4歳 4
山の中に戻り、猪を求めて駆け回っていた。
前方を進むのはサティス。
彼女は勘が鋭い。
セドロもそうだが、2人の勘は良く働き、俺の考えている事が当てられたり、猪の場所が分かったりともはやそういう能力の類じゃないのかと思う。
能力と言えばだ。
先ほどブエンが使った、『錬金魔術』なる『魔術』を思い出す。
この世界には『魔術』が存在する。
髪色によって使える『魔術』が異なるらしいが、『天魔族』の血が混じっているならば誰でも『魔術』が使えるらしい。
また、髪色によって使える特別な魔術を『限定魔術』と呼ぶらしく、小説『勇者伝説』内でも語られている。
例えば、先ほどブエンが使った『錬金魔術』も『限定魔術』の1つだ。
他にも、勇者パーティー内の群青色の髪の『ジュビア』は『氷結魔術』が使えたり、深紅の髪のセドロは『業火魔術』と言うものが使えたりする。
ただし、黒が混じるとほとんどの場合は『強化魔術』と言うものになるらしいが、これも『限定魔術』の1つになるとも記載があった。
俺は自身の髪色を思う。
青色。
ブリランテ譲りの素晴らしい青髪だ。
まだ教えてもらう事は叶っていない。
なんでも『限定魔術』を使えるようになるには、それぞれの『限定魔術』特有の条件を満たす必要があるらしく、その条件を教えてもらうのにまだ早いと言われてしまったのだ。
『剣舞術』を修めたら教えてくれるらしい。
やはり、目の前の事を先にこなせという事なのだろう。
いずれ『メディオ学院』にも通えるのだ。
気長に行こう。
『メディオ学院』に行けば、『天魔族』の血が少しでも流れていれば誰でも使える『基本魔術』も使えるようになるらしいし焦る必要は無い。
今は目の前の『剣舞術』だ!
と、サティスが立ち止まったので俺も足を止めた。
「あれは何かしら!?」
最近のサティスの口癖である。
目についた物にすぐ気を取られる好奇心旺盛な性格。
サティスの可愛い所であり、厄介なところだ。
基本、サティスは注意力が散漫だ。
普段の生活の中では、よそ見が多く壁にぶつかる事や段差に躓く事が多い。忘れ物も多く、この間なんて修行に模造剣を忘れていた。
さらに落ち着きも見られず、座って話を聞くのが苦手で、体を動かしながらセドロの話を聞いている。
それくらい落ち着かないので傷が絶えなかった。
流石に危ないと思ったので俺ができるだけ近くで一緒に行動するようにしていた。
危なそうなところは常に声をかけている。
まぁ、何はともあれ、サティスは好奇心が人一倍強いのだ。
そんな彼女の口癖が「あれは何かしら!?」だ
俺は何時もの問いかけに足を止める。
「どれだ?早く戻らないとカリマにどやされるぞ」
頭の中で、腰に手を置いて胸を張るカリマの姿を思い浮かべる。
「いいから、あれよあれ!」
言いながら気になった物一直線に駆け出す。
俺はその後ろをぴったりとついていく。
「木で傷作るなよー!」
怪我したら危ないからな。
「分かったわ!それよりあれよ!」
「それよりってことは無いだろう・・・で?どれだ?」
「あれ!!」
開けた空き地に出る。
ざざっと砂埃を上げながら足を止めて指を指すサティス。
その指の差す先にあったのは、山の中、不自然に建つ一軒家だった。
そう、家。
木造の二階建ての一件屋。
ツタが張り付いて生活感がなく、無人の様だ。
「なんだあれ」
「いきましょ!」
たたっと駆けて近づく俺達2人。
「お邪魔するわね!」
元気に言いながら扉を開ける。
おいおい。
遠慮無いな。
俺もサティスに続いて中に入る。
「え」
玄関だった。
靴置きに一段上がって廊下。
向かって右に階段と奥に台所だろうか?左には半開きのドア。
この世界では見慣れないが、見慣れた室内。
前世でよくある日本の一軒家だった。
俺は自然と靴を脱ぐ。
「どうして靴を脱ぐのかしら?」
サティスに言われて気付く。
「あ、いや、なんでだろ?あはは」
俺は靴を履きなおしてサティスより先に一段上がる。
靴のまま家に入る違和感。
「私が先よ!」
「危ないから俺の後に来い」
「あっ!今の『王子様』みたいね!真似っこ?」
「ち、ちがう!やめろ恥ずかしい!」
「えぇ?かっこよかったわよ?」
ええい、なんて恥ずかしい事を!
