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努力畢生~人生に満足するため努力し、2人で『無敵』に至る~  作者: たちねこ
第一部 乳幼児期 『4歳編』
23/630

4歳 5

 「フェリスも来てくれたか!」


 俺は状況を知るためにデスペハードの隣まで駆けつけて構える。

 後ろでは歯を食いしばって呻いているカリマ。

 デスペハードはひどく焦った顔をしていた。

 目の前には巨大な漆黒の猪。

 『魔獣』『ミエド・ハバリー』。

 牙だけで2メートルはあるだろう。

 目測、体長約15メートル。肩高約10メートルと言った所か?

 以前見た猪の『魔獣』よりさらに色黒く、大きい。

 よく見ると、その巨大猪の後ろに左からベンタロン、ブリッサ、ビエント、アイレが構えている。

 ジュビアとベンディスカ以外は集合済みか。

 「デスペハード!どういう状況だ!」

 サティスの反対隣りである、デスペハードの右隣りに駆けつけて状況を聞く。

 聞かれたデスペハードが焦っているためか、言葉を選んでいる。

 その様子に俺は長くなる事を察し、腰のバックから手のひらに収まる程度の大きさの時計を出す。

 サティスが今にも舞い始めて突っ込んでいこうとしていたのだ。

 「待てサティス!早い奴が2回上に行くまでだ!」

 俺はサティスに『ディナステーア』でインクと共に買ってもらった時計を投げ渡す。

 受け取ったサティスが時計を見る。

 「分かったわ!」

 時計にくぎ付け。

 時間の概念をまだ理解していないサティスには、秒針で待つ時間を教えている。

 普段待てないサティスでも、これを見ている間は5分くらいまでならなんとか待てる。

 今回は2分。

 「はやくはやく!」

 そう言いながらソワソワし始めたサティス。

 口元には獰猛な笑み。

 体は既にリズムを刻んでいる。

 「よし、深呼吸だ!落ち着け!」

 次にデスペハードへ言葉をかける。

 デスペハードは俺の言葉に反応して、1度だけ大きく深呼吸した。

 それで落ち着いたのか口を開く。

 「よし。まずはあの『魔獣』だが、俺のチーム全員で追いかけてたんだ」

 「・・・あれを?」

 「あぁ。チーム全員でかかれば狩れると思って」

 俺は今朝、全員で山の麓に集まり、そこで聞いたセドロの話を思い出す。


 「件の『魔獣』だが、結構前から『人属領』で目撃されていた、『ミエド・ハバリー』と名前がついた『魔獣』だった。やはり、『ミエド』を冠する『魔獣』だった」

 やはり、危険な『魔獣』なのだろう。

 真剣な物言いだった。

 「『ミエド・ハバリー』は『冒険者ギルド』内でもクエスト依頼されていたのを覚えてる。『魔獣』は全部が危険だか、名指しでクエスト依頼されると言うことは、危険度が段違いに上がる」

 冒険者ギルドなんて物があるのだと知って驚いた。

 セドロは一度間を空けて、再度口を開いた。

 「いいか?決して狩ろうと思うな。絶対に自分の力を過信するな。必ず見つけ次第私に教えろ。驕るなよ?」

 強い語気。

 かなり真剣な顔で最後の一言を俺たちに伝えた。


 「さもなくば、死ぬぞ」


 セドロのあまりにも真剣な物言いによる緊張感を思い出す。

 「セドロはすぐ呼ぶように言ってなかったか!?」

 あの言葉を忘れたのかデスペハードは!

 「・・・うるせぇ。後悔してんだ」

 俺の言葉に苦虫をか噛み潰したような顔で答えるデスペハード。

 「後悔?」

 「俺の思い上がりにカリマを巻き込んでしまった。追いかけていた猪が突然消えて、探し出したと思ったらカリマが倒れてて・・・」

 握りこぶしに力がこもるデスペハード。

 なるほど。

 デスペハードチームが追っていた巨大猪の先に運悪くカリマがいた感じだな?

 しかし、突然消えたか・・・。

 何かあるのだろうか。

 俺はカリマに目を向ける。

 「カリマ、傷は?」

 右腕を押さえ、脂汗をかきながらカリマが答える。

 「ぐぅ・・・だ、大丈夫よ」

 どう見ても大丈夫じゃないだろう・・・。

 「大分深くないか?」

 「・・・そうね」

 あまり傷を見るのは得意じゃないが、よく観察してみると骨が見えていた。

 さて・・・どうしたもんか。

 まずは怪我人を逃がすべきだ。

 カリマを安全に逃がすためには足止めも必要だな。

 俺たちでできるかはわからないが、何とかセドロが来るまでは持ちこたえよう。

 「俺とサティス。後デスペハードとベンタロンでこいつを足止めしよう。ビエント、アイレにはカリマを村長の所に連れてってもらって、ブリッサにはセドロを呼んできて貰おう」

