4歳 3
翌日。
朝早くに東の山の麓に集まった俺たちは、セドロからチーム分けを聞くことになった。
チームはデスペハードとカリマそれぞれをリーダーにした2チームで争う事になった。
『カリマ組』
班長 カリマ
副班長 ベンディスカ
班員 サティス
フェリス
ジュビア
『デスペハード組』
班長 デスペハード
副班長 ベンタロン
班員 ブリッサ
ビエント
アイレ
誰も文句を言わない良い采配だ。
さすがセドロ、よく見てくれている。
「ジュビア、かっこよくなったわね!」
とは、ジュビアを久しぶりに見たサティスの第一声。
生活時間が全く合わないため、顔を合わせていなかった2人である。
互いに成長していて驚いただろう。
皆それぞれで、丸っこい、不機嫌、不愛想、卑怯者、と言ったネガティブなイメージだったジュビアの変わりように驚いていたのは面白かった。
もちろん、俺だって驚いた。
遠くからではわからなかったが、近くで見るとなお驚く。
背がとても伸びて筋肉質。
ボサボサだった髪は短くなり、清潔感がある。
不機嫌そうな顔も、今では硬派と言えるようになっていた。
そして、全員が何より驚いたのはジュビアの第一声。
ジュビアを褒めたサティスの元に近づき、見下ろした。
全員が構える。
いくらサティスの背が伸びたとはいえ、ジュビアは13歳にして170センチ近くまで伸びているのだ。
そして、鍛え抜かれた体。
以前のように戦う事になったらサティスでも危ないかもしれない。
そう、皆が思い、身構えたのだ。
しかし、そういう事にはならなかった。
ジュビアが握手を求めたのだ。
「・・・あの日はすまなかった。俺は間違っていた・・・ありがとう」
サティスが首をかしげながら握手に答える。
「ううん?」
サティスは何に対する謝罪なのか、礼なのか、一つも理解していない様子だった。
まぁ、あの敗北でジュビア自身も思う所があったのだろう。
これは彼なりのけじめという事だ。
そんな彼らの様子を見ていたフードの青年ベンディスカ。
背が伸びていたが、150センチほどと小さく、それ以外は変わったところが見当たらない。
「・・・良かった」
だが、呟いた声は中性的な物の中に男性っぽさを感じさせるようになっていた。
そんなこんなで始まった今回の狩り勝負。
現在我が組は先程の討伐で20体目。
近くの川に猪を持っていき、セドロとブエンに血抜きを頼むことになっている。
血抜きの終わった猪は、他の手の空いている村民総出で喫茶店までもっていき、喫茶店件酒場の店主ベンタスとその妻のカッハが一緒に今晩、村民全員で食べられるように料理してくれている。
前世で言うちょっとしたお祭りだ。
後から聞いた話だが、セミージャさんが帰ってくることを喜んだ『プランターじいさん』が声をかけたらしい。
猪狩り対決をセドロから聞いて思いついたらしく、すぐに村中に声をかけたという。
どれだけ溺愛してるんだ。
いつもは仕事で忙しくしている村民も、今日は仕事を早く終えて祭りに参加するらしい。
カリマは猪を置いてすぐに別行動中の副班長、ベンディスカと班員、ジュビアの様子を見に行った。
サティスの折れてしまった剣の事は俺に頼んで行った。
「いやぁ、皆良い感じで成長してくれていて師匠は嬉しいぞ!!」
上機嫌で、持っている普通の真剣で素早く処理を行い、川で血抜きを始めたセドロ。
向こうでブエンが同じ作業をせっせと行っている。
俺は不安そうなサティスの手を握ってやる。
「あの・・・お母様」
「ん?なんだ?」
サティスは不安そうにしながら剣を差し出した。
先ほど川で洗ったため、腕も剣も血はついていない。
「・・・これは」
セドロの顔が強張った。
・・・怒るのか?
俺は何とか言い訳をしてみようとサティスの前に立つ。
「こ、これはだなセドロ。サティスは悪くなくて・・・」
「すごいぞサティス!」
・・・は?
