組む。
「怒っていないのは本当よ!私は決めていただけ!コルザに言うことを!」
続けて勢いよくコルザに指を差す。
戸惑うコルザ。
コルザが俺に助けを求めるように視線を送る。
知らん。
自分で頑張れ。
「言う事?」
コルザが恨めしそうな眼をした後、サティスの方を向く。
問われたサティスは強くうなずき、キッと睨みつける。
「私、コルザの『好敵手』に絶対なって見せるんだから!」
あぁ、怒ってるわけじゃなかったのか。
緊張していたのか。
セドロと一緒に寝て少し落ち着いたのか、気持ちが前に向いている。
「今は確かに格下かもしれないけれど、絶対コルザと同じくらい・・・いいえ、コルザより強くなって見せるんだから!!」
サティスは胸を張る。
「そうしたらコルザとは『好敵手』よ!絶対認めさせるんだから!!」
その姿にコルザは表情を辛そうに崩す。
「サティスが?僕と?せいぜい友達が良い所だろう?」
「・・・友達?それはもうなっているじゃない」
「え?」
コルザは驚いた顔で素っ頓狂な声を上げた。
「私、コルザは嫌な所もあるけれど好きよ?とっても強くて、憧れる、絶対にフェリスと一緒に越えたい壁よ!!」
「絶対に越えたい壁」
コルザが呟いて胸の前で手を握った。
表情はどこか嬉しそうだ。
「・・・さっきはつい、言いすぎちゃったわ。ごめんなさい。でも、本当にコルザの事は好きなのよ?これって、もう友達じゃないの?」
コルザが目を見開いて瞳を潤ませた。
サティスは人が、その時に一番欲しい言葉を言う事がある。
今までも、俺の事を必要と言ってくれたり、デスペハード達に現実を突きつけて、焚きつけたりと、彼女の言葉は心に触れる。
コルザは耐えきれずに涙を流した。
「あ!泣いちゃったわ!本当にごめんなさい!お母様にも謝りなさいって言われていたの!だから泣かないで!」
言いながら自分の服の裾を持って頬を吹いてやろうとする。
それを優しく止めるコルザ。
「良いんだ。僕は本当はそれを言いたかったんだ」
涙を拭って言葉を紡ぐ。
「『好敵手』なんて大げさな物じゃなくて『友達』になろうって」
そうか、そうだったのか。
コルザはまだ、サティスと『友達』だと思えてなかったのか。
だから、まわりくどい事を言ってまで『友達』になりたかったのか。
「むっ!なんてじゃないわ!私はコルザと『好敵手』になりたいのよ!そういう所が嫌いだわ!」
サティスはむっとする。
そうか。
コルザはあの喧嘩になった、言い合いの最後はきっと、「だから、『好敵手』なんてものじゃなく、友達になろう」と繋げたかったんだ。
だが、だがな?コルザよ。
好敵手『なんか』とは、本当に聞き捨てならんぞ!
俺は口を挟む。
「『好敵手』はなんてで済ませられる物じゃない。俺の世界ではライバルとも言う。互いに高め合い、互いに認め合い、時に敵対し、時に協力し、それはそれは熱く、いい関係だ。友達よりもなるのはもっとずっと難しい」
少年漫画で育った身として、ライバルと言う存在への侮辱は許せない。
「・・・『ライバル』。いい響きね!」
サティスが笑う。
俺は頷いて続ける。
「あぁ、『ライバル』は強い絆の一つだ。もしかしたら『友達』より強い繋がりかもしれないな?サティスはそれを目指すってよ!」
俺の言葉を聞いてサティスを再度見つめるコルザ。
「本当に、君は僕の、その『ライバル』ってやつを目指してくれるのかい?」
「もちろんよ!文句あるかしら!」
サティスの言葉に笑うコルザ。
「ふふっ。無い。無いよ。僕は今、とても幸せだ。友達が出来ただけでも嬉しいのに、それ以上を目指してくれるんだからね」
涙を拭う。
「『なんて』なんて言ってすまなかった。いいよ、なってごらん。僕の『ライバル』に」
言いながら微笑む。
「僕は、それまで君たちの『超えるべき壁』として、『友達』として居続けよう」
続けて嘲笑。
「だから頑張ってね?今はまだ、『弱い友達』」
「そういうところ~!!!」
コルザにとびかかるサティス。
どったんばったん大騒ぎだった。
コルザは笑顔。サティスは怒り。俺は大慌て。
だが、俺はひとつ気づいた。
コルザの嘲笑には照れ隠しもある事を。