 俺の案を聞いたデスペハードがうなずいた。

 「分かった。そうしよう。お前は頼りになるな。ずっと大人びて見えることがある」

 デスペハードに言われてヒヤッとする。

 ま、まぁ、大人どころかもはや爺さんレベルだからな。

 前世バレしたと思った。

 「いいって、それより指示頼むぞ」

 実力不足な俺も怪我人を連れて行く方に着いた方が良いかとも思ったが、サティスが気がかりだ。

 周りを見ずに突っ込んで大怪我でもされたらそれこそ大惨事。

 それに、足止めなら人数は多い方がいい。

 俺は息を吸って吐き、構える。

 『順位戦』による、アルコメンバーの強さランキングで、1位のサティス、3位のデスペハード、4位のベンタロン(2位はカリマだ)、つまり強い奴らが残り、双子は力を合わせて救急搬送してもらう。

 セドロを呼びに行くのは、アルコメンバーの中で1番足が速いブリッサが行くべきだ。

 「・・・だ!わかったか!?」

 デスペハードが全員に指示を出す。

 「ちょっと何でベンタロンと離れないとならないの!?」

 ブリッサがやる気満々だったのにと怒りをあらわにする。

 「僕もこの指示には納得した。君に傷ついて欲しくない。行ってくれ」

 「はいっ!」

 ベンタロンの一言に即了承。

 ちょろすぎん?

 というか、良いのかそれで?

 「あとちょっと・・・」

 サティスがはぁはぁと息を漏らす。

 我慢の限界が近づいているのだろう。

 「時計は返せよ」

 「うん・・・はぁ・・・はぁ・・・」

 「よし!やるぞ!」

 

 「3」

 

 指示された全員が動く。

 残った全員が身構える。

 

 「2」


 駆け出す準備を始める。

 

 「1」


 サティスが俺に時計を投げた。

 受け取り、腰バックにしまう。

 

 「0」


 ボンッ。


 サティスが舞って突発的にリズム上昇を行い、猪に肉薄。

 「あっはっ!」

 獰猛な笑顔。

 嬉しそうな声。

 本当に戦う事が大好きだな。


 「『剣舞術』『クラコビィアク』!」


 サティスの素早い突き。

 しかし、猪はそれを見ずに振り返って突進。

 それは、セドロを呼ぶために走り出したブリッサに向かう。


 「うえ!?」

 

 その速度はとても素早く、サティスの突きが空振る。

 ザザッと砂埃をたてながら着地。

 「ブリッサ!」

 「え?」

 サティスの叫びに振り返るブリッサ。

 振り返ったブリッサに猪が迫る。

 「くそ!」

 不意打ちにベンタロンが出遅れる。

 ビエントとアイレも動けない。

 デスペハードと俺は遠くて間に合わない。

 全員が覚悟した。


 「『強化魔術』『筋力』」


 ズズゥンッと地響き。

 上がる土煙。

 

 「ブリッサ!」

 ベンタロンが叫ぶ。

 

 「ふぅ・・・間に合ったな」


 声がした。

 男の声。

 最近、硬派な男になったあの青年の声。


 「ジュビア!」


 サティスの声。

 砂埃が晴れる。


 そこには、濃紺の靄を全身に纏わせて『魔獣』の突進を全身で受け止める硬派な男がいた。


 「ふんっ!」


 数メートル先まで押し返す。

 「話は聞いた。ベンディスカ、ブリッサと一緒に師匠を呼びに行け。お前の足なら間に合う」

 「分かったよ」

 猪を見て尻もちをつくブリッサの後ろにフードの青年。

 青年は灰色の靄に包まれる。

 

 「『身体強化』『俊敏性』」


 同時、いつの間にかベンディスカがカリマをビエントとアイレの元に運んでいた。

 「・・・え?」

 状況が呑み込めていないカリマ。

 カリマを優しく置いてすぐにブリッサを姫抱きする。

 「え!?」

 驚くブリッサ。

 「ちょっと荒いけど我慢してね?ビエントとアイレはカリマを頼んだよ」

 優しい物言いのベンディスカ。

 顔を赤くしている腕の中のブリッサ。

 それを確認したとほぼ同時、ものすごい速度でベンディスカが駆け抜けていった。

 ビエントとアイレは驚きつつもカリマを抱えて脱出。

 「すげぇ・・・」

 デスペハードの呟き。

 「面白いわね・・・」

 獰猛な笑みを浮かべるサティス。

 「くそう」

 悔しそうなベンタロン。

 今度は『強化魔術』か・・・。

 すごいな。

 ジュビアとベンディスカが想像以上に成長していて驚く。

 

 「ビヒィッ!」


 再度ジュビアへの突進。

 ジュビアは剣を抜く。

 「やるぞ」


 ちなみに、俺は『順位戦』も『決闘』もしたことがない。

 対人戦をするにはまだ実力が足りないと思うからだ。

 と言うことでランキングは最下位。

 とりあえず、足だけは引っ張らないようにしないと。

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