俺は拍子抜けして固まる。
後ろのサティスを抱き上げて抱きしめる。
「え?」
サティスも驚いている。
「さすがは私の娘だ!今朝渡したばっかりなのにもう折ってくるとは!」
「折った!?」
血抜きを行っていたブエンが、朱色の1本結びを跳ねさせて顔を上げる。
そのまま駆け寄ってきた。
「ど、どうして?壊してしまったのよ?」
サティスは怒られるどころか、褒められてしまったので訳が分からないのだろう。
俺も分からない。
なんで褒めているんだ?
「ん?どうしてって、それだけサティスの力が強いって事だろ?」
「おいおい。まじかよ」
駆け寄ってきたブエンが壊れた剣を見て戸惑う。
「昨日作ったばっかりだぞ!?まったく、お前たちはどうしてそんなに簡単に折ってしまうんだ!」
ブエンが怒る。
「なっ!い、良いじゃねぇか!私たちが強いって事だろ!!」
「それはそうだが・・・剣の扱いにも気を付けてくれ。いくら量産が得意な私でもこう、何回も壊されると思う所があるぞ?」
サティスから剣の柄を受け取るブエン。
「剣士なら剣の扱いも気を付けてくれ・・・まったく、このままだといくら私の妹が作ったとは言え、お前の大切な剣が折れるのも時間の問題だぞ?」
柄を見ながらセドロにちくちく言うブエン。
「うぐぅ・・・だ、だがぁ」
セドロはたじたじである。
その様子にブエンがため息をついた。
「・・・はぁ。妹の剣よりもろい物しか作れない私も悪いんだがな」
しゃがんで、柄を持っていない右手を地面に置く。
「『錬金魔術』『簡易錬金』」
かざした手に朱色の光が灯る。
「『土から鉄』」
言うと同時に置いた手元の土が集まり、鉄の延べ棒になった。
「『錬金物加工』『簡易』『曲剣』」
呟くと鉄の延べ棒が形を変える。
それは、先ほどサティスが持っていた狩り用の曲剣になった。
「・・・すげえ」
俺は呟く。
『魔術』である。
出来上がった曲剣をサティスに渡し、セドロに向き直る。
「いいかセドロ。もっと強い剣を作れない私も悪いが、剣の扱いも剣士にとって大切な技術の1つだろ?確かに剣が折れるほどの力量は素晴らしい。だが、剣が折れてしまっては剣士では無くなってしまう。だから頼むぜ?サティスも気を付けてくれよな」
そう言って剣をサティスに渡して血抜きに戻っていくブエンだった。
セドロがあからさまに落ち込む。
「・・・くそう。言う通りだ。私もまだまだだな」
「ごめんなさい。お母様。私が剣を折ってしまったから」
「いいんだ。剣を折るほどの力は素晴らしんだ。簡単に折れてしまう剣だって良くないと私は思う・・・だけど、折らない技術が大切なのもまた事実」
セドロが少し考える。
「よし、サティス。お前はまだ何も考えるな!折らない技術は『剣舞術』を修めた後にしよう!」
「いいの?」
「良い!変に意識して、変な癖がつくのが一番不味い。だから、まずは『剣舞術』をしっかり修めるんだぞ!」
「わかったわ!」
サティスとセドロが気を取り直した。
切り替えが早くて感心する。
「よし、次に行くわ!」
サティスが気合を入れなおし、セドロの腕から飛び降りる。
降りたサティスはブエンの方を見て手を振る。
「ブエン!ありがとう!」
ちゃんとお礼が言える良い子なのだ。
「おう!次は気をつけろよ!」
もう怒ってはいないのだろう、いつもの快活な笑顔で手を振り返してくれた。
そんな彼女に駆け寄る黄緑マッシュルームヘアーの双子。
それぞれで1体ずつ猪を担いでいる。
「お!21体目だな!1体リードだ!」
ブエンの大きな声。
・・・1体負けている。
双子はブエンからリードしている事を聞いてこちらを見た。
「僕たち」
「1体」
「「多い」」
にやり。
双子のビエントとアイレが俺たちを煽るように笑った。
「な、なによあの顔~!!」
地団駄を踏むサティス。
「くそ!煽りやがった!負けねえぞ!!」
俺も気合を入れなおす。
サティスと2人、負けじと山へと向かったのだった。




