ブリランテ 1
去っていく後ろ姿。
離れていく息子。
去年は小さな猪でさえやっとだったのに。
こどもの成長ってすごいわ。
私はフェリスから意識を村の中に沢山いる猪たちへ向ける。
フェリスは『異世界転生者』だった。
怪しいと思い始めたのは本に興味を持ち、読み始めたあたりから。
食事の前に手を合わせるおかしな仕草や、教えてもないのに頭を下げる癖。
『樹皮紙』と言う、彼が作り出した紙。
自身の身体に施す、異常な鍛錬。
身なりに気を遣う姿。
サティスへの異常な執着。
見れば見るほどに不思議な子だった。
実は、別の世界の夢を見る事がある。
幼い頃に突然夢に見るようになった。
硬い地面や、大きな建物。
綺麗な花に、落ち着いた色の髪。
見たことのない料理に、本や『魔術』のような何か。
この世界じゃありえない黒い髪の人々が笑っている世界。
何が何かは全く分からないそんな世界。
決まって最後はとっても早く動く箱の中、大切な人の隣で幸せな感覚のまま目が覚める。
それを踏まえて兄に何度も相談した。
王国では異世界召喚研究を進めている。
私は夢の件もあって協力していたが、まさか私の息子がそうなるとは夢にも思ってなかった。
でも、兄と話していくうちにそれは現実味を帯びていった。
最初はもちろん戸惑ったし、信じられなかった。
それでもこの5年間過ごしたのは間違いなく夫との愛の結晶。
息子のフェリスだ。
彼の中にいる人が異世界の人であったとしてもそれは変わらない。
あの子の大切な物は多分。
サティスと友達。
それから私たち家族。
多分、この村も好きでいてくれている。
息子の好きな物くらいは分かる。
去年の件以来、会話がぐっと減ってしまったが、それでも分かる。
最近は、私に気を使ってか『フェリス』であろうとしていることも。
『サティス』を大切に思うばかりに過保護気味になってしまっていたことも。
正直、私はまだ彼との距離感を測りかねている。
あの子が大切な存在であるとともに、別の世界の人間なのだ。
どうしたら良いのかわからない。
でも、今、やるべきことは分かる。
彼の間違いを止める事は出来た。
後は、あの子の大切な物を一緒に守る。
私は腰の真剣を抜く。
どこにでもある真剣。
だけど、夫が私の為に選んでくれた大切な剣。
これで守ってみせる。
小瓶を腰の鞄から取り出す。
『カルマ』とトルベジーノが、ブエンと協力して『ディナステーア』に売りに出している物のひとつ。
『魔物』用の興奮瓶。
床に叩きつける。
小瓶が割れて桃色の靄が広がり、甘い匂いが立ち込めた。
「カリマ!デスペハード!ここは任せなさい!プランターじいさんの方、人手不足よ!」
「「わかりました!」」
仲良く戦場離脱したのを見送って腰を低く構える。
興奮瓶の副作用で空腹感に襲われる。
ちょっとお腹がすいているくらいが丁度いいのだ。
興奮瓶の効果で私の方に誘引される『魔獣』たち。
やがて、四方八方から私の元に突進してきた。
総数36ね。
「敵じゃないわね」
整息。
「『剣舞術』『修型』」
繰り出すは剣舞術集団戦特化の最強型。
「『ワルツ』」
フェリス。
頑張りなさい。
私は貴方を応援しているわ。