俺は耳まで赤くなっているのをごまかしながら進む。
とりあえず、さっきの半開きのドアを開ける。
きぃっと擦れる音を響かせながらドアが開く。
中はカーテンの隙間から入る光で照らされていた。
真ん中に大きなテーブル。
それを挟むように椅子が二つ。
暖炉。
窓の近くにある揺れる椅子に。
壁には大きな本棚。
青い絨毯。
家具はこの世界で良く見る物ばかりだったが、配置が何となく懐かしい。
やっぱり前世での築80年近くの一軒家と言えばな造りである・・・。
蒸気機関車と言い、勇者と言い、存在を知ってはいたが・・・。
この世界には昔、俺以外の異世界から来た人が居たんだな。
「フェリス!見て見て!剣があったわ!」
サティスが持って来たのは包丁だった。
「それ包丁だろ!」
「え?こんな綺麗な形の包丁なんて知らないわよ?」
俺は言われて気付く。
そう言えばブリランテのいつも使っている包丁って、獣の骨を加工したものだ。
俺は包丁を見せてもらう。
銅だ。
サビてしまってはいるが、前世で良く使われていた出刃包丁そのものだった。
上手く研げば輝きを取り戻すだろう。
「どこにあった?」
俺がサティスに聞くと。
「こっちよ!」
と言いながらキッチンの方に走っていった。
そこにあったのはシンク。見慣れているが見慣れないシンク。
下の戸についた、包丁立てには何本か包丁が刺さっていた。
中には砥石も入っている。
他には。
・・・ペットボトル?
俺は良く分からない黒い液体の入ったペットボトルを取り出す。
このペットボトルの形。
黒い液体。
・・・醤油か?
蓋を開けて臭いを嗅いでみると、大分きついが醤油の臭いがした。
「何かしら?」
「さぁ、毒じゃないか?」
間違ってはない。
「それにしてもここ、誰のお家なのかしら?」
「うーん。まぁ、誰も住んでないのは確かだよなぁ・・・」
「他には何かないかしら?」
と、探索を続けようとするサティスを引き止める。
「いや、やめておこう。勝手に荒らすのは良くない」
「えぇ・・・」
眉をハの字にして残念そうにするサティスを何とか説得して家を出た。
「不思議だったわね!」
満足そうな笑みのサティス。
「そうだな」
俺も同感である。
前世の一軒家のイメージそのままの家があったのだ。
不思議この上ない。
誰があんな山奥にある、一軒家で過ごしていたのだろう。
どうして、包丁やペットボトルがあったのだろう。
気になることは多々ある。
ブリランテが帰ってきたら聞いてみようかな?
なんて考えていた時だった。
「キャアッ!!」
女の子の悲鳴が響いた。
「この声・・・カリマだわ!」
サティスが声のした方向に駆けだした。
今の短い悲鳴で分かったのか?
すごいな・・・。
いや、感心している場合じゃない!
「まて!俺も行く!」
俺はサティスを追いかけた。
「いたわ!たいへん!カリマ!!」
走ってすぐだった。
サティスが慌てた様子で木々の間を駆け抜けて、草むらを抜けた。
抜けた先で方向を右へ変えてそのまま駆けていった。
俺も置いていかれないように速度を上げる。
「サティス!助かった!!」
デスペハードの声が聞こえた。
俺も草むらを抜ける。
開けた場所、広い山道らしい。
左右に伸びた広い道。
サティスが向かっていった、右の方を見る。
「おいおい・・・まじかよ」
俺は生唾を飲んだ。
道の先、そこにそれはいた。
昨日のセドロの話を思い出す。
『ミエド』。
それを冠する『魔獣』。
以前見た大量の『魔獣』と比にならない巨大な漆黒の身体。
「ビヒィイッ!!」
『魔獣』『ミエド・ハバリー』。
巨大な猪がそこにいた。
『魔獣』の目の前で右腕から血を流してうずくまるカリマ。
そんな彼女を守るようにして立つデスペハード。
彼の左隣に駆けつけて、構えているサティス。
・・・まずいことになった。




